TN6 石炭液化触媒−天然パイライト−

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内容の要約

 鉄−硫黄系の石炭液化触媒の中で、パイライトの活性が非常に高いことを認め、また反応機構の解析からパイライトを用いた場合には、脱酸素反応が顕著であり、一次液化生成物の軽質化も同時に促進していることも明らかとなった。しかしこれらの研究で用いたのは合成パイライトであり、価格面からも実用化の面で問題となる可能性がある。

 このためここでは、我が国に多量に賦存する天然パイライトを石炭液化反応触媒として利用する目的で検討を行った。

 この結果を要約すると、次のようになる。

 (1) 各種鉄−硫黄混合系触媒、予備硫化触媒などの硫化鉄の形態はピロータイトであるか反応中にピロータイトになるか、いずれかであるが、その触媒活性は比較的類似している。

 (2) しかしパイライトのみはピロータイトへ変化する際に著しい触媒活性を示す。

 (3) 天然パイライトは100mesh程度では他の鉄−硫黄系と同程度の活性ではあるが、2.0μm程度迄微粉砕すると石炭液化反応活性が著しく増大する。

 (4) 天然パイライトの活性は、石炭の分解のみならずアスファルト質の軽質化反応も促進し、アスファルト質が減少しオイル収率が増大する。

 (5) 天然パイライトのS/Fe比の大きいものほど油の収率が高いが、レジン分の収率などの油の改質能はパイライトのS/Fe比と相関していない。

 (6) 用いた天然パイライト中では、白老産が反応率、油収率、油の性状がいずれも良い値を示した。

詳しい内容

 1 各種鉄−硫黄系触媒の活性試験

 石炭の液化反応は約500K?/sの発熱反応であることは知られており、第2次大戦中ドイツで行われた工業規模の反応筒では発熱反応によって、発生した熱の除去のために、冷水素が大量に吹きこまれていた。この発熱を検地して液化反応を知る方法が、高圧指差熱測定装置である。この装置の原理の概要を第1図に示した。

 当所では、この装置を用い鉄系触媒の作用機構、活性度などについて検討を進めてきた。鉄源に赤泥を運び、硫黄元素硫黄、硫化水素、予備硫化などの形で添加した場合の触媒活性につて試験した。その結果、赤泥に硫黄を添加することによって触媒活性が増加することが分った。

 添加方法によって大きな差は認められない。この方法による試験を、さらに鉄硫黄化合物のまで広げ試験した結果、合成パイライトを触媒として用いたもので330℃という低い温度で大きな発熱と水素吸収がみられ極めて高い触媒活性を有していることが発見された。

 2 天然パイライトの触媒作用

 実際に用いた天然パイライトは国内産9種類、スペイン産1種類で、計10種類であり、100mesh以下に粉砕し実験に供した。この結果を赤泥−硫黄系と比較し特に活性が高いという結果は得られなかった。通常赤泥は100mesh以下に粉砕して実験に供しているが、赤泥は凝縮しているために油中では数ミクロンの粒子となって分散しているものと考えられている。このため天然パイライトも超微粉砕し平均粒径2.0μmに調整して実験に供して見た。高圧DTAによる試験の結果発熱ピークがブロードになっているが−100meshの場合と比較して反応開始温度が低く、広い温度領域で広範囲に液化反応が進んでいることを示している。

 2.0μに微粉砕した天然パイライトが石炭の液化に対して高い活性を示す事をすでに述べたが、次にその作用機構、生成物の特性などを明らかにする目的で道内産2種類、岡山県産1種類、秋田県産1種類、計4種類の天然パイライトを用いて液化試験を行い反応生成物の化学構造解析を行った。液化試験は500mlの振とう式オートクレーブを用いて行った。まず、平均2.0μmの微粉と−100meshの場合を比較試験したところ微粉砕することによって反応率の増加、アスファルテン質の減少、オイル分の増加が認められ、微粉砕によって反応率のみならず軽質化も進んでいる事が明らかとなった。

 4種類の微粉砕パイライトの試験結果を赤泥、合成パイライトと比較して第2図に示した。なお、用いた触媒はS/Fe比の順にプロットしてある。また縦軸には、それを用いた場合のオイル、アスファルト質収率を示してある。4種類の天然パイライトだけを比較するとS/Feの原子比が大きくなるにつれてオイル分収率が増加し、アスファルト質が減少しており、触媒活性とS/Feの原子比が密接に相関している事が認められる。

 最後にオイル分1,オイル分2それぞれについての薄層クロマトグラフィーによりタイプ別分析を行ない天然パイライト間の作用機構を比較検討したのが第3図である。白老の天然パライトを用いた場合の生成物が,最も水素化されて,飽和生成物が多い事を示している。この図はオイル分収率からみて活性の高い順に示してあるが、オイル生成に対する活性と水素化による改質活性とは異なっている事が分る。

 特長

 石炭の直接液化を行う場合の触媒につて,合成パイライトが有効であることは知られているが、よりコストを下げるため、天然パイライトを微粉砕することによって有効なことが認められた。

 これは石炭の直接液化法のコクトダウンに有効である。

応用分野

 石炭直接液化技術

特許

 ○ 石炭の液化法(特願)59−06231



第1図 高圧DTA装置

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(1)反応室  (2)標準室  (3)熱電対
(4)保温  (5)埋め込みヒーター  (6)小ヒーター
(7)磁石  (8)攪拌機

第2図 生成油の収率
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第3図 薄層クロマトグラフィーによるタイプ別分析
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