TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

株式会社ジェイタス 1時間の遺伝子検査が8分で完了 〜現場で菌やウイルスを確定できる〜

近年、インフルエンザやノロなどのウイルス性感染症、大腸菌やO157など菌による感染症が話題になっている。医療現場では感染を抑えるために早急な原因確定が必要だが、現在はその場での判定に至らず、採取したサンプルを遠く離れた検査機関に送らなければいけない。そこでジェイタスは通常1時間かかる遺伝子検査を8分で完了するプロセスを開発。持ち運べるほど小さな装置で超高速検査を実現させた。

古市 丈治/Joji Furuichi

古市 丈治/Joji Furuichi

株式会社ジェイタス 代表取締役社長(※取材当時)。流通業界を経験した後、ベンチャー企業のスタートアップ事業を手がける。これまでも大学発ベンチャー、企業内ベンチャーなどの事業化に成功。2014年に国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)のベンチャータスクフォースを通じて永井秀典氏が開発した遺伝子検査法に出会う。この技術を一般でも使えるようにするべく2015年1月ジェイタスを設立。

永井 秀典/Hidenori Nagai

永井 秀典/Hidenori Nagai

株式会社ジェイタス 取締役CTO(※取材当時)。産総研主任研究員。北陸先端科学技術大学院大学材料工学研究科博士課程を修了。産総研で主任研究員に。一貫して、微細技術を扱う材料工学と遺伝子を扱う生物工学が融合する分野で研究を進めてきた。ピコリットルスケールからでも可能な遺伝子増幅技術や、試料の反応サイクルを高速化する仕組みを確立。2015年1月ジェイタスを設立。

遺伝子検査装置「GeneSoC®(ジーンソック)」

遺伝子検査装置「GeneSoC®(ジーンソック)」

「ウイルス・菌の検査時間が大幅に短縮」

― ホームページでは持ち運び可の遺伝子検査装置「GeneSoC®(ジーンソック)」が紹介されています。
この装置はどんな点が画期的なのでしょうか。

永井 秀典さん(以下、永井):

従来の装置より飛躍的に短くなった検査時間と小型化がポイントです。一般的なアタッシュケースより一回り小さいので、ご覧になった方はそこで驚かれますね。

医療現場に限らず、公共スペースや交通機関でもインフルエンザやジカ熱、またO157などの感染者がいたら早急に有効な処置をしなければいけません。このとき必要なのが原因ウイルス・菌の特定作業です。特定作業には世界的に確定診断法として認められているPCR法を使います。これは、ウイルスや菌を保持している可能性があるサンプルから、目的の遺伝子を増やすという方法です。陽性ならその過程で対象遺伝子が増幅するので感染しているとわかります。従来はこの作業に時間がかかっていました。

まず検査装置が大きいこともあり、検査の現場であるクリニック等では検査できず、検査機関に送るというタイムロスがあります。それに検査機関でサンプルをセットしても遺伝子が検出できる量に増えるまで1時間程度必要です。この検査の往復で半日は費やしていました。

古市 丈治さん(以下、古市):

その点、「GeneSoC®」のPCR法はスピードが格段に違います。独自の特許技術で遺伝子が増幅する時間を10倍近く早めました。これなら通常のサンプル量でも8分ほどで対象遺伝子が検出できるのでその場で判定できます。また、小型化したのでどんな現場でも持ち運んですぐに対応できます。増幅した遺伝子が量的に確認する蛍光検出器で定量的判断ができます。

持ち運び可能な遺伝子検査装置「GeneSoC®(ジーンソック)」

左:GeneSoC®(ジーンソック)
右:新型 GeneSoC®(ジーンソック)

「従来プロセスの省力化と新しい手法の融合」

「従来プロセスの省力化と新しい手法の融合」

― 1時間を8分に短縮したのはすごいですね。
どんなシステムでそれが可能になったのでしょうか。

永井:

遺伝子を増やすには、DNAを100℃近い高温と50℃近い低温という温度域に交互に晒さなければいけません。まず高温でDNAの2本鎖を引き離して1本鎖にします。低温にすると2本鎖に戻ろうとするのですが、そのとき「プライマー」という小間切れの“遺伝子のタネ”が先につくようにして、再びらせん構造に復元されることで鎖の本数を倍に増やすのです。

高温と低温の間で1往復するのを「1サイクル」といいますが、30サイクル以上行ってやっと遺伝子が検出できる量に達します。従来のPCR法では、この反応をいかに高速でくり返すのかが課題でした。

古市:

従来は、試料の入った容器をヒーターで温めて、次に冷やしてといった仕組みが使われていました。しかしこの方法では1反応サイクルだけで数分かかってしまいます。

永井:

そこで思いついたのは、幅10 cmに満たない短い流路を作り、その両端に高温帯と低温帯を設置する方法でした。これなら短い区間を単純に試料のみ往復させるだけで従来と同じ反応が生まれ、高速化も簡単です。8分という驚異的な速さもこの仕組みによるものです。反応場自体を小さくできたので装置の小型化も可能になりました。

古市:

従来のプロセスから複数の工程を省き、新しい手法と組み合わせた工夫で特許を申請しました。試料を流すプレートチップを毎回入れ替えれば洗浄作業もいりません。高速な検査装置は他にもありますが、PCRの高感度と速度を両立できるのはジェイタスの技術だけです。

「病院や空港など応用分野は様々」

「病院や空港など応用分野は様々」

― 手軽にウイルスや菌の有無をチェックできるのは便利です。
今後はどんな分野で応用できそうですか。

古市:

まずPCR法を利用している医療・研究機関や大学に「GeneSoC®」を広めていきます。PCRは既に医療や研究目的で使われ、認められた技術です。しかし、検査にかかる時間が最大のネックとなり、臨床を始め本当に検査結果を早急に必要とされる現場で使われていない、といった現状があります。このような現場への導入が急務だと考えています。現行のプロトタイプはサンプル出荷として300万円で提供しています。これまでインフルエンザ、ノロ、大腸菌、O157、結核菌などの検査キットの使用実績がありますので、ニーズに応じてこれから増やしていくことが可能です。

永井:

お客様からは産業用途でも役に立てると教えてもらいました。たとえばある洗剤メーカーでは出荷前に菌の有無を調べるのですが、検査に時間がかかるので検査待機用の倉庫が必要だそうです。しかし「GeneSoC®」で即時検査が可能になれば検査待機としてのストックは不要になり、大幅にコストが減ります。必要な菌と不要な菌も分けられるので、食品工場、特にお酒や乳製品を扱う企業でもすぐ活用できるのではないでしょうか。

古市:

介護施設や学校等の集合施設でも、インフルエンザや結核菌が感染初期段階で特定できます。システムとして利用すれば遠隔医療にも応用可能です。今の遠隔医療は画面を通じて対面するだけですが、これなら正確な検査データに基づいて診察できます。

永井:

産総研での開発時、バイオテロ対策として研究開発が始まりましたが、現在は鳥インフルエンザの特定作業についても、各研究機関との連携が始まりました。現場の獣医師が判断できれば拡散が素早く防げるので、装置のスピードと感度に注目いただいています。開発当初の目的から、実現可能な計画として、空港や商業施設などの空調設備と組み合わせて有害な物質を検知するシステムへの転用も検討しています。

中央は代表取締役会長の北川全氏

中央は代表取締役会長の北川全氏
製薬企業にてバイオ医薬品の開発に従事。その後、バイオ投資専門のベンチャーキャピタリストとして投資、起業支援を手がけ、投資先であった再生医療ベンチャーの代表取締役社長を歴任。二年前に産総研スタートアップアドバイザーに着任し、本タスクフォースのプロジェクトリーダーとして株式会社ジェイタスの起業を手がけた。現在は同社ではアライアンス交渉を担当している。

「体温計のように誰もが使えるように普及させたい」

古市:

起業するにあたって目指したのは、研究室など限られた場所でしか使えなかった技術を一般でも活用できるようにすることです。誰でもどこでも使えるとなれば新しい用途や産業が生まれるはずです。やみくもに最高水準の装置を追求するのではなく、大量生産できる材料、くり返し使えるコスト、家庭用電源で使える性能を考慮して開発しています。

「GeneSoC®」は検体別に分析ができる機能を持っています。8〜96検体同時でしか扱えなかった従来機との違いもお客様からお教えいただきました。現場での使い勝手や実情はお客様が一番知っています。もっと使いやすくするためにいろんなご意見をいただければ嬉しいです。

永井:

夏以降は医療機器として認可をめざす卓上タイプと、さらに小型化を進めたハンディタイプのリリースを予定しています。この技術は汎用性を高めれば家庭でも使える製品になり得ます。血圧計や体温計のように、家でのウイルスチェックが当たり前になるくらい普及させるのが目標です。

※本記事内容は平成28年3月7日現在の情報に基づくものです。

株式会社ジェイタス
※杏林製薬(株)の全株取得により同社の子会社化(2017/07/03)のち吸収合併(2017/09/30)されました。

千代田区神田駿河台4丁目6番地
http://www.j-tas.jp/

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