TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

マイクロ空間化学に関する研究は、広くは分析用途として進んでいた。 そこに「ナノ材料を合成する」という要素を加えることで、新しいビジネスとしての可能性が切り拓かれた。

金海 榮一 / Eiichi Kanaumi

NSマテリアルズ株式会社代表取締役。バイオ分野の研究機器メーカーを経て、産総研のスタートアップ・アドバイザーに就任。タスクフォース事業として2006年にNSマテリアルズを起業。ナノ粒子の合成技術におけるトップランナーとして活躍している。

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産総研の先端技術にビジネスの可能性を見出しました。

― 産総研のスタートアップ・アドバイザーとして創業に尽力されたと伺っています。まずは、そこに至る経緯などをお聞かせください。

金海 榮一さん(以下、金海):

バイオ分野の研究用機器のメーカーに在籍していましたが、その会社は当時、事業規模を拡大していく過程にありました。業務システム作りやISOの認証取得など、さまざまなことに対する取り組みを担当させていただくなかで、会社の仕組みについて勉強する機会を得ました。その後、マイクロフローチップによるセルソーティング技術開発の事業に携わりました。それが、今につながるマイクロ空間化学技術との出会いになります。

― 産総研との関わりは、そのマイクロ空間化学技術に関連しているのですね。

金海:

はい。2004年ぐらいにスタートアップ・アドバイザーになるのですが、その頃、マイクロ空間化学技術に関連したタスクフォース案件があり、アドバイザーを募っているということでした。現在、弊社の監査役としても在籍している小林さんが、その頃すでにスタートアップ・アドバイザーとして活動していましたので、その勧めもあって応募しました。

― 当時の産総研のマイクロ空間化学に関する研究の内容は、どのようなものだったのでしょうか。

金海:

当時、マイクロ空間化学技術を使って分析・解析をして、それを実験や診断に応用する技術はすでにありました。産総研で研究開発が行なわれていた技術の面白さは、そのマイクロ空間化学技術を使ってナノ材料を合成することに着目していた、というところです。スタートアップ・アドバイザーになった時点で、すでにかなり物性の均一なナノ材料を作り出すことに成功していました。化学反応を制御して均質なナノ粒子を作り出すという技術に可能性を見出して、起業に向けて動いたのです。

― 起業したときすでに、現在と同じく蛍光体の開発を行なっていたのでしょうか。

金海:

設立当初は、他の企業から技術開発を受託するような事業を主に行なっていました。その後、世界的にLEDが注目され、技術的にも発展していくなかでナノ蛍光体開発の事業を始め、今ではそちらの方に注力している、というところです。

― 福岡に拠点を置いたのは、どのような理由からなのでしょうか。

金海:

産総研における当該技術の研究開発拠点が、産総研九州センターにあったから、というのがそもそもの理由です。研究拠点に近いほうがやはり便利ですから。福岡は韓国や台湾といった外国にもアクセスがいいですし、特に東京などの大都市に拠点を置くことにこだわる理由もありませんでした。

福岡県筑紫野市にあるNSマテリアルズの研究開発施設。ここで最新のナノ蛍光体の生産が行なわれている。

ナノ蛍光体が入った液体。ブラックライト等で照らすと光を発する。

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液体のなかでナノ粒子を発生、成長させていくのがこの技術の特徴です。

― 続いて、NSマテリアルズの主力製品、ナノ蛍光体を作り出している「マイクロ空間化学技術」とはどのようなものかお聞かせください。

金海:

簡単に言いますと「髪の毛ぐらいの空間の中で化学反応をさせる」ということです。弊社では特に液相合成法という方法を採用していますが、これは液体の中で粒子を合成する、ということです。

― どのような化学合成も行なえるのでしょうか。

金海:

とても多くの種類の合成を行なえます。普通のやり方では爆発を起こしてしまうような危険な合成も、液相合成法を使ったマイクロ空間化学で比較的安全に行なえます。そして、この方法の最大の特徴は、化学合成を精密に制御できるところにあります。言うならば「超精密化学反応制御技術」なのです。

― その化学反応や合成を行なうのが「マイクロリアクター」ですか。

金海:

はい。このように(写真参照)極めて細い溝の流路に原料が含まれた液体を通し、温度などを調整しながら化学合成を行ないます。弊社の主力商品であるナノ蛍光体も、このような小さな反応装置を複数集めたものを使って作成しています。装置全体の大きさとしては、クルマ1台分ぐらいでしょうか。

― 大型の装置と比べ、どのような特長があるのでしょうか。

金海:

大型の装置を使った大量生産方式では、装置の各部で条件が異なってしまいます。大型のタンクのような反応器をイメージしてもらえばわかりやすいと思いますが、タンク内の外側と内側で温度が均一にならなかったり、あるいはphが異なったりなど、化学反応の条件が揃わなくなってしまうため、均質なものを作るのが難しいのです。マイクロリアクターのようなコンパクトな反応器を使えば、これらの条件を揃えることが容易なため、精密に化学反応を制御できるのです。また、たとえば熱を加えるような場合でも、エネルギー効率が高く省エネという特長もあります。

― ナノ蛍光体の「ナノ」とはどのぐらいの大きさなのでしょうか。

金海:

たとえばインクなどに使われる顔料なども細かな粒子なのですが、これらは径がだいたい1ミクロンを切るぐらいか、数百ナノメートルぐらいだと思います。ナノ蛍光体のサイズはさらに小さく、10ナノメートル程度というところですね。顔料などは大きな原料をどんどん砕いていくような作り方ですが、ナノ粒子の場合は、液体のなかでの化学合成によって核を発生させ、その核を成長させていきます。

― これらの技術によって創りだされた均質な蛍光体は、どのような分野に応用されるのでしょうか。

金海:

現在、おもに青色LEDの色を変化させるために使っています。まず、現代のLEDの多くは青色LEDがベースとなっていて、それに蛍光体を組みわせることによってさまざまな色を表現しています。たとえば白色を作る場合でも、青に黄色を重ねているのです。そして、マイクロリアクターを使った化学合成の制御によって、ナノ蛍光体の色を自在に変えられます。つまり、今までにないほどさまざまな色をもつLEDが作れる、ということです。

開発中のLED素子。ナノ蛍光体によって多彩な色が表現できる。

マイクロリアクターの試作品。この小さな板の細い溝で精密な化学合成が行なわれる。

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LEDの技術はまだ若く、これからも発展していきます。

― それほど多様な色の照明が必要なのでしょうか。

金海:

たとえばデパートの化粧品売り場では、ブランドごとに微妙に違う色の照明を使っていたりします。そのブランドの化粧品がもっとも引き立つ色にしてあるというわけです。また、スーパーの食料品の陳列棚でも、魚が新鮮に見える色や肉が美味しく見える色の照明が使われています。このように、照明の色というのは私達の生活のなかでも重要な要素のひとつです。ここにナノ蛍光体を使った多彩な色を持つLEDの活躍の場があると思います。

― 今後、LEDはどのように進歩していくとお考えでしょうか。

金海:

LEDというデバイスは、その技術が生まれてからまだ若く、これから発展する余地が多くあります。わずか過去数年の間でも相当進歩しています。今後の進歩の方向性としては、より自然の光に近づけていく、ということがあると思います。今のLED電球は、まだ疑似色によるものがほとんどですから。

― NSマテリアルズでは、ナノ蛍光体以外にもさまざまなナノ粒子を扱っていますが、それらを含めどのような応用分野が考えられますか。

金海:

我々の技術の特徴というのは、きちっと物性を揃えたナノ材料を作る、というところにあると考えています。そして、このようなナノ材料が求められる分野というのは、ほとんど「光」が関わる分野です。照明は先ほどお話ししたとおりですが、テレビやディスプレイ、あるいはカメラの受光部やレンズなどが挙げられます。そして、今後さらに発展していくICT技術も光と関連していますから、ナノ材料が強い分野と言えます。また、より少ないエネルギーで高い性能を出すためにもナノ材料は有効ですので、省エネにも貢献できると思います。

― 最後に、NSマテリアルズ社の今後の展望をお聞かせください。

金海:

もちろん起業した以上、IPOを目指していますし、会社もどんどん大きくしたいですね。しかし、先ずはナノ蛍光体の量産に絞って、主事業を立ち上げることに注力しています。

さまざまな色のLED。色を細かく調整することができる。

ガラスやプラスチックにナノ蛍光体を封入することによってさまざまな形の蛍光素材を作ることができる。

※本記事内容は、平成26年5月16日現在の情報に基づくものです。

NSマテリアルズ株式会社
〒818-0042 福岡県筑紫野市立明寺511-1
www.ns-materials.com

*Application field

・ナノ蛍光体によるLEDの精密な調光
・ナノ蛍光体によるディスプレイの発色の改善
・その他研究用途のナノ粒子素材
・アミノ酸やペプチドなどの合成

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