TN45 石炭液化水溶性生成物のスチームガスクロによる分析

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内容の要約

 ガスクロマトグラフィーは高感度、高分解能な化学分析法の一つとして今やどの研究室においても見うけられる程普及している。その反面問題点も多々あり、高沸点、高極性試料あるいは多量に水を含む試料に対しては分析の迅速性に欠け、カラムの劣化を引きおこす等試料の種類及び形態に対する制限がある。しかし、最近高沸点、高極性物質をも迅速に分析でき、かつ水溶液状の試料においてもカラムの劣化がない水蒸気をキャリアガスとする新しいガスクロマトグラフィーが開発された。

 本報告では、このスチームクロマトグラフィーの原理、特徴および高極性試料に対する基礎試験結果について述べ、さらに石炭液化装置の廃水中、また、液化油中のフェノール類に対して適用した例について報告する。

 本法は歴史も浅く、今後、専用の分離カラムの開発、吸着剤表面での水分子および試料分子の挙動の解明等改良の必要な部分がある。しかし、本法の特長である、クリーンな分析法であること、水溶液でも前処理の必要の少ないこと、適用範囲も広く特に高沸点、高極性物質に有効であるところから、新しい石炭化学の分野等での利用が期待できる。

詳しい内容

 1.スチームクロマトグラフィーについて

 従来のガスクロマトグラフィーは大別して気−固クロマトグラフィーと気−液クロマトグラフィーがある。気−固クロマトグラフィーは分離カラムに固体吸着剤粉末を用いるものでそれらは主に多孔質のシリカ、アルミナあるいは活性炭などである。従って、分析の際カラム温産を高められる等の長所の反面、液体および固体試料ではその吸着エネルギーが大きすぎ、通常のカラム温度では分離カラムから容易に溶出しないこと、特に極性の大きな試料に対しては使用が難しい。一方、気−液クロマトグラフィーでは塗布する液相成分は多種類選択でき、現在ガスクロマトグラフィーの主流をなしている。しかし、水を含む試料にたいしては水の大きな極性のため、他成分の溶出、再現性を妨げ、かつ、固定液相との反応によりカラムの劣化をひきおこす原因となる。また、固定液相が水とともに溶出し、試料成分との判別が困難になる等の間題もある。

 上述したことはキャリアガスとしてヘリウム等の不活性ガスを用いた場合であるが、スチームをキャリアガスとして用いると高沸点、高極性あるいは水に溶存している微量有機成分などに対しても迅速かつカラムの劣化のない分析が可能となる。これをスチームクロマトグラフィーと呼んでいる。図1にスチームクロマト装置の概略を示したが、キャリアガスとしてスチームを使用しているところ以外通常のガスクロとほとんど異なるところはない。



図1 装置の概略
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 2.フェノール類の分析に対する基礎的特性

 フェノール類は極性が大であり、かつ、水を含んでいる事が多く、テーリングが大きい、溶出が遅い、カラムが劣化しやすいなど、通常のガスクロマトグラフィーでは分析のしにくい試料の一つである。ここでは各種フェノール類を試料としてスチームクロマトグラフへ適用した結果について述べる。

 使用したスチームクロマトグラフは大倉理化学研究所製SSC−2型であり、吸着剤としてケイソウ土粉末を選び、内径2o長さ3mの分離カラムとして使用した。また、フェノール類の分析条件をカウラ温度160℃、インジェクシュン温度180℃、スチームキャリアガス流量を水換算で10μl/o、試料注入量を1μlとして、以下について検討した。

 4〜1000ppmのフェノール水溶液を分析し、各ピーク面積と濃度の関係を図2に示したが、濃度とピーク面積は良好な比例性を有しており、濃度範囲の広い分析が可能であることが明らかとなった。



図2 フェノールのキャリブレーションカーブ
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 3.石炭液化油中フェノール類の逐次抽出物に対する適用例

 北開試0.1t/dベンチプラントにて幌内炭を液化した生成油の初留点〜130℃までの留分を1%NaOH水溶液にてフェノール類を逐次抽出し測定を行った。

 フェノール類の酸塩基抽出では通常、(アルカリによる抽出→油層水層分離→ベンゼン等による精製→酸による中和→油水層分離→分析)という手順を踏むが、スチームクロマトグラフィーでは、水溶液のまま測定できるという利点を持つ。すなわち、アルカリによる抽出を行った水相、あるいはそれを精製したものを直接分析に供にすることができる。そのクロマトグラムの例を図3に示したが、フェノール、クレゾールなどのピークが良く分離されていることがわかる。抽出回数による試料/μlあたりのピーク面積値の経時変化を図4に示したが、抽出回数が増すにつれて、よる高分子量のフェノール類が抽出されてくることが明らかである。



図3 逐次抽出により得たフェノール類のスチームクロマトグラム(4回目)
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図4 各フェノール類のくりかえし抽出回数とその濃度の相関
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 特長

 スチームガスクロを用いて、従来、困難とされていたフェノール類の分析を、直接行うことを試みた。その例として、石炭液化プラントの生成油のフェノール類を逐位抽出し測定を行った。

応用分野

 石炭化学、石油化学工業などにおける分析技術として有効である。

特許

 石炭液化油中の酸性油および塩基性油の分離方法

 (特願)59-017379