TN5 メタノールから低級オレフィン等を得る触媒

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内容要約

 米国モービル社の新ゼオライト触媒によるMTG反応(Methanol to Gasoline)が提案されて以来、メタノールを原料とするガソリン合成、低級オレフィン合成のけんきゅうは活発である。

 当所では、メタノールの化学工業原料への途を開くことを目的とした研究を進めてきたが、その中でゼオライトにならい低級オレフィン(MTO反応)ならびに分枝炭化水素(ガソリン、ジーゼル油留分)合成を可能にする触媒を見出したので、その概要をここに紹介する。

 硫酸担持ZrO2触媒は超強酸としてパラフィンの異性化にも活性を示すことが知られているが、当所で見出したこの触媒は、これに少量のアルミナを加えたZrO2/Al2O3触媒である。

詳しい内容

 1.実験方法

 反応装置は内径10oの石英反応管に所定量の触媒を充填した固定床からなり、原料のアルコールは液クロ用ポンプにて所定量を予熱部に注入し、窒素ガスによる気化同伴方式で触媒と接触させた。得られた生成物のうち非凝縮性生成物はガスクロ(Ar、活性炭2mとクロモソーブ102.4mとの並列方式、100℃)にて、液状生成物はガスクロ(He、OV−101 0.27o×68m、50〜250℃昇温)にて分析した。

 2.触媒

 触媒は硝酸アルミニウムとジルコニウムオキシ塩化物の水溶液をアンモニア水で供沈させる方法を得た。得られた触媒は全て550℃で3時間電気炉で焼成し、14〜32メッシュに粉砕したのち、触媒量の10wt%に相当する硫安を水溶液に溶かし、この中に触媒を浸漬し、乾燥したのち、再度550℃で焼成して触媒とした。触媒の組成は90モル%ZrO2/10モル%Al2O3に10WC%硫安を含浸させたものが最も良好な結果を示したので、以降の触媒組成はこれに固定してデータを得た。

 3.実験結果

 この触媒を用いて行った反応結果を第1表に示した。この結果は、反応開始後4〜7時間の定常値である。

 この表から分かるように、メタノール自身の分解による水素や一酸化炭素の生成はほとんどみられないため、炭化水素収率は非常に高い。加えて、得られる炭化水素にはエチレンとプロピレンを除くオレフィンはほとんどみられない。また、第1表の示した油状生成物の成分を明らかにするためにガスクロマトグラフ分析、質量分析、赤外分析を行ったところ、それは平均分子量156の分枝飽和炭化水素の混合物であることが分った。第1図には、その赤外スペクトルを示した。これは、流動パラフィンの持つメチレン基のC−H伸縮振動(2.919p-1)とほぼ同じ強度のメチル基に起因するC−H伸縮振(2.960p-1)のあることを示している。つまり、流動パラフィンの保持時間と対比させたガスクロマトグラムから調べてみると、C7〜C10とC11〜C15の2つに分布がみられる。前者は、その沸点範囲から考えてガソリン留分であり、後者はジーゼル油留分と見なせよう。

 このように、本触媒が活性を示したのは、イソブタン生成に対するのみでノルマルブタンやブテンの生成に全く活性を示していないことからも第1表に対する結論は妥当なものであろう。

 次に、反応経路を調べてみた。第2図には,反応の経時変化を示した。この図から明らかなように、反応初期にはエチレンとプロピレンの州立は非常に高い。しかし、反応時間の経過とともにそれらの収率は減少し、代わって、分枝炭化水素収率が増してくる。

 見かけ上、分枝炭化水素の生成はエチレンとプロピレンを経由する逐次反応によって進行するものとみなされる。

CH2=CH2→CH2=CH−CH3→CH3CH−CH3・・・・(1)
 |
CH3

 (1)式は本触媒の機能をよく表している。つまり、エチレンの生成とそれに引き続く不飽和結合へのメチル基付加によるものと理解される。他方、エチレンの生成は全く異なった触媒活性によってもたらせられたとも考えられるが、仮にエチレンはエタノールを前駆体として生成したものと考えるならば、これも原料のメタノールへのメチル基付加によって進行したと考えることもできよう。これらの点を明らかにするために原料にエタノールを混合し、反応系内のエチレン分圧を高めた場合の反応生成物分布を調べてみた。あわせて、プロパノールを混合し、系内のプロピレン分圧を高めた場合も調べ、第2表にその結果をまとめた。

 反応に用いた原料組成は、メタノール(Me)に対してエタノール(Et)、プロパノール(1−Pr、2−Pr)のいずれも4:1とし、反応温度は350℃、液室間速度は2.0h-1で、これをメタノール単味を原料としたときの結果と対比させた。その結果、エタノールやプロパノールを混合すると当然のことながら系内のエチレン、プロピレンの分圧は増すが、これに伴って、エタノールを混合した場合にはプロピレン収率が増し、プロパノールを混合した場合にはインプタンがならびに油状生成物収率が増している。

 このことにより(1)式の妥当性が証明されたものと考える。

 特長

 メタノールを原料として、ガソリンなどを合成する研究は諸外国でも活発に行なわれている。この研究の成否は、一に良好な触媒の発見にあることは言うまでもない。

 ここで紹介したものは、非ゼオライト系の触媒として優れた結果を得たものであり、実用触媒としても、充分可能なものであると考えられる。

応用範囲

 メタノールからガソリン、低級オレフィンの合成

特許

 ○ 低級炭化水素の製造法(特願)58-034254

第1表 反応生成物
反応温度(℃)280320300350
LHSV(h-1)0.440.440.880.88
反射率(%)88.689.985.489.7



(%)
Hydrogen---tr.
DME97.543.197.148.2
Methane-2.0-4.8
Ethylene1.525.21.822.7
Ethane----
Propylene1.015.71.114.7
Propane----
i-butane-3.7-5.4
n-butane----
油状生成物tr.5.8tr.3.7

第2表 混合原料による反応生成物
原料(Me/Et.Pr)MeOHMe/EtMe/1-PrMe/2-Pr
反応率(MeOH)89.085.186.183.0
(Et.PrOH)100100100



(%)
Hydrogen1.30.40.10.2
DME94.152.339.942.2
Methane3.30.61.61.1
Ethylene0.743.67.06.5
Ethane----
Propylene0.93.145.745.0
Propane----
i-butane--2.12.0
n-butane----
油状生成物-tr.3.53.0


第1図 油状生成物の赤外スペクトル
TN5F1.gif

第2図 反応の経時変化
TN5F2.gif