TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

防犯カメラとして広く普及している赤外線カメラ。 このモノクロ映像の世界に先端技術シーズを加えることによって、色の識別が可能となった。 そして、それがさらに広い分野へ応用する可能性を拓いた。

祖父江 基史 / Motoshi Sobue

株式会社ナノルクス代表取締役社長。日本銀行を経て、英米外資系企業(インテル、デル、BAT)にて、国内外のファイナンス、セールスマーケティング職を歴任し、ビジネスモデルの提案、プロフィットストリームの改善を成功させてきた。現在、起業家支援組織TX Entrepreneur Partners副代表理事も務める。

― 以前は外資系企業にご勤務なさっていたと伺っていますが、どのようなお仕事をなさっていたのでしょうか?

祖父江 基史さん(以下、祖父江):

おもにファイナンス、経営企画です。私は大学卒業まで海外に行ったこともなかったのですが、外資系企業では、英語を使って海外を飛び回っていたのですから、まさに習うより慣れよ、の世界でした。

― 産総研との出会いとはどのようなものだったのでしょうか?

祖父江

企業勤めをしていたときから、「日本をもっと元気にするには、ベンチャー企業がもっと育たなければ」と思い、ベンチャー企業支援組織のTEPの理事を務めてきました。TEPでは、毎月数社からピッチを受けるのですが、そのうちの1社がナノルクス社でした。発明者である産総研の永宗さんが説明する技術には、将来性を感じましたが、過去5年間売り上げがほとんどない状況でした。これは何か手助けができるのではとサポートを始め、今後どのようにビジネスを展開していくのか、永宗さんといろいろ話し合いました。

― 社長就任に踏み切られたきっかけをお聞かせください。

祖父江

技術に魅力があったのは勿論ですが、技術者の永宗さんと「この技術でビジネスを成功させよう」という共感を持てたのが大きな理由です。ビジネスを立ち上げるためには、様々な壁を乗り越えていかなくてはなりません。「自分は技術者だから、技術を伝えたのであとはよろしく」といった姿勢ではうまく行きません。お互いが協力し合って、やると決めたことはやるといった信頼関係がとても大切です。永宗さんとは、チームワークを築けると信じられたので、やってみようという気になりました。

写真手前が⾚外線カラー暗視カメラ、写真奥は赤外線を照射する装置。 赤外線は人間の目に見えないため、照射しても周囲を明るく照らすことはない。

暗くなると、通常のカラー撮影から、カラー暗視カメラに自動的に切り替わって、明るくても暗くても、いつでも鮮明なカラー映像が見られる。

― 続いて、赤外線カラー暗視カメラに関する技術についてお聞きします。そもそもどのような特徴のある技術なのでしょう?

祖父江

これまで光が届かない暗闇では、カラー撮影をすることはできませんでした。赤外線カメラは白黒映像しか撮れませんでしたし、超高感度カメラは低照度では何も映すことができません。その常識を破ったのが赤外線カラー暗視カメラです。近赤外線を被写体に照射して反射光をカメラに捉え、可視光線と近赤外線の間の相関関係を利用するという独自の技術で、カラー映像を再現できます。

― どのようなメリットがあるのでしょうか?

祖父江

色は、動物の進化の中で得られた貴重な生物的な財産です。「演色性」と呼ぶのですが、脳は白黒よりカラー画像を圧倒的に明確に認識します。たとえば、物と物との境界線は白黒では曖昧にしか見えないのですが、色の違いが表現されるカラーでは、はっきりと認識することができるのです。 下の写真を見てください。白黒では、突起物が、指の一部かキャップの形状かはっきりわかりませんが、カラー映像では一目瞭然です。
また、色は情報ですから、映像解析もカラーの方が白黒より精度が上がります。逃げていった犯人の服が白黒でしか撮れないのか、色までわかるかで、犯人の絞り込みの難易度に大きな差が出ることはご想像できると思います。

従来の赤外線暗視撮影

⾚外線カラー暗視撮影

― 御社の防犯カメラでは、すべての色が再現されるのですか?

祖父江

残念ながら、完璧な色再現ではありません。というのも被写体の素材の物性によって、赤外線を反射する特性や透過する特性が異なるからです。たとえば人間の肌は、血液に含まれるヘモグロビンの影響で、綺麗な肌色に映りますが、薄い印刷物等は一部赤外線を透過してしまうため、色再現度があまり高くはありません。ただし、そもそも我々が見ている色が100%の正解とは限りません。 色は、たとえばカメラによってもディスプレイによっても変化してきます。テレビに映し出されている色というものも、本来の自然の色とはまた少し異なるものです。もちろん、これから研究をさらに進め、よりリアルな色再現を追求していきますが、同時に用途に適した、顧客ニーズを満足させる色特性を実現したいと思います。

―赤外線照射の特徴を教えてください。

祖父江

暗いなら光を当てて明るくすればいいと考えるかもしれません。でも、防犯ではあまり明るくし過ぎるとご近所迷惑ですし、寝ている患者さんの様子を見守るときに、明る過ぎると寝ることができません。この点、赤外線ならば目には見えませんから、照射しても明るくはなりません。赤外線カラー暗視カメラは、「明るい」と「暗い」のいいとこ取りをする技術なのです。

― 色再現度以外に、これからの技術的課題としてどのようなものがあるのでしょうか?

祖父江

ビジネスとして成功するためには、やみくもに技術を進化させるだけではいけません。何といっても、誰が顧客で、どのようなニーズを持っているかをきちんと把握することが大切です。例えば、防犯カメラであれば、色再現が正確であることも重要ですが、自動的に物体認識をできることもとても大切です。そうであれば、カラー暗視と映像解析を最適に組み合わせるなどの工夫が必要になります。自分で全部やろうとするのではなく、外部のプロ集団と柔軟に協力していこうと思います。

カラー暗視カメラ(シャープ社製造)

⾚外線カラー暗視カメラを使った撮影サンプル。暗視カメラとは思えない色再現度だ。

― 現在、どのような商品展開をお考えでしょうか?

祖父江

当社は、「カラー暗視技術で、安心・安全な社会に貢献する」という目標を持っています。そのために、防犯カメラはもちろん、高齢者などの見守りカメラ、大きな進歩が見込まれる車載カメラ、等を主なターゲットにしていきます。警察、消防などの特殊組織だけでなく、広くみんなに使ってもらえる技術に育てたいです。

― 現在、どのような活動などを行なっていますか?

祖父江

今は、新たなスタートと位置付けて、ゼロからビジネスを見直しています。そのために、幅広いお客様とお話して、困っていることやこの技術で解決できることがないか、再調査しています。産総研の展示会にも呼んでいただけるので、そうした機会も生かしていこうと思っています。幸い、興味を持っていただける先がいくつか見つかってきたので、1-2か月以内には事業計画をまとめられそうです。

― 最後に、ナノルクスの今後の展望をお聞かせください。

祖父江

せっかくの素晴らしい技術ですから、こじんまりとまとまってしまうのでなく、海外進出にもチャレンジして、売上でも貢献度でも大きな会社にしたい。ナノルクスが標的にしている防犯カメラや車載カメラは今後毎年2桁の%で伸びていくことが見込まれている市場なので、成長の余地は大きいと考えています。一方で、なんでも自分でやろうとせず、ナノルクスは自分たちの得意分野である開発、企画に集中して、製造、特殊技術は外部の協力会社と一緒にやっていくつもりです。まだ、始めたばかりで大きなことは言えませんが、いつかは、「ナノルクスは、産総研発ベンチャーの成功例だね」と言われたいです。

つくば市の産総研にある「サイエンス・スクエアつくば」での展示の様子。カラー暗視カメラに関する技術説明パネル、試作カメラ等が展示されており、一般公開されている(https://www.aist.go.jp/sst/ja/)。

※本記事内容は、平成27年12月18日現在の情報に基づくものです。

株式会社ナノルクス
〒305-0047 茨城県つくば市千現二丁目1番6号つくば創業プラザ215号室
Mail. info@nanolux.co.jp
http://www.nanolux.co.jp

*Application field
・赤外線を使った防犯カメラ
・高齢者などの見守りカメラ
・車載用カメラ
・産業用特殊カメラ

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