TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

日本が誇る「糖鎖」研究でバイオ医療にパラダイムシフトを!
「糖鎖バイオマーカー」技術の実用化

細胞やタンパク質の表面に存在する「糖鎖」の合成・解析技術において、日本は世界をリードしている。グライコバイオマーカー・リーディング・イノベーション株式会社(GL-i)は、疾患の状態により変化する糖鎖のメカニズムを利用した「糖鎖バイオマーカー」による臨床検査薬や治療薬の研究開発を通して、バイオ医療分野でのパラダイムシフトを目指している。

竹生 一行/Kazuyuki Take

竹生 一行/Kazuyuki Takeo

グライコバイオマーカー・リーディング・イノベーション株式会社(以下GLi社)代表取締役CEO。1982年神戸大学大学院農学研究科修士課程修了後、鐘淵化学工業(現 カネカ)株式会社入社。その後、技術コンサルタントとして株式会社KRIへ入社、産総研イノベーションズ、産総研ベンチャー開発センターを経て、糖鎖研究の有望性に着目、2015年3月に当社を設立。

久野 敦/Atsushi Kuno

久野 敦/Atsushi Kuno

GLi社 取締役CTO。学術博士(PhD)。産総研創薬基盤研究部門 上級主任研究員。1998年筑波大学大学院後期課程中退後、山形大学理学部生化学教室(長谷川典巳教授)の助手を経て2003年より産総研に移り、平林淳氏、内山昇氏とのレクチンアレイ開発から、マーカー探索に威力を発揮する方法を創り、肝線維化マーカーM2BPGi(2015年に保険収載)を発見。仲間との永続的な研究開発を望み当社設立を決意。

より精密で簡単な臨床検査を実現

「より精密で簡単な臨床検査を実現」

― 「糖鎖」を使った臨床検査技術とは、どのようなものなのですか?

竹生 一行さん(以下、竹生):

糖が鎖状に連なっている糖鎖は、おもに細胞やタンパク質の表面に見られ、細胞同士が連絡を取り合う際に機能すると考えられています。病気などが原因で細胞の状態が変化すると、特定の糖鎖の形が変化することが分かっています。このような特性を持っているものを「糖鎖バイオマーカー」と呼んでいます。
従来の臨床検査で行われていた血液検査は、壊れた細胞から血液中に出てくる物質を調べていたため、確定診断をするのが難しく、時間もかかりました。しかし、病気の細胞表面にある糖鎖を調べることで診断はより精密かつ簡単になります。現在、肝炎や肝硬変の進行の程度を調べる肝線維化臨床検査薬が実用化されていますが、弊社では他の疾患に関しても臨床検査薬の研究開発を着々と進めており、将来的には様々な病気の治療薬の開発も手がけることになるでしょう。

「糖鎖の研究開発は日本の“お家芸”」

「糖鎖の研究開発は日本の“お家芸”」

― 「糖鎖」の研究開発に目を付けられたきっかけは?

竹生:

私はもともと総合化学メーカーでバイオ研究に携わる研究者でした。その後、産総研の研究成果をライセンスする産総研TLOに転職した際に、産総研の研究者の方から「気の弱いマウス」の話を聞きました。この「気の弱いマウス」は、ある糖鎖遺伝子を壊すことでそのタンパク質の機能を知る「ノックアウトマウス」の実験から生まれたものです。集団の中で引きこもってしまうこのマウスは一種の精神疾患であり、つまりその原因に糖鎖の一つが関わっている…その事実に私は大きな感動を覚え、すっかり「糖鎖」に夢中になりました。やがて産総研で「糖鎖」を研究していた久野と出会い、話をしてみるとすでに神戸の医療関連機器メーカーで肝線維化の進行度合いを検査する「糖鎖バイオマーカー」を共同開発したというではありませんか。それはすごい!と思いました。そしてこの唯一無二の技術開発をぜひ産総研ベンチャーで事業化しようと思ったのです。

久野 敦さん(以下、久野):

竹生と出会った頃、私は産総研「糖鎖医工学研究センター」の研究スタッフの一人でした。さらにさかのぼった2002年以来、NEDOのプロジェクトとして、成松久プロジェクトリーダーのもと、糖鎖に関わる諸研究が精力的に進められており、その成果の集大成として「糖鎖バイオマーカー」を使った臨床検査薬の開発に至りました。もともと日本は糖鎖に関しては“お家芸”と言われるほど技術の蓄積があったのですが、世界最先端をいく技術開発でさらなる高みを目指していたのがこのNEDOプロジェクトでした。
また、産総研はこうした研究成果の社会還元を果たすためにコンソーシアムという形で技術移転を目指す糖鎖産業技術フォーラム(GLIT)という枠組みを作り、企業を集めて私たちの研究開発に関する啓発活動などを展開していました。

竹生:

従来のバイオ研究の中心課題はタンパク質であり、糖鎖はあまり注目されていませんでした。しかし、GLITが大阪で開催したセミナーに参加してみると、国内にあるほとんどの製薬会社から200名を超える担当者が集まり「糖鎖」への関心の高まりを肌で実感できました。
糖鎖研究の大きな魅力は、日本が世界をリードしているということです。糖鎖に関わる特許出願数は、米国などに比べても日本が圧倒的に勝っています。しかも出願特許の多くは産総研のものです。それだけ産総研の糖鎖研究は世界的に見ても層が厚く、中身が濃いと言えるでしょう。
なぜ日本が糖鎖研究をリードしているのかと言えば、もちろん前述の成松先生と産総研の尽力が大きいのですが、私は古来より緻密な工芸美術を残している日本人の国民性も関係しているのではないかと思っています。糖鎖の研究には伝統工芸のような「緻密な和の感性」が必要なのだと思います。弊社CTOの久野もそうした感性を持つ研究者であり、海外の人々がこの技術を真似ようとしても難しいのではないかと私は思います。

久野:

今の話に付け加えますと、糖鎖研究の個々の分野で名人級の素晴らしい技術を持っている人たちが産総研に集約されて、さらにそこから成松先生が新しい技術に展開していったという構図でしょうか。成松先生のリーダーシップのもと産総研の糖鎖センターは、従来からの研究の蓄積に質量分析やマイクロアレイなど2000年代になって劇的に伸張した技術を組み合わせて「糖鎖タンパク質解析のプラットフォーム技術」を確立しました。弊社の基盤を成しているのも「糖鎖バイオマーカー」を生んだこのプラットフォーム技術です。

「事業の基盤はプラットフォーム技術とレクチンマイクロアレイ」

「事業の基盤はプラットフォーム技術とレクチンマイクロアレイ」

― 産総研ベンチャーとして2年目を迎えた現在の取り組みを教えてください。

竹生:

産総研では最初にご紹介しました肝線維化の臨床検査薬以外に、10種類くらいの疾病に対応する糖鎖バイオマーカーの候補が見つかっており、それを私たちの方で着々と臨床検査技術の実用化を進めています。たとえば昨年、産総研は慶應義塾大学病院との共同研究でリウマチのターゲットマーカーを見つけました。通常は何年もかかるターゲットマーカーが、産総研のプラットフォーム技術を利用してたった半年で見つかった。これには慶応の先生方も驚かれたことと思います。
このプラットフォーム技術で疾患ごとの研究開発をシステムとして体系的に進めることができるのは、世界でも産総研と技術移転ベンチャーの弊社だけです。さらにもう一つ、久野が開発に携わった糖鎖の構造をプロファイリングする技術=「レクチンマイクロアレイ」は、「糖鎖バイオマーカー」開発のコア技術で、これも唯一無二のものです。

久野:

糖鎖の構造をプロファイリングするために、糖鎖に結合するタンパク質の総称であるレクチンに、測定するプローブ(探針)の役割を与えた解析技術がレクチンマイクロアレイです。レクチンという物質は、ヒト、その他動物、バクテリアのほかに、豆、トマト、ジャガイモなど私たちの身近な植物内にも存在する分子です。このレクチン約40種類ほどを一つの基板に並べて、そこに分析対象物である糖タンパク質をのせ、結合の様子を調べることで糖鎖の構造を知ることができます。

竹生:

久野はさも簡単そうに説明しましたけど(笑)、糖鎖のプロファイリングはまさに「緻密な和の感性」が必要不可欠な作業で、得られたデータも非常に細かいので読みこなすのが大変です。他者がこのレベルに達するまでには、相当の時間がかかるでしょう。しかし、すでに米国も糖鎖関連の研究開発に本腰を入れ始めています。数年前、米国食品医薬品局(FDA)が、レクチンマイクロアレイの機器を購入しました。また、昨年1月、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)と米国国立衛生研究所(NIH)が協定を結び、その共同研究テーマの一つに糖鎖生化学が入っています。
黎明期にある糖鎖関連の研究開発において私たちは基本特許を得ることができる立場にいますが、うかうかしているとバイオ大国の米国や、いま最も勢いのある中国に追いつかれてしまうかもしれません。現在創薬分野の対米赤字は莫大ですが、今後の展開によっては糖鎖関連の研究開発では逆に米国からお金が流れてくるようになるでしょう。

「20年後には中学や高校の教科書に『糖鎖』が載っているはず」

「20年後には中学や高校の教科書に『糖鎖』が載っているはず」

― 今後は臨床検査薬だけではなく、治療薬創薬も手がけていくのですか?

久野:

現在取り組んでいる臨床検査薬に比べて、将来的に手がける治療薬開発はかなり難易度が高いのは事実です。たとえばAMEDでは5年間の新規大型プロジェクトをつくり、昨年9月からスタートしており、いずれ欧米に負けない創薬技術が日本から生まれることが期待できます。現状は診断薬開発となりますが、社長の竹生が事業の舵取りをし、CTOとして私が下支えして、これからもみなさんに使っていただける特徴ある技術を生み出していきたいと思っています。

竹生:

私はいま61歳ですが、今後20年はこの仕事をするつもりです。現在、わが国では医療費が国家財政を圧迫していますが、糖鎖を使った臨床検査薬と医薬品で、病気が重篤化する以前の早期に予防措置を取ることができ、ゆくゆくは医療費の大幅軽減ができるでしょう。糖鎖で世の中は確実に変わります。バイオ医療の分野で遺伝子、タンパク質に続くパラダイムシフトを起こすこと…それが私たちの大きな目標。20年後、中学や高校の教科書に「遺伝子」「DNA」と並んで「糖鎖」が載っているはずですよ。

「事業を支えているのは女性研究者の活躍」

「事業を支えているのは女性研究者の活躍」

― 御社では女性の研究員が多く働いていますね。女性の雇用に積極的なのですか?

竹生:

はい。バイオ研究の技術はなかなか習得するのが難しいもので、現在の弊社の女性研究員の多くは産総研で久野が在籍していた糖鎖センターで研究開発に携わっていたエキスパートです。半数以上には小さなお子さんがいますので、裁量労働制で彼女たちが働きやすい労働環境を整えています。世の中には優秀なのに結婚や出産で仕事から離れてしまう女性研究者や技術者が少なくありません。私たちのようなベンチャーが先ほど申し上げたパラダイムシフトを起こすためには、そうした女性たちの力を借りることが必要不可欠と考えております。女性のきめ細かい仕事ぶりは、繊細な感性が必要な糖鎖研究にもフィットしていると思います。興味を持たれた女性研究者の方は、ぜひ弊社の扉を叩いてみてください。

産総研内にあるGL-iでは女性研究者が多く活躍しており、子どもを持つ女性でも働きやすい環境を整えている

世界トップクラスの糖鎖の解析技術は、海外からも注目されている。

※本記事内容は平成29年1月6日現在の情報に基づくものです。

グライコバイオマーカー・リーディング・イノベーション株式会社
〒305-8568
茨城県つくば市梅園1-1-1
中央第二 2-12棟
http://www.gl-i.co.jp/

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