TN8 石炭の液化プロセスにおける抽出残渣の利用法

問い合わせる ひとつ前に戻る 技術資料集の入り口に戻る

内容の要約

 水素加圧下で得られる分解抽出物は、水素化分解原料として適するものであることから、必然的に次のような一液化プロセスが設定できる。

TN8F0.gif

 このような、石炭液化プロセスにおける石炭分解抽出残渣の用途として次の物が考えられる。

 イ.無煙燃料としての利用

 分解抽出残渣は揮発性分が減少し、かつ表面積が増大しているため、燃焼性のよい家庭用無煙燃料として利用可能である。

 ロ.活性化への転化

 水蒸気賦活によって分解抽出残渣を細孔構造の発達した活性炭に転化できることが明らかである。しかし、これには灰分がさらに濃縮されるため、用途によっては脱灰処理が必要となろう。水素化分解などの触媒担体としての利用も可能であろう。

 ハ.水性ガスへの転化

 水蒸気と抽出残渣との反応では、タール分の生成もほとんどなく、効率的に水性ガスへ転化できることがわかった。水素、一酸化炭素は、還元ガスとして有効に利用できるし、フィッシャー反応を経て油へ転化することも可能であろう。

 ニ.ガス、タール分の回収

 石炭構成分子中の水素に富む部分を可能な限り回収することを主眼にすれば、石炭中の溶解容易な部分は溶剤を用いて回収し、溶解困難な部分は熱分解によって回収する組合せ法も考えられる。また、残渣中の水素に富む部分は熱分量で回収でき、溶剤抽出と熱分解の組合せによって、石炭の80〜90%をガス、タール、石炭瀝青質として容易に回収できることがわかった。

詳しい内容

 (1)石炭の分解抽出

 第1図は、赤平炭に溶剤を3倍の割合で使用し、1l回転式オートクレーブを用いて、反応圧180〜200s/cm2、反応時間2時間の条件下で、反応温度と水素窒素雰囲気の抽出率と抽出残渣H/Cに及ぼす影響を調べた結果である。抽出率は、水素、窒素、いずれも雰囲気の場合にも石炭熱分解温度付近で急増する傾向がある。水素雰囲気の場合には反応おんどが高い場合ほど抽出率が増加しているが、窒素雰囲気では450℃で逆に抽出率は減少している。

 抽出残渣H/Cの変化は、窒素雰囲気の方が大きく水素雰囲気下での抽出残渣H/Cは抽出率が大きいにもかかわらず窒素雰囲気下での反応より大きな値になっている。

 このように、石炭溶解時の雰囲気も大きな影響を示す。

 第2図に、500ccの電磁誘導攪拌式オートクレーブを用いで、石炭に対して約10倍量の溶剤を使用し、反応水素圧100〜110s/p2において反応時間による抽出率の変化を示してある。

 それによると、初期反応(石炭を7割程度溶解させるまでの反応)が速く、それ以後の反応は遅いことを明白にしており。石炭を効率よく処理するには初期反応のにをりようして石炭の水素に富む部分のにを溶解させ、炭素質に富む不活性な未溶解炭は別途利用しようとの考えが生れてくる。本研究はこの考え方を根底にした。

 石炭の溶解しやすい部分のみを溶解すると、石炭未溶解炭だ多量に生成することにもなり、これをいかに処理し利用するかも重大となる。

 (2) 残渣の性状

 第1表に、日曹天塩炭、太平洋炭、赤平炭を50〜70%溶解したのちの分解抽出残渣の性状を示した。

 イ.分解抽出残渣の表面積

 第1表で示した如く、分析抽出残渣のひょうめんせきは、原炭のそれよりも遥かに大きくなり、炭種別では、若い炭の分解抽出残渣ほど表面積が大きい傾向が観測された。

 ロ.水蒸気との反応性および反応生成物の性状

 石炭分解抽出残渣は、原炭よりも表面積が大きくかつ揮発分が減少し、炭素質に富んでいるために活性な炭素源としての活用が期待できる。

 第3図に、赤平炭分析抽出残渣を700、800、900℃で時間を変えて水蒸気と反応させた賦活物質の表面積の変化を示した。表面積600m2/g以上、メチレンブルー吸着能100mg/g以上の吸着剤として利用可能な活性炭に転化できることがわかる。

 ハ.石炭分解抽出残渣の熱分解

 石炭分解抽出残渣には、依然として揮発成分が相当残留しているので、これらは熱分解によってガス、タール分として回収し、利用することができる。試料50gを横型の石英管に入れ、6℃/分の昇温速度で700℃まで昇温し、30分間加熱して分解抽出残渣を熱分解してみた。

 その結果、揮発性分をガス、タール分として回収可能であった。ガスの主成分は、水素とメタンであり、高発熱量のガスである。タールは軽質油分に富む。

 特長

 石炭をタール高沸点留分で効率的に分解抽出し、さらにその抽出物を水素化分解して低沸点油を採取する石炭液化プロセスにおいて、その残渣物の有効利用をはかる。

 いろいろな利用法が考えられるが、特に活性炭に注目し、その性質を明らかにした。

応用分野

 石炭液化プロセスでの残渣の有効利用。



第1図 水素、窒素加圧雰囲気下における抽出率と反応残渣H/Cの反応温度による変化
TN8F1.gif

第2図 反応時間による抽出率の変化
TN8F2.gif

第3図 赤平炭分解抽出残渣水蒸気賦活物の表面積
TN8F3.gif

 

第1表 水素加圧下における石炭の分解抽出結果と残渣の表面積
反応条件:水素反応圧190−200kg/cm2、溶剤比=7
(回転式オートクレーブによる)
試料炭温度(℃)時間(min)抽出率(wt%)灰分(wt%)表面積(m2/g
日曹天塩3759051.639.332.8
4006061.144.627.5
450072.753.323.2
太平洋3759061.321.935.2
4006066.824.632.7
450071.427.525.3
赤平3759070.010.014.5
4006061.57.94.9
450051.96.53.0
夕張3759074.811.17.9
4006063.27.93.6
450052.06.21.3