TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

ロボティック・バイオロジー・インスティテュート 熟練研究者の技をロボットが再現 〜「まほろ」がバイオビジネスを変える〜

バイオ関連の技術開発や研究ではさまざまな実験が欠かせない。研究者はそのための準備や煩雑な手順に時間を取られているのが現状だ。そこでロボティック・ バイオロジー・インスティテュート(以下RBI社)では実験を行うヒト型汎用ロボット「まほろ」を開発した。これは単に人の作業をロボットに置き換えるだけではなく、それ以上の価値を生むという。

髙木 英二/Eiji Takagi

髙木 英二/Eiji Takagi

ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社 代表取締役。1997年にスウェーデンの分子間相互作用を解析するシステム「ビアコア」の日本法人を設立。その後もバイオ業界で装置関連企業の社長や取締役として活動したあと、2011年にコンサルタントとして独立。20年来の縁がある夏目徹からヒト型汎用ロボット「まほろ」の開発を聞く。その可能性に惚れ込み、2015年6月RBI社を設立。

夏目 徹/Toru Natume

夏目 徹/Tohru Natsume

ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社 取締役CSO。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター 研究センター長。医学博士。1993年京都大学で学位を取得後、京都大学医用高分子研究センター、東大医科研、東京都立大学などで経験を積む。タンパク質の研究 を進める際に、実験工程を自動化するロボットの必要性を痛感。2015年6月RBI社を設立。

実験の自動化で研究の生産性向上

「実験の自動化で研究の生産性向上」

― まほろを開発された経緯をお教えください。

夏目徹さん(以下、夏目):

私はもともとタンパク質の研究者です。それまでは一生に1タンパク質を究めればよかったのですが、計測や分析ツールが進歩したおかげで一気に1万や2万というスケールでタンパク質の分析ができるようになりました。しかし実験自体は人海戦術に頼る旧態依然のままです。そこで考えたのが実験を自動化できるロボットの製作でした。

当時はロボットといえば産業用ロボットか、おもちゃのイメージしかありません。ライフサイエンスで活用するロボットといっても初めは誰も話を聞いてくれませんでした。メーカーにとっては市場がニッチ過ぎて採算が取れないと判断されたからです。しかし経済状況やロボットを取り巻く環境が変わって非産業用ロボットが注目されるようになり、安川電機と一緒に作り上げる体制が整いました。

髙木英二さん(以下、髙木):

バイオ業界は導入品が多く、日本発で世界に出ることはなかなかありません。だから日本から世界標準のビジネスモデルを作りたいという思いがありました。以前から実験の自動化を研究されていた夏目先生がロボット展に出展していた安川電機に相談されたのがきっかけです。まず誕生したのが初代ヒト型汎用ロボットの「あずみ」で、さらに進化させたのが「まほろ」です。

― ヒト型汎用ロボット「まほろ」は人間と同じ双腕構造が目を引きます。
研究室ではどんな働きをするのでしょうか。

髙木:

従来はロボットを使うといっても1装置1工程しか自動化できず、現場では工程ごとに組み合わせて使っていました。人間なら1人ですむ作業でも数台の装置が必要です。これでは場所を取りますし、工程が不要になったとき装置ごと取り替えなければいけないので汎用性がなく非効率的です。

そこで人間と同じ双腕のロボット「まほろ」を開発し、1台で人と同じ動きができるようにしました。ビーカーを持ち上げて振る、装置のフタの開閉を行う、ピペットで試薬を投入するなど、ミリ単位・秒単位で人が行う実験作業を設定できます。そのために熟練の研究者の技を数値化し、プロトコルに落とし込んで汎用化しました。

夏目:

技術というのは、どこで誰がやっても再現でき、かつ一定のクオリティが標準化されていなければいけません。「まほろ」を使えば、今まで個人の能力に頼っていた実験の質が高いレベルで担保されます。

髙木:

過去、2人の研究者が2年間行った実験では毎回異なるヒット化合物が検出され、もう失敗だろうと考えられていました。ところが同じ実験をロボットが行ったところ1週間でヒット化合物が検出され、何度試しても結果が同じだったんです。実験期間が短期間で判明し、それまで失敗かもしれないと思っていた研究が成功した。これはバイオの世界では相当のインパクトです。製薬企業の創薬に役立てれば多くのバリューを生み出せます。

二の腕をひねる関節が通常の産業用ロボットより多いので、周りが狭い環境でも周りにぶつからず仕事ができる

双腕形7軸アーム構造により人間と同じように器用でなめらかな動きができる

「人にしかできないこと以外はロボットに任せる」

「人にしかできないこと以外はロボットに任せる」

夏目:

一見、人が行うことをそのままロボットに置き換えたと思われてしまうのですが、実は「まほろ」にはもっと大きなビジョンを託しています。

一たとえばこれまで何十人かで行ってきた大規模な解析実験をすべて「まほろ」に任せられたらどうなるか。まず、研究者たちは単純な実験作業から解放されます。ロボットなら最適な方法を24時間くり返すことができ、人的ミスや技術差を生まずに精度の高い結果を得られます。

また研究の現場では中堅どころの女性研究者が離職してしまうケースがよくあります。出産や子育てと研究は両立できないと考えて家庭に入るからですが、これは研究活動にとって大きな損失です。でも「まほろ」があれば、彼女たちは家で子育てをし、1日3時間ほどの勤務でこれまでと同等かそれ以上の密度で実験を行えるようになります。男性でも同じです。単純作業を「まほろ」に任せ、空いた時間を研究や構想という創造的作業にあてられます。

今、1人の研究者に1台のPCは当たり前です。将来は「まほろ」も同じくらい研究者に欠かせない装置になってほしいと思います。「まほろ」で実験の設定をして家に帰り、家族や子どもと楽しく時間を過ごす。タブレットで実験を管理して、出勤後に実験結果からさらなる思索を進める。そんな創造的な時間を作る存在をめざしています。

「ロボットの特性を最大限活かす」

「ロボットの特性を最大限活かす」

髙木:

近い将来、地球上に「まほろ」が20〜30台あるロボットセンターを作り、ファブレス・ラボレスの研究者たちのインフラとして使ってもらう予定です。ゆくゆくは大学生は勿論、中学生や高校生も使える施設にしたいですね。飛び抜けた若い発想を生み出すことは大きな革新につながると思うからです。

今年6月25日には日本科学未来館で、バイオ系実験の自動化を推進するシンポジウム「Robotics and Semantic Systems for Biology 2016」を開催します。ライフサイエンスの研究者だけでなく、社会学や言語学、AIや経済の専門家にもこのプロジェクトに関わってほしいと考えています。

夏目:

私たちがRBI社を立ち上げたのは、さまざまな分野からこのプロジェクトに参加できる「器」を作りたかったからです。特定の企業色がついていないみんなの組織で、ロボットと人間が正しく助け合える社会をめざす。それがRBI社の目標です。

未来の予想をすると「人は仕事をロボットに取られて失職する」などネガティブな話が出てきます。でも、人間は創造力が求められる部分を担い、それ以外をロボットにサポートさせる住み分けができれば明るい未来を描けるのではないでしょうか。私たちはロボットによって個人の生産性を飛躍的に高められると思っていますし、そのための活動を始めています。このビジョンに共鳴してくれる人をさらに増やしたいですね。

※本記事内容は平成28年4月22日現在の情報に基づくものです。

ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社
〒135-0064
東京都江東区青海2-4-7
産業技術総合研究所 臨海副都心センター別館6階
https://rbi.co.jp/

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