石炭のガス化プロセスにおいては、生成ガス中のタールによるトラブルの発生を防止することが必要である。気流層や溶融層のガス化炉は1300℃以上の高温で操作されるためタールの発生はないと考えてよいが、ガス化後の灰分をドライな状態で取り出す流動層方式のガス化炉は、通常1000℃以下で運転されるためタールの発生が避けられない。流動層ガス化炉における発生タールの分解は流動層の濃厚相で進み、気抱相と濃厚相のガス混合を促進することがタールの低減に効果的であること、タールの低減には気相接触分解法が有効であることなどが報告されている。しかし、タールの発生量および分子量分布とガス化の操作条件との関係についての研究はほとんどない。
そこで、本研究においては連続式の流動層ガス化炉を用いて主に空気、水蒸気で太平洋炭をガス化し、発生するタール量、分子量分布と石炭供給量、ガス化温度、フリーボード部のガス滞留時間等の操作条件との関係を求めた。その結果、流動層部分、フリーボード部分とも温度が高いほど発生タールの低減化、低分子化が進むことがわかった。また、その効果は流動層部の方が顕著であることが明らかとなった。この違いは流動層内の粒子の接触効果と考えられる。さらに、本実験では実プロセスにおいて配管やバルブへの付着が問題となる比較的分子量の大きいタール成分に限定したため、トルエンより蒸留温度の高い成分を測定した。
以上の実験結果は、大型プラントの改造及び実験条件の決定に有効な知見を与えることができた。
1.実験装置および方法
実験装置のフローシートを図1に示す。ガス化炉本体はステンレス製で、内径83mm、ガス分散板から850mmの位置で内径を259mmに広げた。生成ガス出口は分散坂上1850mmと1150mmの2ケ所に設け、生成ガスのフリーボード内滞留時間を変えることができるようにした。石炭はスクリューフィダーによって一定速度でガス化炉底部に供給され、ガス分散板を通して吹き込まれるガス化剤によって流動ガス化される。ガス化後の灰は分散坂上150mmの高さの溢流管から排出される。ガス化剤は空気と水蒸気の混合ガスであるが、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、一酸化炭素を用いてガス化剤のタール発生に対する影響についても検討した。流動層部およびフリーボード部の温度は2系統の外熱ヒーターによって全体が均一になるように制御した。生成ガスに含まれるタール量は生成ガスの一部を分岐し、その中に含まれるタール量を測定して求めた。分岐生成ガスに含まれる水およびタールは水冷のコンデンサー、氷冷のトルエン、塩化カルシウムで捕集し、更に排気ラインに付着したタールも実験終了後にトルエンで洗浄して回収した。実験に用いた石炭は太平洋炭で、表1に工業分析値および元素分析値を示す。
工業分析 (wt%) | |
水分 | 5.2 |
揮発分 | 41.0 |
固定炭素 | 38.4 |
灰分 | 15.4 |
元素分析 (wt%) | |
炭素 | 64.8 |
水素 | 5.1 |
酸素 | 15.1 |
灰分 | 16.2 |
2.実験結果および考察
(1)流動層部操作条件の影響
図2に石炭供給量(F)とタール発生量との関係を示す。同図は層温度(Tb)が900℃、フリーボード温度(Tf)が700℃、ガス化剤流量一定の場合の結果である。粒子溢流口の高さは15cmに固定してあるため層内の石炭ホールドアップ量ははとんど変らなかった。本実験のように高温の流動層内に石炭を供給した場合、石炭粒子は急速に昇温し石炭中の揮発分は粒子の平均滞留時間3〜15分より短い数十秒で気相中に放出される。従って発生するタールの絶対量は石炭供給量に比例して多くなる。図3にタールの発生量に対する層温度の影響についての実験結果を示す。同図はフリーボード温度が700℃の時の結果であり、層温度の増加とともに急激なタール発生量の低下がみられる。また、同図に示したように本実験の範囲では石炭粒子径の違いによるタール発生量の差はなかった。
以上のようなタール発生量の減少の理由を検討するために発生タールの分子量分布を測定した。測定にはゲルパーメシヨン・クロマトグラフィを用いた。測定結果の一例を図4に示す。また、層温度900℃の方が700℃よりも低分子側に片寄っており、層温度の高い方がタールの分解が進むことがわかる。
(2)フリーボード部操作条件の影響
層温度900℃、フリーボード温度700℃の条件における生成ガスのフリーボード内滞留時間とタール発生量との関係を検討した。実測値に多少のばらつきはあるが、タール発生量はガス滞留時間によらないことがわかった。
また、フリーボードの温度の影響については図5に示す。これは流動層部の温度が900℃の場合の結果であり、フリーボードの温度の上昇とともに発生するタール量は減少した。図中の▲印はガス化剤に空気と水蒸気に加えて二酸化炭素5.9%、水素2.2%、一酸化炭素0.9%を使用した場合の実験結果である。これは石炭技研の夕張試験場に設置されているガス化炉の上段炉を想定して行った実験であり、本実験範囲ではタール発生量に対するこれらガスの影響はないことがわかった。また、フリーボード温度を変えた場合の発生タールの分子量分布を調べたが、この場合も図4の流動層部の時と同様に温度の高い方が発生タールの低分子化が進んでいることが明らかであった。
特長
石炭の流動ガス化炉においては、タールトラブルの発生が避けられない。これに対してこの研究では、流動層の操作条件とタール発生量の関係を求め、装置的には流動層部分とフリーボード部に分けて検討している。
この知見は、大型プラントにも応用されて、有効な結果を得ている。
石炭利用工業一般にも応用できる。