独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】健康工学研究部門【研究部門長 吉田 康一】、組織・再生工学研究グループ 弓場 俊輔 研究グループ長らは、医療法人朗源会【理事長 大隈義彦】大隈病院【院長 大隈健英】整形外科 大串 始 部長らと四肢の末梢動脈に閉塞が生じる末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease : PAD)の重症患者の骨髄から間葉系幹細胞を培養増殖し、増殖した幹細胞を患者下肢へ移植することにより血管の再生を促す臨床研究を行うことになりました。両機関が平成25年4月末に研究計画を厚生労働省に申請、同省「ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会」における審査を経て、このたび同年11月25日に本研究の実施について厚生労働大臣から了承を得たことによるものです。

 

血管再生医療の臨床研究

 

本再生医療のポイント

  1. ①下肢の血管が閉塞している患者に対して、患者体内に存在する幹細胞(間葉系幹細胞)を用いての血管再生です。
  2. ②間葉系幹細胞は、少量(約20ml)の患者骨髄から培養増殖可能であり、細胞採取時に患者に与える侵襲も大きくありません。
  3. ③幹細胞の培養は、国内屈指の培養実績を誇る産業技術総合研究所関西センター尼崎支所(健康工学研究部門)のCPC(セルプロセッシングセンター)で行います。

 

研究の概要

 従来の治療法では効果が期待できない重症末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease : PAD)に対する血管再生治療が先進医療や臨床研究として開始されつつあります。具体的には、骨髄に含まれる有核細胞を用いる治療と、G-CSFといった薬剤を投与後、末梢血に動員される有核細胞を用いる治療が、少数ですが、実施されています。しかし、これらの技術はまだ一般的なものとは言えず、またいずれも患者に対して与える細胞採取時の負担が大きい治療法です。前者は多量(約600ml)の骨髄採取を必要とし、後者は血液採取と細胞分離のために、静脈へカニューレとよばれる管を刺したまま長時間(4~5時間)の拘束を要します。これらの理由から細胞採取時の侵襲が小さい再生医療技術の確立が望まれていました。一方、重症PADに対する間葉系幹細胞の移植治療の有効性を示す中国の報告はありましたが、国内では間葉系幹細胞を用いた血管再生治療は行われていませんでした。そこで、私たちは局所麻酔下で採取される少量の骨髄を用いた血管再生治療を計画しました。計画では2年間で5例の患者を対象としています。
まず、大隈病院で重症末梢動脈疾患(PAD)患者の腰近くの骨(腸骨)から注射針を用いて局所麻酔下で約20mlの骨髄を採取します。採取に要する時間は麻酔の時間も含めて10分程度です。採取された骨髄は産業技術総合研究所関西センター尼崎支所内のセルプロセッシングセンターCPCに搬送され、骨髄から細胞培養操作により間葉系幹細胞を増やします。増殖した幹細胞は再度大隈病院に搬送されます。大隈病院手術室では患者に腰椎麻酔あるいは全身麻酔を施し、病変のある肢の虚血部位約40ヶ所に幹細胞懸濁液を0.5mlずつ筋肉内へ注射(細胞移植)します。
このような再生医療により、病変のある肢に新たな血管の再生を促し、難治性の下肢疼痛や壊死を治療することを目的としています。

 

期待される研究の成果

 幹細胞とは、細胞自身が活発に増殖して、自己複製能を有するとともに、骨・肝臓・皮膚等、組織を構成する種々の他の細胞へ変化する能力(分化能)をもった細胞です。このうち、間葉系幹細胞は私たちの体内に元々存在する幹細胞です。その数は非常に少ないですが、培養操作により、その数を体外で増やすことが可能です。
産業技術総合研究所では平成13年より、間葉系幹細胞を用いて骨や軟骨の再生を行い、この幹細胞の安全性と有効性を実証してきました。しかし、再生医療の対象は、患者数が限られた疾患であったことに加え、連携して再生医療を実施する医療機関も大学病院等に限定していました。今回の計画では、これまでの疾患とは異なり、患者数(国内重症例は年間100万人あたり500~1,000人発生)の多い重症PADを対象としています。さらに、その再生医療を一般市中病院である大隈病院で実施することを計画しました。それは医療の裾野を担う一般市中病院と連携することで、再生医療の普及に拍車をかけるためです。折しもこの11月20日には「再生医療安全性確保法」が参院本会議で可決、成立しました。これには「国は、再生医療の迅速かつ安全な研究開発及び提供並びに普及の促進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」ことが謳われています。用いる幹細胞や細胞培養施設の安全に最大限の配慮をしながら国民に最先端の医療技術を提供するための基盤を作る本臨床計画は、この施策に合致するものです。

 

用語の解説 

末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease : PAD)

手足の末梢動脈の内腔が狭くなることや詰まることにより、手足に血行障害が生じ、痛みや歩行障害さらに手足に皮膚の壊死が起こる病気です。

細胞培養

体内から細胞を取り出し、体外で増殖して、細胞の機能を維持することです。通常、細胞は栄養素の含まれる液体中、一定の温度下で増殖します。

CPC(セルプロセッシングセンター)

再生医療において、細胞を培養増殖するためには専門施設が必要です。この専門施設はCPCと呼ばれ、外界と隔離された無菌室である必要があります。今回の細胞培養増殖は、非常に高い清浄環境を維持できる産業技術総合研究所関西センター尼崎支所内のCPCで行われます。

間葉系幹細胞

私たちの体は種々の細胞で構成されていますが、この細胞の中でもとりわけ増殖する能力の高い細胞は「幹細胞」と呼ばれます。また、幹細胞は、体のなかの種々の組織(筋肉・肝臓・血管等)を構成している細胞(筋肉細胞・肝細胞・血管細胞等)に変わる(「分化」と呼ばれます)能力を併せて持っています。特に、下記の骨髄には間葉系幹細胞と呼ばれる幹細胞が存在します。この幹細胞は増殖した後に、体に移植することで血管細胞に変わることができます。

骨髄

骨の内部に存在する柔らかい組織で、その中には赤血球をはじめ種々の細胞が存在します。また、間葉系幹細胞も少数ながら存在します。

 

本件問い合わせ先

再生治療に用いる細胞の培養に関して
健康工学研究部門 組織・再生工学研究グループ
研究グループ長 弓場 俊輔
〒661-0974 兵庫県尼崎市若王寺3-11-46
TEL:06-6494-7814 FAX:06-6494-5028
E-mail:yuba-sns(の後ろに@aist.go.jp)

 

再生治療に関して
医療法人朗源会 大隈病院
整形外科部長 大串 始(産総研招聘研究員)
〒660-0814 兵庫県尼崎市杭瀬本町2丁目17-13
TEL 06-6481-1667、Fax 06-6481-4234
E-mail : hajime-ohgush(の後ろに@aist.go.jp)