近年、石油系重質油の直接脱硫プロセス、石炭液化プロセス等の技術が開発されてきている。これらのプロセスは、前者では、H2を添加し、重質油中のS、Nを取り除き、良質の軽質油を得ようとするものである。後者は、固体石炭に、H2を添加し、液体燃料を得ようとするプロセスであり、反応条件は、400〜500℃、 H2圧力29.4MPaである。これらのプロセスの副産物として、前者では、H2S、NH 3、後者では、H2S、NH 3、HClが生成する。特に、石炭中にはSが5wt%、Clが0.29wt%も含まれているものがあり、還元雰囲気下でのH2S、HClによる腐食が大きな問題となっている。したがって、これについては、すでに多くの報告が出されそいる。しかしながら、H2−H2S系では、
低温域(〜600℃)での腐食挙動についての報告は、あまり見ることができない。さらにH2−HCl混合雰囲気での研究も少ない。
本研では、これらのガスの還元雰囲気下での硫化、塩化腐食挙動の基礎的な知見を得るために、Fe、Co、Niの400〜1000℃のH2−H2S(2%)、H2−HCl(2%)下での硫化、塩化腐食挙動を、速度、スケールの組成、形態について、熱天秤、X線回析装置、走査型電顕、X線マイクロアナライザー、オーヅエ電子分光装置などを用いて検討した。
1.実験方法
本実験では、市販のFe、Co、Ni金属を用いた。表1にその組成を示した。各金属試料片は、シートから10×5×0.5oこ切り出し、真空中で800℃、72hr焼鈍した。次に試料片の金属面を、No.600までの耐水研磨紙、1μmアルミナ、MgO研磨材を用いて仕上げた。その後、石英ロッドに吊り下げるために、径1oの穴をあけ、ベンゼソ中での超音波洗浄により脱脂した。図1に示した石英スプリングを利用した全自動熱天秤装置を用いて、硫化、塩化反応速度を測定した。実験では、H2S、HClが2vol%含まれるH2との混合ガスを用いた。ガスは流量計、乾燥器を経て反応管に導かれた。反応管中のガスは下向流で、線速度0.53p/secで測定を行った。試料片は、炉の均熱帯の中心に置かれ、H2流通下で所定の温度まで、昇温し、2hr保持された後、系中のH2を排気し、混合ガスを導入した。この時点を測定開始とした。測定は、通常20hr行った。塩化腐食の実験では、揮発性の生成物が生成するが、ガス流通は、下向流のため、石英棒、スプリングには付着せず管壁およびトラッブで補足された。本研究で使用した熱天秤の精度は、0.12r/Div(CCDの読み取り精度:15r/Div)であった。
C | Si | P | S | Cu | Al | Mn | Fe |
0.008 | 0.19 | 0.017 | 0.01 | 0.01 | 0.004 | 0.24 | bal. |
Ni | Fe | Cu | Pb | Mn | Zn | Si | S | Co |
0.15 | 0.01 | 0.005 | 0.001 | 0.001 | 0.001 | 0.01 | 0.003 | bal. |
Cu | Fe | Mn | Si | S | Ni |
0.10 | 0.15 | 0.20 | 0.05 | 0.005 | bal. |
2.結果及び考察
実験の結果を図2に示した。Feの場合、555〜704℃の温度範囲では、放物線則で整理でき、403〜504℃では、直線則で整理できた。Coの場合、反応後期では、放物線則にのるが、初期ではズレている。これは、反応初期に生成するスケールは、皮膜が薄く、十分な保護性を示さないためと考えられる。Niの場合、555、605℃では、特異な挙動を示し、605℃では、反応時間12hrで反応は停止した。試料片中の金属Niは消滅し、全て硫化物になっていた。643℃では、反応時間75oで試料片は溶解した。ここでは、NiとNi3S2の共晶が生じ、溶解したことがわかる。506℃以下の温度では、Coと同様な挙動を示した。次に硫化物スケールの形態を走査型電顕により、スケールの表面、スケールの底面、金属上の硫化物の断面について観察した。Feでは、スケール表面は、スムーズであるが、スケールの底面は、薄片が金属面に垂直に重なりあった型態を示している。この薄片は六角形であって、六方晶系であるFeSが重なりあっているものと考えられる。Niの場合のスケールは、Feの場合と類似していた。Coの場合は、Fe、Niと比べ、スケール表面の粒子の大きさは均一でなく、さらに、スケール底面の走査型電顕観察では、薄片は見られなかった。各スケールのX線回析では、結晶性化合物は、Feは403℃でPyrrhotite(Fe1-xS(x=0.12))、他の温度ではTroilite(FeS)、CoはCo9S8、NiはNi3S2であった。Pyrrhotite、Troilite、Ni3S2は六方晶系、Co9S8は立方晶系であり、この差がスケール形態の相異となっているものと考えられる。各金属とも温度が高くなる程、スケール粒子も大きくなり、均一化していった。
(2)塩化反応
Fe、Co、Ni片を503〜1010℃の温度範囲で、H2−HCl(2%)雰囲気下での塩化腐食について検討した。FeおよびCoの結果を、図3に示した。Coは1010℃で減量が観察されたが、その量は20hrで、Co片の0.5wt%であった。Niは、本実験での熱天秤測定では、減量は見られず、H2−HCl下では、腐食席は生じなかった。Fe、Coの場合、反応は直線則で整理できた。Feの場合、反応管壁に、黄白色の鱗片状の物質が付着した。これはFeCl2である。本実験では、
Fe+2HCl→FeCl2+H2・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
FeCl2+HCl→FeCl3+1/2H2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
の二つの反応が考えられる。
熱天秤測定後のFe片の表面をオーヅエ電子分光装置で調べた。また、612、709℃で20hr処理後の片の走査型電顕写真によると、低温では、粒界が反応し、深くえぐられていることがわかった。温度が高くなるに従い、粒界以外も反応していく。オーヅエ分析によれば、表面からClが検出されるとともに、612℃の走査型電顕写真に見られる、丸い突出物からは0が多く検出された。表面に付着しているFeCl2は、空気中のH20、02により酸化されたものと思われる。塩化腐食により、表面に生成するFeCl2の融点は877℃、沸点は1026℃であるが、FeCl2の蒸気圧は高く、本実験範囲では、試料表面にごくわずかしか残存していない。
特長
石油の脱硫装置あるいは北開試等で進められている石炭の液化装置などの硫化、塩化腐食について基礎的検討を行った。実験装置としては耐食用の熱天秤を試作して使用した。その他、電顕的観察なども行い上記腐食についての知見を得た。
上記装置関係以外、例えばごみ焼却炉、廃プラスチックス処理装置などにも適用できる。
熱量分析測定装置(特願)59-169764