TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

ペンギンインストゥルメンツ株式会社 光と匂いの装置化を通して研究シーズを社会へ実装!~光加熱技術装置と匂い発生装置の開発~

ペンギンインストゥルメンツ株式会社は、「使用済みの注射器を溶融無害化する装置」を嚆矢とする「研究シーズを装置として実用化する事業」、「匂いを発生させる装置のオーダーメイド」を行っています。ハードウェアに求められる時代のニーズを汲みとり、研究シーズとの架け橋となる事業を推進し、よりよい社会に役立つさまざまな製品の企画・設計・開発に取り組んでいます。

仁衡琢磨/Takuma Nihira

仁衡琢磨/Takuma Nihira

ペンギンインストゥルメンツ株式会社 代表取締役社長。1997年にペンギンシステム株式会社に入社、2003年より取締役、2006年より代表取締役社長に就任。2010年に株式会社イデア設立、代表取締役社長就任。2015年に一般社団法人茨城研究開発型企業交流協会(IRDA)会長(代表理事)。2019年に株式会社イデアをペンギンインストゥルメンツ株式会社に商号変更。茨城県総合計画審議会委員、NHK放送番組審議会委員などの公職等を歴任。

ハードウェアへのニーズに応える企業として誕生

ハードウェアへのニーズに応える企業として誕生

― ペンギンインストゥルメンツ株式会社が設立された経緯を教えてください。

仁衡琢磨さん(以下、仁衡):

設立の背景には、1983年の創業から37年目となる兄弟会社ペンギンシステム株式会社の存在があります。ソフトウェア受託開発の会社で、主なお客様は研究所や大学の研究者の方々。最先端研究のためのソフトウェアをオーダーメイドで作り続けています。

私はそこでシステムエンジニアとして働き始め、2006年に代表取締役に就任しました。オーダーメイド受託開発を更に越えて共同研究開発契約を結び、研究シーズを実用化して社会に提供することも行ってきました。折角特許を取得したけれど眠ってしまっているアイデアを実装して世の中に出す、といった仕事です。そうした「シーズの実用化」「社会実装」というスタンスが評価されるにつれて「ハードウェアでも同様の事をしてくれないか?」という声を多く聞くようになりました。

そして11年前、つくばサイエンス・アカデミーのテクノロジー・ショーケースという研究展示会で、産総研の上級主任研究員である池田伸一さんにお会いしたのです。池田さんは光加熱に関する技術発表でベストアイデア賞を受賞されていて、「光加熱技術を社会に役立つものにして世の中に出してほしい」と声をかけていただきました。それまでも産総研とはペンギンシステムとして多数の案件に取り組んできておりましたが、本格的にハードウェアを扱うにはきちんと会社組織を立ち上げて行いたいと考えました。さらに、ソフトウェアとハードウェアが融合する時代が到来し、その集合した部分にこそイノベーションやビジネスチャンスがあるという確信もありました。この2つの思いをきっかけに、池田さんを技術顧問に迎えて2010年に当社を設立した次第です(創立当時の社名は株式会社イデア。2019年に現社名に変更)。

― その後、IoTをはじめとしたソフトウェアとハードウェアの融合が加速する時代が到来しますね。

仁衡:

当時の決断は正しかったと思っています。当社設立を第1フェーズとすると、開発の本格度が増して必要な設備を置くスペースの必要性や開発人員の確保などの課題が出てきたタイミングで、正式に産総研技術移転ベンチャーの手続きをして称号をいただいたのが第2フェーズ。産総研西事業所に開発室を新設して開発を一段階スピードアップさせ、光加熱技術を応用した装置、匂いに関する装置などの実用化を進めています。

光加熱技術を医療廃棄物処理へ応用、匂いの市場にも展開

光加熱技術を医療廃棄物処理へ応用、匂いの市場にも展開

― 光加熱とはどのような技術ですか?

仁衡:

古くからある技術で、光を物に当てると光が熱に変わり、対象物が温まるというのが基本原理です。この単純な原理をより効率化するために反射鏡集光という技術が多く使われます。

最大のメリットは、反射鏡で光を一点に集めることで、小さなエネルギーで高温を実現できること。例えば500W程度で1,500度の高温を実現できます。また、非接触でも真空中でも加熱でき、導入・運用コストが安価で、周囲への熱影響が少ないことも強みです。

― 応用先の分野や展開についてどうお考えですか?

仁衡:

まず既に応用されている分野として半導体製造時の薄膜工程や、半田付けなどが挙げられます。これら既に利用されている分野を見ても判りますが、光加熱には向き不向きがあります。光は物体の表面で熱に変わりますのであまり厚みを持つものには向いていません。逆に表面だけを加熱して、奥は熱したくないといった用途には非常に強みを発揮します。そういった特性を活かせる応用先の分野を順次開拓していきたいと考えております。

その手始めに、自社製品として使用済注射器溶融無害化装置「ひかり」を製品化しています。これは使い終わった注射器をその場で溶かして害のないものとする装置です。光集光加熱の原理を使って省エネルギーで注射針を溶かすために必要な高温を実現しています。また針部分のみならず、プラスチック部分のシリンジも同時に溶融無害化する機能を有します。針だけを処理するのは従来の他社製品でも可能でしたが、シリンジも同時に処理できる装置はこれまで世界に存在しませんでした。

実は池田さんが光加熱技術の応用先としてすでに試作されていたのですが、反射鏡を動かすことで注射器全体を処理する方式のため機器が大型になってしまっていました。「ひかり」は特許出願中の新しい解決方法で針とシリンジの同時処理を実現し、また1本の処理に1分かかっていた時間を約10秒に縮め、持ち運びできるようダウンサイズ化を図り、操作もシンプルという点が強みとなっています。処理後の注射器の無害化についても第三者機関に検査していただき、99.9999%無害化できていることを確認しています。

使用済注射器溶融無害化装置「ひかり」

約10秒で針とシリンジを同時に溶融無害化処理できる

市街地の一般的な病院では回収業者が回収を行うためこの装置の必要性は低いですが、島嶼部や山間部、パンデミック発生地、被災地、発展途上国などでの利用に供するために開発しました。使用済注射器を誤って看護師等が自分に刺してしまう二次感染問題の解決、長期間使用済の注射器を保管することによる病原菌の飛散防止といったメリットがあります。現在各種機関と今後の展開についてご相談をしているところです。

― もう一つの装置である匂いに関する技術について教えてください。

仁衡:

開発のきっかけは、県の産業支援関連の部署の方に、産総研の上級主任研究員である小早川達さんをご紹介いただいたこと。研究成果を世に出すべくご自身で試作されていた時期で、市販製品化できる企業を探されていました。ペンギンシステムが中心となり、私が代表理事を務める一般社団法人茨城研究開発型企業交流協会(略称:IRDA)の会員企業であるものづくり企業複数社の協力も受けながら、当社も装置設計・部材手配・試作品開発等で参加し、嗅覚検査装置を製品化しています。

嗅覚障害の検査は医療的な手順が決まっていて、測定用の液を浸した紙を鼻の前で振って嗅ぐという非常にアナログな方法が何十年もとられています。それを装置化し、子細に調べる精密検査で使用いただけるよう、世に出すために必要な手続きをはじめています。

この医療向け用途はペンギンシステムが中心になって進めていますが、医療向け以外の匂い発生ニーズへの対応は当社で実施していきます。匂いの種類を何種類とするか、濃度は何段階でコントロールするか、といったカスタムメイドが可能。任意の匂いを濃度コントロールしながら好きなタイミングで出すことができ、周辺環境への影響も無い匂い発生装置をご提供します。

他の五感に比べて匂いは今まで市場での応用・利用が進んで来なかった分野です。たとえば工業製品が発する匂いの確認試験、味と匂いの関係性など、今後ますます掘り起こされるニーズに合わせた展開を見据えています。

嗅覚検査装置

匂い発生装置

研究シーズと市場ニーズのインターフェースになる

研究シーズと市場ニーズのインターフェースになる

― 事業の推進にあたって、大切にされていることは何ですか?

仁衡:

さまざまな研究開発が実際に世に出て役に立つに至る確率は決して高くありません。私たちはこれまで、請負業務で技術を実用化して納品することや、共同開発研究による製品化を通して、研究所や大学にフィードバックしてきました。その中で、研究者と市場との間には大きな溝があると感じています。研究のシーズと世の中のニーズの架け橋となる事業を、ソフトウェアの分野ではペンギンシステムで提供してきましたが、ハードウェアの分野でも提供したい。それが当社の理念です。研究者と市場、両者のインターフェースとなり、研究者の引きだしに眠ったままになってしまうかもしれないアイデアや技術を現実の装置にし、社会に提供していくことを使命としております。ベンチャーとしては異彩かもしれませんね。

メッセージ

― 今後の事業展開における課題と将来の展望を教えてください。

仁衡:

「シーズの実用化」を第一の柱として、研究開発分野における新規装置開発を推進していきたいと思っています。そしてこの「シーズの実用化」の実例である他二つの柱、第二の柱である光加熱技術応用事業、第三の柱である匂い発生装置事業も一層事業を推進していく考えです。特に後者二つの事業はいよいよ本格的に製造販売をしていくフェーズとなっており、このフェーズにおいて事業を進める上での課題が二つあります。一つは資金面。装置製造には人件費以外に材料費・加工外注費・輸送費等が先行して発生するため、必要な資金を調達する必要性があります。もう一つは人材の増強です。開発のスピードアップや第四第五の新しい柱を築くには必須であり、資金調達と合わせて進めて行きたいと思っています。

ただ、むやみに事業や会社の規模を拡大したいという思いはありません。それよりも、たとえば匂い関連装置のように前例がない製品を世に出したとき、それが世界中で必要とされて使われるというような、市場におけるスケールを広げていきたいと考えています。その状況をイメージして、あくまでも開発に特化した会社という立場で今後の事業推進に邁進していく所存です。

※本記事内容は平成31年3月31日現在のものです。

ペンギンインストゥルメンツ株式会社
本社:〒305-0047 茨城県つくば市千現2-1-6 つくば研究支援センター CB9
開発室:〒305-8569 茨城県つくば市小野川16-1 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 西事業所内
医療事業推進拠点:〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町1-6-5 国際医療開発センター(IMDA)内
https://www.pi-inc.co.jp

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