TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

株式会社ミライセンス あたかもモノが 存在するかのような感覚!〜身体性・体感のデジタル化 〜

視覚や聴覚を利用したバーチャルリアリティ(VR)技術は世界中で研究され、行き着くところまで行ってしまった。
そこでさらにリアルな感覚を呼び起こす要素として注目されているのが、産総研が発明しミライセンスが事業化を進めている「3D触力覚技術」だ。
小さな装置で「あたかもモノが存在するかのような手触り、重さ、抵抗感」を再現できる技術は国内外で注目を集めている。
この「触力覚」を極めると未来はどこまで広がるのだろうか。

「脳を錯覚させて、感触を表現」

香田 夏雄/Natsuo Koda

株式会社ミライセンス コファウンダー・代表取締役。1993年株式会社ソニー木原研究所に入社後、3次元コンピュータグラフィクス技術やVR技術の研究開発に従事。2007年ソニーを退職後、3DCG、ロボティクス、医療映像などさまざまな技術系ベンチャーの起業に参画する。2014年4月ミライセンスを設立。

「脳を錯覚させて、感触を表現」

中村 則雄/Norio Nakamura

株式会社ミライセンス ファウンダー・取締役CTO。工学博士。1995年通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所入所、VR・情報工学・脳科学・人間工学・医療福祉分野での研究開発に従事。産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門を経て、人間情報研究部門 人間環境インタラクション研究グループ主任研究員。2014年4月ミライセンスを設立。

「脳を錯覚させて、感触を表現」

「脳を錯覚させて、感触を表現」

― 10月に開催されたCEATEC JAPAN 2015では独自の「3D触力覚技術」が審査員特別賞に選ばれました。
これはどのような技術ですか。

香田 夏雄さん(以下、香田):

僕らがモノに触れるときは、皮膚や筋肉を通して「表面がざらざらしている」「強くつかむとへこむ」「少し重い」などの感覚を得ています。ミライセンスの「3D触力覚技術」は、小さなデバイスの振動だけでこれらの触覚と同じような感覚を人間に与えられるものです。デバイスに触れると振動の刺激が手に伝わって最終的に脳に行き、脳が錯覚を起こし「引っぱられている・押されている」「柔らかい・硬い」などを判断します。そのため何もないところでも手が「引っぱられている」「柔らかいモノに触っている」と思えるんです。目をつぶっていても感覚が表現されるので皆さん驚きますね。

秘密はこの特別な振動パターンにあります。
「引っぱられる」と脳が錯覚するにはどんな振動を与えればよいのか、「つるつる」と「ざらざら」の差はどんな振動で表現できるのか。人間の感覚特性を調べ上げて触力覚を生成する刺激パターンを創出し、触感や手応えなどの体感をデジタル化し、操作性・操作感を生み出す身体性をデジタル実現したのが中村の研究成果です。

中村 則雄さん(以下、中村):

色には「三原色」があって、組み合わせ次第でさまざまな色を作り出せますよね。皮膚も同じで「三原触」という基本感覚があるんです。それは、引っぱられる・押されるなどを感じる「力覚」、接触や硬さ・柔らかさを感じる「圧覚」、表面のでこぼこを感じる「触覚」の3つ。これらが組み合わさって1つの感触を生み出します。ということは、「三原色」と同じようにこの3要素をコントロールすれば我々はあらゆる感触を表現できるんです。従来は物理的な力で感触を作ったので大掛かりな装置が必要でしたが、「あたかもあるように脳に錯覚させればいい」とひらめいて三原触の生成・小型化に至りました。

振動することで、CGの触感を指先に伝えてくれ、硬さや凸凹といった微細な表現が可能な「触覚フィードバックデバイス」

ボタンの押し込みやダイヤルの回転、クリック感などを体験できるフラットタイプの「触力覚デバイス」

「すべての体感世界を作っていく」

「すべての体感世界を作っていく」

― これからはどんな分野での応用を予定していますか。

香田:

いろんな場面で聞かれるのですが、そこは「応用先は無限大」と答えています。
1つではなくあらゆる分野です。人の触覚が発生する場所であればどこでも当てはまります。

タッチパネルを有する製品なら「3D触力覚技術」を使えば直感的な操作を可能にします。
例えば、平らな面でもカチッという押込み・クリック感を起こして「確実に押した」とフィードバックを与えたり、指を引っぱる力を起こして適切な動作誘導や行動を促すこともできます。このように、ゲーム、モバイル、自動車、医療といった既存技術に大きな付加価値を与えるのはもちろんなのですが、僕たちが目指しているのはもっと大きな可能性です。

ミライセンスの基本事業は「触った感覚、体感を活用したトータルソリューションの提供」です。
何か1つの製品に載せるのが目的ではなく、あらゆる製品に「体感」を搭載し、体感ビジネスの広大なマーケットそれ自身を構築していく、体感で全世界の人が空間を共有する、という広く大きなイメージがあるのです。例えば、新製品を開発する場合ならば、離れた場所から画面上だけで会議をするのではなく、真ん中に素材を置いてみんなが触って共有できたら、空間を共有するようなインタラクティブな操作性・操作感といった身体的・感性的な情報も伝わりますよね。映った人と握手の感覚があれば、親密感や一体感がわき関係が劇的に変わるかもしれません。
そういった身体性を持った感覚を共有するのが人間の根源的なコミュニケーションだという思いがあるので、「3D触力覚技術」をベースに新しい感覚世界を提供するのが僕たちの目標です。

中村:

我々は音響・映像を中心としたデジタル端末による世界観に支配されており、それを前提にした世界観をふくらませがちです。でもこの技術は、まったく違う次元を加えて新たな奥行き感のある世界観を作り出してくれます。
今までの視覚と聴覚が形成する平面のようなパッシブな2次元的な世界しかなかったところに、触覚という新しい軸を立てて、3次元のアクティブな世界が広がったんです。これは、今まで無意識的に囚われていた開発思想の先入観や制限を取り除き、デバイスの形や機能、サービスを根本から大きく変える可能性を秘めています。

体感した方はわかると思うのですが、これまで「できない」と思っていた技術が目の前に現れたら「じゃあ、こんなこともできるかもしれない」と発想が変わりますよね。「3D触力覚技術」には、そのような解放の連鎖反応を引き起こすイノベイティブなパワーがあって、すでに数十社からアイデアが寄せられパートナーシップを結び始めました。ミライセンスのクリエイティブな独自技術と企画・商品力を有する製造テクノロジーを生かして、世の中のハプティクス技術を牽引していければと思います。

「2020年、テレビでスポーツ選手の感覚が分かる!」

「2020年、テレビでスポーツ選手の感覚が分かる!」

― 私たちが「触力覚」を応用した製品を使う日は近いですか。

香田:

技術を発表してから、いろんなスパンの製品開発が一斉にスタートしました。ゲーム機器への応用は数年内に実現します。産業用ロボットや医療用ツールも開発が始まりました。5年後には家電を含めたあらゆる製品に導入されるでしょう。その頃は、今の僕たちが携帯電話のない生活を思い出せなくなっているように、「触力覚」が存在しない世界を想像できなくなっていると思います。

中村:

現段階で積極的に披露しているのは感触を提示する出力系デバイスですが、並行して感触をサンプリングする入力系の開発と、デバイスのさらなる小型化を進めています。技術的には脳を錯覚させることで感触の再現ができるので、指輪くらいの小さなデバイスやなんらかの錯覚刺激による非接触デバイスもあり得ます。5年後といえば東京オリンピックが開催されますよね。私はサッカーをやっていたので、スポーツ選手の感覚・体感をリアルに伝えられるようなデバイスや体感テレビが実現できると考えています。

― お話を聞いていると、お二人のチームワークの良さを感じます。
「3D触力覚技術」を広めるにあたって役割分担があるのでしょうか。

中村:

香田はビジネスとしての製品化や展示会の演出など「どうすればユーザーに響くのか」を考えられる広い視野と経験があり、それを積み上げていく努力を惜しみません。私は、クリエイティブな未来を実現するにはどんな技術が必要なのかを嗅ぎ当て、技術を深掘りしていく力に長けています。

香田:

僕は、いうならば事業を広く横展開していくタイプですね。ダイナミックかつスピーディーに作業を進めていく一方、すぐ下に埋まっている金脈に気づかないこともある。そんなとき、中村が研究者としての嗅覚で「ちょっと待て、あと1cm掘ってみろ。必ずここにあるから」と声をかけてくれて、「そんなわけがない」と言いつつ掘ってみたらカチンと金脈に突き当たる。起業後はその繰り返しかもしれません。中村と僕と、どちらが欠けてもダメですね。

「ドラえもんになりたい」

「ドラえもんになりたい」

― 1月6日からはラスベガスで開催されているInternationalCES(国際家電ショー)に出展されていますね。
反応はいかがですか。

香田:

CESは、やはり世界規模であることを感じます。
世界トップレベルの企業のCEOやCTOが弊社のブースにいらっしゃって、デモを体験し、みな非常に驚いています。その場で、あの商品に搭載できるとか、こんなものに応用できるのでないかと熱い議論が飛び交うので、とてもエキサイティングですね。

米・ラスベガスで開催の「International CES 2016」

MIRAISENS,Inc.のブース

― 日本でも「3D触力覚技術」を体感できますか。

中村:

はい、オフィスにおいてデモの環境を整えていますので、ぜひ来ていただき最先端のデバイスを体験できます。空想レベルの話でもいいので「こういうことをやってみたい」というアイデアを1つ持って来られると話が具体化して議論が白熱します。我々はこの領域で「ドラえもん」になりたいと考えています。「こういう道具はないの?」と聞かれたら、「あるよ」と取り出して世界を驚かせ、変えていきたいんです。いままでに誰も足を踏み入れたことのない領域なので、ちょっとした思いつきが新しい未来につながる可能性が十分にあります。一緒に新しい未来を作っていこうとするパートナーは大歓迎です、ぜひご連絡ください。

※本記事内容は平成28年1月8日現在のものです。

株式会社ミライセンス
〒305-8560
茨城県つくば市梅園1-1-1
産業技術総合研究所 つくば中央第一事業所内
http://www.miraisens.com/

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