TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

2012年5月、ベンチャー開発部の支援によって設立された株式会社ライフセム。 CEOとCTOのたった2人だけのハイテク・スタートアップだが、そこには高い志と計算されたビジネス設計があった。

高橋 通 / Toru Takahashi

株式会社ライフセム代表取締役社長(CEO)。産総研スタートアップ・アドバイザーのひとり。某有名プリンターメーカーで研究開発担当役員まで勤めた経験をもとに、産総研発の「走査型電子顕微鏡用液中透過観察試料ホルダー」技術のビジネス展開の可能性に着目。商品化に向けたアドバイスを行い、現在は自らCEOとして活躍している。

小椋 俊彦 / Toshihiko Ogura

株式会社ライフセム取締役副社長(CTO)にして、産総研主任研究員でもある。大手電子顕微鏡メーカーの技術顧問という肩書きも持つ。タンパク質の観察およびその映像化という研究テーマから派生して、走査型電子顕微鏡での透過観察を可能にする技術開発に尽力し、「走査型電子顕微鏡用液中透過観察試料ホルダー」発明にいたる。

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最後は「人」です。もう一度挑戦してみようと思った。

― まずは、お二人の出会いのきっかけなどをお聞かせください。

高橋 通さん(以下、高橋):

私は、新人として入社したプリンターメーカーで複写機を新規開発するプロジェクトに参画しました。当時このプロジェクトは完全な社内ベンチャーで、苦難の連続でしたが、どうしても複写機を作りたくて自分から志願したほどです。それから数十年間研究開発部門に籍を置き、技術開発の難しさを身を持って体験してきました。その後、会社もほとんどリタイアしていたところ、縁あって産総研のスタートアップ・アドバイザーとしての活動を始めました。

小椋 俊彦さん(以下、小椋):

自分は、企業の研究員から産総研に移籍しました。というものやはり、自分のやりたい研究テーマに力を集中したかったからです。いいタイミングでテーマに予算をつけてもらえることになり、そこからは走査型電子顕微鏡(以下、SEM)を使って、さまざまなタンパク質を観察し、それをより分かりやすい形で可視化する研究をしてきました。

高橋:

2006年ぐらいからスタートアップ・アドバイザーとして産総研のさまざまな研究を見てきましたが、彼(小椋さん)が発表したX線を使った透過観察手法に関する論文に目を通したとき、ピンときたんです。これなら、商品化できるのではないか。今まで見られなかったものが見られるようになる、まさに世界で唯一の技術でしたから。

―では、商品化までに6年も要したということですか?

小椋:

いいえ。そのX線を使った技術には解像度が上がらないなど、いくつかの問題を抱えていましたし、そして何より、2011年の震災で研究途中の機器の多くが破損してしまったのです。

高橋:

そこで諦めてしまわなかったのが良かった。X線に代えて、2次電子を使った手法にシフトすることによって、現在製品化にこぎつけた「走査型電子顕微鏡用液中透過観察試料ホルダー(以下、SEM用透過ホルダー)」の発明につながったんです。

小椋:

2次電子を使えば、X線に比べて解像度も高く、液中の透過観察も簡単に行えます。そして、この研究成果を高橋さんに評価してもらい、製品化、事業化のオファーをいただきました。

高橋:

新技術を新商品として成立させるためには、技術自体の良し悪し以外にも、時勢の問題やコストの問題など、さまざまな課題を解決していく必要があると考えています。その点「SEM用透過ホルダー」を中心にすれば事業化が可能だと考えました。これは、私が考える起業の条件に合致していたからです。

― その条件とはどのようなものでしょうか。

高橋:

まずは、技術が世界一、世界唯一であること。そして、少人数でも収益化できるようなシンプルなビジネスモデルであること。最後に、人です。私は彼のひととなりを見て、リタイヤした身からもう一度ベンチャーとして挑戦してみる決心をしました。

ホルダーは上下ふたつのユニットからなる。写真上に試料を滴下して使用する。

ホルダーに専用のステーを装着することで、SEMにセットする準備が整う。

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普及率の高いSEMで、透過観察をしたかったんです。

―続いて、ライフセム社の中心事業「SEM用透過ホルダー」についてお伺いします。そもそも、走査型電子顕微鏡とはどのようなものでしょうか?

小椋:

電子顕微鏡には大きく分けてSEM(走査型)とTEM(透過型)の2種類があります。TEMは透過観察ができ、解像度も高いのが特長です。本格的な研究施設では導入されているのですが、筐体が大きく、価格も高価なため、一般的な企業内ラボにはあまりありません。また、観察対象となる試料をあらかじめ凍結させたうえでスライスしたり、重金属類を使って着色を行う必要があるなど、扱い方も簡単ではありません。

高橋:

TEMが大型化する一番の理由は、電子銃にかける電圧です。つまり、大きなパワーで、強引に電子を透過させるのが透過型電子顕微鏡です。原理的には光学顕微鏡に近いですが、電子による試料そのものへのダメージも無視できません。

小椋:

一方でSEMは、比較的弱い電子の反射などを拾って可視化します。一般的には表面構造を捉える用途で使います。かける電圧が低く、TEMに比べ取り扱いも簡単、小型で安価な製品もあります。小規模の研究施設や企業にも多く導入されているのはこのSEMです。

高橋:

TEMとSEM、導入されている数で比較すると、何倍もの差があると思いますよ。

― 走査型顕微鏡で透過観察ができるようになると、何が見えるようになるのでしょうか?

小椋:

おもに油脂類ですね。たとえば化粧品です。多くのクリーム類は油脂類に細かな粒子が混合されています。TEMで観察するためには一度凍らせる必要がありました。これでは、常温での実態を観察したことにはなりません。その点「SEM用透過ホルダー」を使えば、消費者が使用しているのに近い状態での観察を行えます。

高橋:

軽元素の観察にも適しています。具体的には生体をイメージしてください。細胞やウィルスなど、おもにタンパク質からできているような試料も着色することなく観察できます。着色には多くの場合重金属を使いますが、この着色の際に生体の組織を壊してしまいます。正しく観察するには、着色なしで観察する必要があります。もともとライフセムという会社名は、この「生体観察に適している」という特長からきています。LIFE(生体)+SEM(走査型顕微鏡)です。

― 技術の核心は「変換膜」にあるとお聞きしました。

小椋:

はい。震災後、X線による観察手法の研究をいったん中止し、別の方法を模索するなかで、特定の成分でできた膜に電子を当てて発生した2次電子が強い電界を持ち、膜に付着した試料を透過することを発見しました。これにより、SEMによる透過観察を実現することができました。

高橋:

これは当時、ほとんどの研究者が諦めて、そんなこと(2次電子の透過)が起こるとは誰も考えすらしていなかったんです。それを粘り強い研究によって成し遂げたからこそ、世界唯一の技術と呼べるものになったのです。

「TRANSEM」による観察例。左がバクテリア、右は日焼け止めクリーム。 どちらもこれまでは手軽には観察できなかった試料だ。

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世界一の技術であること。小粒でもピリリと辛いビジネスを目指しています。

― 産総研から生み出された新技術「SEM用透過ホルダー」は、すでに「TRANSEM」として商品化されていますが、実際にどのようなお客様からのお問い合せや注文が多いのでしょうか。

小椋:

素材系の研究部門や企業の品質管理部門からのお問い合わせが多いですね。SEMを持っているのに観察できないものが多くて困っている方は多くいらっしゃるようです。

高橋:

今後は、当初の目的どおり、生物やバイオ分野にも力を入れていく予定ですが、こちらはまだこれから、といったところです。

― 商品の販売のため、どのような取り組みをなさっていますか?

高橋:

現在、とある商社と契約して、営業マンのみなさんの取引先に紹介してもらっています。

小椋:

ホームページからのお問い合わせやお見積り依頼も多いですよ。ほかには生物やバイオ分野の学会でも発表しているのですが、なぜか反応は今ひとつですね(笑)。

高橋:

今はまだ単価が高いという課題があります。ホルダーの販売は、いわば消耗品ビジネスです。消耗品ビジネスの世界では、浸透することがまず第一で、今はその浸透期。そもそも普及率が高いSEMの市場には大きな可能性がありますから、今後リピーターが増えてくれば、生産数も伸び、単価も下がってきます。そこからがビジネスとしては本番です。

― 最後に、ライフセム社の今後の展望をお聞かせください。

小椋:

まだまだ観察に関して困っている人が多くいらっしゃいます。その方々の助けになるよう、これからも研究を続けていきたいと思います。

高橋:

将来的な展望として大企業化することも考えてはいますが、まずは小規模ベンチャーであることにこだわりを持っていこうと思います。世界一の技術を持ち、小粒でもピリリと辛い、そんなビジネスができると嬉しいですね。

試料を封入してSEMにセットするだけの簡単さを実現している。

もちろん商品として販売されているものだ。

※本記事内容は、平成25年12月12日現在の情報に基づくものです。

株式会社ライフセム
〒166-0001 東京都杉並区阿佐ヶ谷北2−10−6
Mail. contact@lifesem.net
www.lifesem.net

*Application field
・溶液中のナノ粒子の観察
・有機材料の観察
・水質、土壌の検査
・食品微生物の観察
・細胞の微細構造観察
・バクテリア、ウィルスの薬理特性の測定
・タンパク質の複合体の観察

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