TN43 寒冷地型高度水処理技術

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内容の要約

 北海道のような降雪寒冷地においては、冬期の凍結や積雪のため温暖地のように下水や産業排水などの処理施設を屋外に設置することができず適当な上屋を必要とし、更に水温を処理適温に維持するために加温を必要とする場合もある。特に、本道の産業は農林、畜産および水産などの加工業が多くこれらの産業排水の処理には活性汚泥法などの微生物処理が最も効果的であることが知られている。

 しかしながら微生物処理は水温の低下とともに活性も低下し、5−6℃以下では見掛け上活動が停止したかのようになる。

 従って、微生物処理を行う場合には水温を少なくとも10℃以上に保つ必要があり、寒冷地ではこのため多額の燃料費が要求される。以上のことを総合すると、従来温暖地方で普及している微生物処理技術を適用すると上に述べた防寒施設費および燃料費を含めて温暖地方の約3倍の経費がかさむと言われ、これが本道における産業排水処理普及の大きな隘路になっている。このような現状から、寒冷地における水処理に対して抜本的研究と技術開発を早急に行う必要があると判断し本研究の立案となった。研究立案に際しては

 1) 対象排水の選定および目標水質の選定

 2) 開発対象とする水処理技術の選択

 3) 1)、2)に対する寒冷地向技術開発

 等を中心に検討を重ねた結果、成果に普遍性を持たせるため特定の排水を対象とせず種々の排水や下水で汚染された河川水を上質な産業水として利用するための高度処理技術の開発を行うこととした。研究開発の具体的目標は、(1)処理水の水質をBODlOr/l、アンモニア態窒素2r/l、およぴオルトリン酸態リン0.2r/l以下とする。(2)処理方式は微生物処理を主体とし水処理施設は屋外に設置し得るものとする。

 そのために、設置の占有空間をでき得る限り小さくするように立体かつコンパクト化し、また熱損失を防止するため可能な限り密閉構造とするなど従来の開放池型平面構造に代わるいわば塔構造の装置構成からなるプロセス開発を主眼とする。

 そして、上記の目標に沿う高度処理プロセスとして、次の単位処理による構成が提案された。原水→a)疎水性媒体接触式油分分離処理→b)多段曝気式活性汚泥処理→c)吸着材を使用する微生物脱窒処理→d)脱リンろ過処理。

 a)はエマルジョン状に分散した油分を含む排水を疎水性媒体(ポリエチレンや人造ゴム等を粒状にしたもの)に接触させることにより、媒体表面に微細油分粒子を附着合−させ大きな油滴に成長させて浮上分離する原理に基づいている。b)は、従来主として開放面の大きい池型曝気槽を用いて行っている活性汚泥処理を、多数の目皿で仕切りをつけて多段化したカラム型曝気槽中で行わせるもので反応効率の増大、装置のコンパクト化および熱損失の防止等を図る。c)は、被処理水を天然ゼオライト充填槽に通してアンモニウムイオンを吸着除去しついで使用済ゼオライトを硝化槽に移し硝化菌の作用により吸着したアンモニウムイオンを硝化脱離させて再生、循環使用する。硝化液はゼオライト通過液と合体して、脱窒菌を附着させた活性炭で窒素に還元してアンモニア態窒素を除去する方式である。

 d)は、仕上げ工程で複層ろ槽、リン吸着剤充?槽および粒状活性炭槽を直列に連結しオルトリノ酸態リン、濁度および微量有機物などを除去するのが目的である。複層ろ槽へ通ずる導水パイプの注水口附近で、凝集剤およぴpH調整剤 を添加するようになっており槽内における接触凝集作用により脱リンや除濁効果を向上させるようになっている。以上の高度処理プロセスの研究には各単位処理毎に研究グループを組織し、基盤研究を行ってそれぞれの試験装置を試作し、後半でこれらを直結した一連の高度処理プロセスに対する連続処理試験を行って評価を試みた。

詳しい内容

 I 媒体流動法による油分処理

 1.まえがき

 工場から排出される油性汚水の種類は極めて多く、濃度もまちまちであり、油滴の粒産も多種多様である。従来から、油分の処理は殆んどが化学的方法で行われてきた。しかし、例えば加圧浮上法や電解浮上法は有効な処理法であるが、装置が複雑であり、高価になるばかりでなく、人手がかかる上、多量のスカムを生じる欠点がある。これに反し、物理的処理のみによって油水分離を行えばスラッジの生成はなく、分離した油は燃料としても使用できる。しかも自動化することも容易であり、ランニングコストは安価になる。

 当所では、媒体流動方式による油分の分離法の基礎研究を行ってきたが、これは比重が水より小さいか、または大きい媒体をそれぞれ排水の下向き流または上向き流の中に置くことにより、媒体が活発に動き回り、器壁や粒子相互と衝突することを利用したもので、流動層の特徴として知られているように、反応容器内の各部分は均一な状態になる。

 媒体流動方式による油分分離法は上記流動層の特性を利用するものであり、親油性と撥水性を兼ねそなえた媒体(ゴム類、特殊プラスチック類等)を油分の凝集核として排水中に浮遊流動させることにより、油滴への生長を行わせると同時に混在する懸濁物質の凝集効果をもあげるものである。また、媒体粒子の相互洗浄作用があるため、媒体再生が不用になると考えられる。この媒体流動処理装置の実用化のためには、実験用処理装置の性能にかかわる因子(処理水量、液流速、攪拌速度、原水油分濃度、媒体充塀量、流動処理装置の高さ等)について、定量的に把握することが重要である。

 2.実験方法

 (1)実験装置

 塔の内径100o、高さ1,000oのパイロット装置を試作し、これを実験用処理装置として使用した。装置のフローシートを図I−1に示す。本装置は流動槽、沈降分離槽、油分回収槽の三槽で形成されている。最上部の油分回収槽は分離された油層の滞留部であり、原水は流入口から流入する。流動槽には親油性、撥水性の粒子による凝集核(媒体)を収納する。処理水が下向流の場合には、凝集核の比重は水よりも小さいものを使用する。最下部の沈降分離槽は水よりも重い不純物の沈降を行うもので、凝集核表面より脱落した附着物、重質油などは、ここで水と分離され、沈降分離槽排出口より排出される。油分と分離された水は流出口より取り出される。上下の多孔板は凝集核の浮上または沈降による流出を防止する。また、流入口、油分排出口の高さは、処理されるべき物質の状態、比重などにより計算して決定すれば、自動的に油水分離状態を保ったまま水と油は排出される。ただ本装置はピストンフローではないため、反応率が低下する(反応速度によるが)と考えられるので、対策として多塔化が考えられる。

 (2)連続処理用モデル排水

 モデル排水としては、灯油をディスパージャーで、10分間、油:水=1:9で攪拌したものを、さらに家庭用ミキサーで10倍に希釈し、油分10,000ppmのエマルジョン液としたものを原水貯槽の攪拌機によって、所要油分濃度まで希釈して原水とした。

 (3)油分測定

 水中の油分測定は、油分測定用四塩化炭素で抽出し、その抽出液の赤外線吸光度(波長、3.4〜3.5μ付近のCH伸縮振動による吸収)を測定し、油分濃度を求めた。

 2.連続処理実験



図I-1 実験装置
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1.原水タンク

2.ポンプ

3.流量計

4.攪拌機

5.流動層

6.スラッジ

7.油タンク

− 下向流

・・・上向流



図I-2 処理水量と油分除去率
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 (1)処理水量と油分の除去率

 実験の結果を図I−2に示す。処理水量の増加により油分の除去率は低下するが、これは、滞留時間と流速の両方が影響しており図I−3、4に示す通り、滞留時間が大きい程、また流速を小さくする程、除去率が良くなることが明らかになった。



図I-3 処理水速度と油分除去率
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図I-4 層内滞留時間と油分除去率
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 (2)攪拌速度と除去率

 攪拌速度を大きくする程、油分の除去率は良くなるが、媒体表面の破損が著しくなるため、50〜100rpmの範囲での攪拌で媒体の破損に対する影響が少ないことがわかった。

 (3)塔長と媒体の充?率

 塔長と媒体充?率による油分除去率の変化について、検討を行った。その結果、流動槽の長さは、1,400oまでは塔長の増加とともに除去率は良くなるが、1,400o以上にすると除去率が低下することがわかる。また、媒体の充?率を増すと油分の除去率は若干良くなるが、その影響が小さいことが明らかになった。

 (4)油分の収支

 除去された油分の行方について検討した結果の1例を表I−1に示した。

 

表I-1 油分収支(下向流)
原水中の
油分(A)
処理水中の
油分(B)
溢流水中の
油分(C)
媒体中吸着油分
D=A-(B+C)
(1)290g/hr120g/hr8g/hr162g/hr
(2)120g/hr44g/hr3g/hr73g/hr

 

 II 多段ばっ気法による微生物処理

 1.まえがぎ

 有機性廃水を処理するために、生物学的方法の一つである活性スラッジ法が広く使われている。寒冷地においては、特に熱の逸散を抑え水温の低下をなるべく少なくして微生物の活性を維持することが必要である。活性スラッジ法において高負荷処理の障害になるのは、微生物の有機物との反応速度の問題よりは、むしろ微生物相が変化することにより処理水と微生物スラッジの分離が困難になる場合であることが多い。このうち、糸状性微生物が優占種になってスラッジが膨化し、沈降分離がうまく行かず処理水にスラッジが流出する状態が糸状性バルキングと呼ばれる現象である。

 高負荷微生物処理を目指すためには、微生物の浄化能力を最大限に利用しながら沈降性の良い微生物相を維持することが必要になる。ばっ気槽内を押し出し流れにすることによって、糸状菌の増殖が抑制されることが知られており、寒冷地における高負荷の生物学的処理を行うためにはこの知見を応用する。すなわち、装置内に流れ方向の逆流を防止するための仕切板を入れることにより多段化すると、押し出し流れに近づいた流れ特性をもたせることができる。寒冷地における熱の逸散を少なくするためには、開水面をなるべく少なくし、かつ装置の表面積も小さくすることが必要である。これらの点を考慮に入れ、本システムでは有機性汚濁物の微生物処理において、たて型多段ばっ気槽を採用することにした。

 2.たて型多段ばっ気槽の仕様

 本システムに採用したたて型多段ばっ気方式活性スラッジ法の装置図を図II−1に示す。[1]は6段からなる円筒たて型ばっ気槽で、内径0.31m、高き3m(1段の高さ0.5m)で、穴あき仕切板によって各段を分けている。各段の内容積は37.7l、槽全体で22.6lである。仕切板は厚さ3oのアクリル樹脂製で、直径4oの穴がピッチ8pの三角形配置で19個あけてあり、この開口比は0.32%である。1段目の底面には、ピッチ4oの三角形配置で55個の空気吹込みロがあり、コンプレッサーからの空気が計量された後、分配されて各吹込み口から槽内に送り込まれる。各段のうち半分、すをわち高さにして0.25mはステンレス鋼製のウォータージャケットになっており、恒温槽からの一定温度液が循環している。他の半分はアクリル樹脂製で、サンプリング口と溶存酸素電極取付口が設けてある。槽全体を発泡スチロールで断熱してある。[2]は沈降槽で、溢流部の外径0.4m、円筒部深さ0.4m逆円すい部深さ0.4mで槽内容積は65.3lである。ばっ気槽からの活性スラッジ混合液は、沈降槽の中心部にはいり、スラッジが沈降し、上澄水が溢流して処理水となりスラッジはばっ気槽に返送される。壁面に付着したスラッジは、低速で回転するスラッジかき落し用のくさりで落される。[3]は記録式多点溶存酸素計で、ばっ気槽各段に取りつけた溶存酸素電極からの信号を記録し、アナログ信号を出力する。温度補償付ガルバニ電池式隔膜電極を12本接続できる。測定範囲は0〜25または0〜5rO2・l−1で記録計と関係なく切換スイッチにより任意の点ついてデジタル表示できる。[4]は酸素消費量演算装置で、ソード社製マイクロコンピュータM223MarkIIを使い、[3]からの溶存酸素濃度信号と、別途求めておいた総括物質移動容量係数(KLa)および温度と水圧の補正をした飽和溶存酸素濃度とから各段における酸素消費速度を求める。所定時間間隔(通常は1分間)毎に取り込んだ測定値は、フロッピーディスク記憶装置(6段の各点について1分間毎の値を1週間分の容量)に記憶する。この結果は所定の時間あるいは必要な時に、各段の酸素消費速度分布または各段毎の時間経過としてCRTでディスプレーに表示させ、またXYプロッターに書き出させることができる。[5]は循環式恒温槽で、空冷式0.75KW冷凍機と2KWヒーターによって容量200lの水槽中の水を温度調節し、この水がばっ気槽のウォータージャケットとの間を循環する。

 3.連続処理実験

 (1)実験方法

 原水の調整にあたっては、実廃水の要素のうち多成分を含む点から都市下水の一次処理水をベースにし、さらに工場廃水を想定した有機物濃度にするためにコーンスチープリカー(CSL)濃厚液またはCSL濃厚液とグルコースを添加した。実験条件の一例を表II−1に示す。この中で、原水BOD、原水CODおよび混合浮遊物濃度(MLSS)は測定値の期間平均値で示してある。調整原水は長期保存できないので1日分500lを毎日調整した。

 一次処理水500lに対し、S−1ではCSL濃厚液を0.9l、S−2ではCSL濃厚液0.4lとグルコース180gを添加した。

 低温かつ高負荷にかける多段ばっ気槽内の窒素およびリンの動向を調べるために、原水および処理水について窒素化合物およぴリン化合物を分析した。窒素についてはケルダール法で全窒素を求め、オートアナライザーによって求めたアンモニア態窒素との差を有機性窒素とした。リンについては硫酸分解法によって全リンを求め、別にオルトン酸態リンを求めて差を有機性リンとした。

 

表II-1 連続試験の条件
原水成分一次水+CSL一次下水+CSL+Glucose
BOD[mg/l]864942
COD[mg/l]362458
供給速度[l/hr]1919
返送汚泥[%]5050
平均滞留時間[hr]88
MLSS[g/l]3.343.32
温度[℃]55
ばっ気速度[m/hr]10.810.8


図II-1 実験装置
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1.ばっ気槽、2.沈降計、3.DO計、4、コンピューター、
5.恒温循環機、6.DO電極、7.サンプリング箇所、
8.ウォータージャケット、9.保温材、10.仕切板


図II-2 BOD、CODの変化
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図II-3 SS、pHの変化
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図II-4 格段のCOD、pH
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図II-5 格段の溶存酸素と酸素消費速度
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図II-6 混合液浮遊物濃度とスラッジ容量指標の変化
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図II-7 余剰スラッジの変化
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図II-8 窒素およびリン収支
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 (2)結果と考察

 原水と処理水についてBODとCODを測定した結果を図II−2に示す。原水の調整にあたってはCSL濃厚液の一定量を添加しているが、原水濃度のばらつきは避けられない。原水についてはBOD値がCOD値の2倍強であるが、処理水についてほぼ同程度である。S−1およびS−2を通して処理水のBODおよぴCODは大きな変動がなく、除去率はBODおよぴCODについてそれぞれ95%以上および85%以上を達成していることがわかる。

 図II−3は、原水と処理水について浮遊性懸濁物(SS)とpHを測定した結果を示す。原水のSSは、ベースとなった下水一次処理水の状態によって大きくかわり、また原水タンク内で日数とともに一部沈降することの影響を受けるので変動している。いずれの場合も処理水のSSは同程度になっている。 pHは、原水で約6.5処理水で約7.8%と比較的一定した値になっている。

 ばっ気槽内の各段におけるCOD除去とpHの経過を図II−4に示す。除去可能なCODの約85%以上が1段目において除去されていることがわかる。 pHは1段目にはいった時点で緩衝作用を受け、その後6段目までほほ一定値で送られている。

 各段における溶存酸素濃度と、これをもとに算出した酸素消費速度を図II−5に示す。1段目の溶存酸素濃度はほとんど0になっており、酸素消費速度はKLaの値によって決まる値昨になる。CODの除去が1段目にいて著しいのに比べて酸素消費速度はそれほど著しくはなく1段目においては、十分な酸素がなくとも基質の除去が進行していることがわかる。

 6段目から抜き出した液について、30分間のスラッジ沈降容積(SV30)および混合液浮遊物濃度(MLSS)を測定しスラッジ容量指標(SVI)を求めてズラッジの沈降性をみた経過を図II−6に示す。 SVIは70ml・g-i程度であり、沈降槽における分離に支障はなかった。MLSSを一定に保つために返送スラッジの一部を引き抜き、引き抜き液のMLSSと液量を測定して引き抜き余剰スラッジの乾燥重量を求めた。この経過を図II−7に示す。

 原水濃度、原水流量およびばっ気槽内MLSSの期間平均値からスラッジ当り負荷を計算するとS−1およびS−2についてそれぞれ0.50および0.57g(BOD)/g(SS)・dayとなり、温度が5℃であることを考えるとかなりの高負荷であると言える。高負荷においては余剰スラッジの生成が問題になるが、期間中のBODの総量と抜き出しスラッジ総量からスラッジ生成率を求めると、S−1およびS−2についてそれぞれ0.38および0.51g(SS)/g(BOD)となった。S−2においては原水中のSS分が多く、これが取り込まれてスラッジ生成量が増加したものと思われる。

 窒素化合物およびリン化合物の分析結果に基き、各々について、物質収支を見た結果を図II−8に示す。亜硝酸態および硝酸態の窒素は検出されず、本実験範囲の温度と負荷条件では硝化が起きていないこと、また有機態窒素は菌体として固定され、余剰スラッジとして抜き出される部分の多いことがわかる。リンについてもオルトリン酸態リンが大部分余剰スラッジ中に固定されて除去されていることがわかる。

 III 吸着剤を用いた微生物脱窒処理

 1.まえがき

 下水、排水中の窒素化合物は、有機態窒素、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素の形で存在する。このうち、有機態窒素は、処理の対象となる下水、排水が、処理の前段で微生物処理(活性汚泥処理)を経ている場合には、BOD成分の除去の際に、微生物の作用により除去され、一部はアンモニア態窒素に転換されているものと見られる。この研究では、活性汚泥処理後の流出水を対象として、窒素化合物の除去の検討を行うが、除去の対象は、上述の理由により無機態窒素、すなわちアンモニア性窒素とする。そして、脱窒素処理法として、微生物処理とゼオライトによるアンモニアの吸着除去法とを組み合わせ、低温度の下に操作可能な窒素除去法の開発を試みた。

 2.実験方法および装置

 実験は、充?カラムによる(半)回分式流通試験および攪拌槽型試験装置による連続式験を行った。カラム試験には直径約60o、高さ1000oの透明アクリル樹脂製円筒を用い、内部にはビーズ状活性炭(呉羽化学工業製)を充?した。試料水は上部より流下する下向流とし、好気性試験(硝化)のときは徴加圧として、若干量の空気を試料水と共に供給した。実験に用いた試料水は合成試水であり、硝化試験に供した試料水の組成はK2HPO4・3H2O(49.8r′)KH2PO4(28.0r′)Na2HPO4・12H2O(55.5mg′)MgSO4・7H2O(50.0r′)FeCI3・6H2O(3.0 mg′)MnSO4・nH2O(5.0、r′)CaCI2・2H2O(37.Or′)GIucose(0〜250r′)(NH42SO4(27.3〜163r′)を脱イオン水1lに溶解したものである。また、脱窒素試験に供した試料水の組成は、NaNO3(121mg′)K2HPO4・3H2O(40r′)MgSO4・7H20(180mg′)FeCI3・6H2O(0.75r′)KCI(0.5g)CH30H(55r′)を脱イオン水1lに溶解して調製した。ただし、硫酸ナトリウムおよびメタノールまたはグルコースの量は実験計画により適宜変更することにした。

 攪拌槽型試験装置の概要を図III−1に示す。供試水は定量ポンプにより攪拌槽に導かれ、ここでゼオライトと接触し、大部分のアンモニアは吸着される。次いで、捷拝槽2に溢流し、ここで硝化菌の働きにより硝化作用を受け、アンモニアの一部分は硝酸イオンに変えられる。攪拌槽2を出たゼオライトと試水は、次ぎに、沈降槽に入り、ここで上澄液と固体に分かれ、上澄液は脱窒処理を受ける。固体は攪拌槽3に入り、ここで硝化菌により十分な硝化作用を受け、アンモニアの吸着力を回復し、処理水の一部と共にスラリー状で攪拌槽1へ返送される。また、ゼオライトは試験中に磨滅し、徐々に流失していくので、注入口Aより時々補給する。使用したゼオライトは、秋田県ニッ井産の天然ゼオライトで、使用に際して、ポールミルで破砕し篩分けし、粒度を100〜150メッシュに揃えた。

 攪拌槽2、3は内容約1.5lの円筒形である。一方、沈降槽で分離された上澄液はポンプで活性炭を充?した脱窒素筒に送り、メタノ−ルを添加したのち脱窒素処理を行う。充?した活性炭は基礎試験と同じビーズ状活性炭である。

 使用した硝化菌および脱窒素菌は、当試験所の近傍に散在する野菜畑のごく表層より採取し、集積培養を行ったものである。

 アンモニアイオンの分析はインドフェノール青法により、硝酸イオンの分析はクロモトロープ酸法により、また、メタノールの分析は島津製作所製GC−7A型ガスクロマトグラフより、充?剤としてTenexGCを用いて、それぞれ分析した。

 3.実験結果および考察



図III-1 実験装置
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図III-2 温度による硝化菌反応
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図III-3 硝化量の時間的変化
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 (1)カラム試験

 硝化菌の実験結果を図III−2に示す。硝化菌の十分に付着したカラム試験によると、硝化反応は20〜25℃附近に最適な温度範囲が存在し、これより温度が低下すると共に硝化能力はいちじるしく低下する。しかし、50℃においてもまったく硝化能力が停止するわけではなく、25℃のとき30%以上の処理能力をもっている。

 ここで問題となることは、硝化菌をあらかじめ少量添加したのみで硝化試験を行うとき、反応温度を5℃に設定すると、アンモニアの硝化がほとんど進行しないことである。すなわち、活性汚泥処理のようにBOD酸化菌が共存する条件のもとでは、硝化菌は世代時間が長いことからみて、5℃では“Washout”現象により菌が流出し減少するので、硝化処理を行うことが不可能になるものと推定される。

 次に、脱窒素菌の実験結果を図III−3に示す。脱窒素菌は低温度においては、最適温度領域にくらべて、脱窒素能力は低下するものの、5℃においても菌体の合成(増殖)は十分に行われる。5℃、菌体未飽和の条件のもとで始めた脱窒素試験においても、時間が経過するにつれ脱窒素菌で飽和したカラム試験と同程度の脱窒素能力を示す。すなわち、脱窒素に関しては低温下において、最適温度におけるよりも脱窒素能力は低下するものの、脱窒素処理は可能である。しかし、硝化処理は硝化菌が低温慶では増殖がほとんど停止することから、菌体能度を維持する工夫が必要である。

 (2)連続試験

 ゼオライトによるアンモニア吸着試験では図III−4に示すように、イオン強度の小さいときには、特にその効果のいちじるしいことがわかる。

 微生物を用いるアンモニアの硝化操作において、留意しなければならない点は、硝化菌は世代時間が長く(10〜30時間)、また、従属栄養菌にくらべて菌体収率がきわめて小さいことである。このため、硝化には長い汚泥令を必要とする。また、BOD酸化菌にくらべて、外界のさまざまな因子による影響を受けやすく、環境の変化にきわめて敏感に反応する点である。その影響は硝化作用よりも、これを土台にして進行する二酸化炭酸から生体成分を合成する作用の方が、はるかに影書を受けやすい。このため、低温下で微生物による硝化を安定に行うためには、硝化菌の流失を極力防止し、かつ菌体の増殖をはかる必要がある。そのためには処理の対象となる原水に最適な処理方法を選ばなければならない。

 本試験に想定した流入水は、前段処理として、微生物処理(活性汚泥処理)を受けており、有機態窒素はほとんど存在せず、BOD50r/l以下、NH4−N20r/l以下とする。そこでゼオライトの選択的なアンモニアイオン吸着能力と、硝化工程を処理水の主流から切り離し、硝化菌の流失をはかることとした。ここで、所要ゼオライト量は硝化処理工程から流出していく処理水中のアンモニア濃度を規定することにより図III−4から容易に求めることができる。本方式によるアンモニア除去は高濃度のアンモニア含有水を対象とするときは、ゼオライトの添加量が大きくなり、適用は難しいものと考えられる。しかし、アンモニア濃度が10r/l程度の低濃度のときには他の微生物処理方法にくらべて循環水量、または、滞留時間が小さく利点がある。図III−5には循環水量と未処理アンモニア濃度との関係を示した。COD共存下での循環水量との関係は明確ではないが、COD70〜210r/lの範囲では、およそ90%以上の除去率が得られた。また、アンモニアの除去率は循環率が増すにつれて向上した。

 ゼオライトを硝化槽に投入して、硝化、吸着を同一槽内で行う方式、すなわち、ゼオライトをアンモニア処理における緩衝剤として用いようとする試みがある。この場合槽内のゼオライトがつねに処理水中のアンモニア濃度と吸着平衡の状態で存在するため、硝化槽内における微生物による硝化速度、流入水中のアンモニア濃度の変動などの要因で、アンモニアの除去率が不安定となり、処理水中のアンモニア濃度は変動することになる。処理槽中のゼオライトの一部を抜き出してアンモニアの十分な脱着をはかることにより、ゼオライトは吸着能力を回復し、より安定な操作が期待できることになる。このような考えに立ち、攪拌槽3を設け、再曝気を行うことにより、ゼオライトのアンモニア吸着能力の回復をはかることができる。

 処理装置内のゼオライト濃度は、重要を操作因子の一つである。その実験結果を図III−6に示す。実排水のイオン強度は図III−4のおよそA−Bの範囲にあると考えられるところから、本試験の当初の処理目標であるアンモニア濃度2mg/l以下を流出濃度と規定すると、ゼオライトの交換容量は純水を用いた場合のアンモニア交換容量のおよそ1/3〜1/4に低下し、ゼオライト1グラムあたりのアンモニア吸着量は数ミリグラムになるものと推定される。

 以上の結果をまとめると低温度では、脱窒素処理能力は至適温度のときより低下するが、処理は可能である。しかし、硝化処理では、低温度において硝化菌の増殖速度が極めて小さいため、硝化菌の濃度を維持するための工夫が必要である。



図III-4 イオン強度とアンモニアの濃縮
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図III-5 循環水の効果
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図III-6 ゼオライトの効果
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 IV 脱リンを目的とした吸着ろ過処理

 1.まえがき

 この報告は、寒冷地型高度水処理プロセスの一環として、脱リンを目的とした吸着ろ過法について、その前処理として複層ろ過池による接触凝集法の適正条件を見出し、ついで多段ろ過他による吸着ろ過法について検討したものである。

 2.複層ろ過池による接触凝集法

 (1)目的

 脱リンを目的とした吸着ろ過処理を実施するにあたり、対象水および処理工程等からかなりの浮遊物が予想されたので、複層ろ過池による接触凝集法としては、1)高濁質の原水でも高速ろ過が可能である、2)最小のコストで最高の水質が得られ、処理能力が増大する、3)洗浄水量が少ないという特徴をもつ逆粒度組成の複層ろ過池を用いた。また、リン除去については、多量のスラッジを排出する従来の凝集沈殿法に代る新しい処理技術の開発が必要であったが、1)特有な吸着を行う天然物質等の検索が別途に行われていた、2)低濁質の除去を目的とする接触凝集法では、凝集剤による同時除去としての脱リン効果が期待されたことなどから、吸着材を主体とする徴段処理装置へのリン濃度負荷の低減化を考慮した接触凝集法を用いた。これらの脱リン処理は、前段処理として脱リン率を60%とする目標値を設定して行われた。

 (2)実験方法

 前述の設定条件における脱リン効果を求めるため、複層ろ材としてアンスラサイト、珪砂を用い、脱リンろ過特性に必要な物理化学的な要素(ろ層比、ろ過速度、凝集剤注入量等)についての基礎実験を行い、リンの除去率%におけるオペレーションパラメーターから生産水量を求め、脱リン効果およびろ過能力を検討した。

 実験方法は以下の如くである。

 (a)ろ過装置

 フィルターカラムは開放型急速ろ過方式で、内径155o、高さ3,400oの塩ビとアクリル製で、処理水量は最大0.2m3/hrである。差圧測定用タップは200o間隔に6ケ所、原水流入口は上部側面(マイクロフック法用)と下部側面(接触凝集法用)に設けた。この装置は定水頭の定速で運転されるので上部に溢流口がある。

 (b)計測・制御装置

 この装置は、流量計測制御、差圧計測、濁度計測、pH計測制御装置より構成されている。凝集条件をコントロールし、オペレーションファクターを自動連続記録する。

 (c)分析方法

 リン化合物(PO4−P)の分析は、工場排水試験法(JIS−KOlO2)による比色法を用い、日立101型分光光度計で測定した。凝集剤のAI量については、同様にJIS−KOlO2による原子吸光法を用い、バリアンテクトロンAA−1100型原子吸光装置で測定した。

 (d)実験条件

 実験用原水に用いたモデル水は、水道水にリン成分としてリン酸1カリウムを添加し、PO4−P濃度を4・5±0.5r/lに調整したものである。凝集剤として硫酸アルミニウムを用い、添加する濃度は、JarTestおよび凝集剤添加量によるろ過特性の予備実験結果から考慮してAI5r/lとした。また、pHの調整は水酸化ナトリウムを用い、設定値7.0に自動制御した。実験に属いたろ層は、上部にアンスサイト、下部に珪砂をろ床支持用砂利層上に敷いて構成した。ろ層全厚は、900oとし、ろ層比(アンスラ:珪砂)を各々1:1、2:1、3:1とした。オペレーションパラメーターとしては、ろ過速度、差圧、濁度を用いた。ろ過速度は5m/hr、7.5m/hr、10m/hr、差圧は最大許容損失水頭を3m、濁度ろ過水濁度を5r/lとして連続記録した。洗浄操作は、差圧および濁度の設定基準値またはリン除去率60%以下の値のいずれかが示された場合、実験を停止して逆流洗浄を行った。

 (3)実験結果と考察

 ろ層比およびろ過速度による脱リンろ過特性をそれぞれ図IV−1およびIV−2に示した。この結果から、リン除去率60%における複層接触凝集のろ過特性として、以下のことが判明した。

 (a)ろ層比(アンスラ:珪砂)1:1、ろ過速度5m/hrの場合、生産水量40m3/ m2の最大値を示した。

 (b)同一ろ層比では、ろ過速度の増加とともに生産水量は減少し、減少率は37.5〜70.6%を示した。

 (c)ろ層比を1:1、2:1および3:1と変えた場合、上部アンスラ層が厚くなるほど同一ろ過速度の生産水量は低下する傾向にあるが、2:1から3:1の過程では、同一か、または増加を示した。

 (d)AI/Pモル比は1.03〜1.18の範囲で行われたが、初期には70〜90%のリン除去率を示した。またリン除去率60%に近づくと凝集剤AIの漏出が見られた。

 (e)差正については、ろ過速度の増加およびろ層比におけるアンスラ層の増加とともに上昇する勾配が大きくなる傾向を示した。

 以上総合的な結果からリン化合物60%除去における複層による接触凝集の最適な条件としては、ろ層比(アンスラ:珪砂)1:1、ろ過速度5m/hr、AI/Pモル比の1.0〜1.2、pH7.0が妥当であると考えられる。



図IV-1 3層比による脱リンろ過特性
TN43F4-1.gif
リン化合物4.5±0.5mg/l
アルミ剤4.5±0.5mg/l
凝集条件pH7.0±0.2
ろ速5m/hr
層比3:1、2:1、1:1


図IV-2 ろ過速度による脱リンろ過特性
TN43F4-2.gif
リン化合物4.5±0.5mg/l
アルミ剤4.5±0.5mg/l
凝集条件pH7.0±0.2
ろ速5、7.5、10m/hr
層比1:1


図IV-3 実験装置
TN43F4-3.gif
1:pH調節計、2:PO4-P測定点、3:PO4-P計、4:アルミの測定点
5:圧力計、6:pH計、7:濁度計、8:流量調節
No1:第1段ろ過塔、No2:第2段ろ過塔、No3:第3段ろ過塔、
R.W:原水、A:アンスラサイト、S:砂、G:礫、
T:貯留タンク、P:ポンプ、AA:活性アルミナ、AC:活性炭

 

 3.多段ろ過池による吸着ろ過法

 (1)目的

 一般に脱リンを目的とするろ過処理法は、排水の高度処理の面(凝集沈殿処理の欠陥、処理費の低減化、装置の簡易化等)から凝集ろ過システムを適用する傾向にある。これらは、ろ層の構成を単層とする深層ろ過(粗粒度組成、または、構成を多層とする複層ろ過、三層ろ過いずれも逆粒度組成)などを使用している。

 しかし、リン濃度の規制値を満足させる除去のためには、ろ過の特性(ろ過効率におよぼす原水とろ過のパラメーターとの相互作用等およびリン除去に影響を与える諸因子(リンの形態、リン量に対する金属塩のモル比、pH等)の面から困難が予想される。

 これらの打開策として、第一段ろ過から第二段ろ過へと多段化する方法が考えられる。すなわち第二段以降を吸着材による吸着操作とする方法である。ここでは、ベンチスケールによる実排水を対象とした連続試験についてまとめたものである。

 (2) 実験方法

 (a) 連続装置

 実験に用いた連続装置は図IV−3に示したように3基の堅型塔を連結させたもので構成される。しかし、実排水による全工程(油分処理、活性汚泥処理、硝化脱窒処理、脱リン処理)の連続運転では、各工程に用いる装置の処理量が均一でなく、アンバラ是正のために最小容量の装置に合せたため、最終工程における装置操作の諸元および目標値についても部分的に変更した。第一段ろ過装置ではろ過速度(LV)3.5m/hr、処理量66.2l/hrとし、目標は除濁率90%以上、脱リン60%以上である。第二段ろ過装置では層高1,900o、空間速度(SV)1.8とし目標は脱リン率(第一段、第二段を含めて)80%以上である。第三段ろ過装置では層高900oとし、目標は脱リン(第一段から第三段まで含めて)90%以上である。水質については排水基準値以下を目標とした。

 (b)計測制御装置

 (c)自動リン分析装置

 (d)分析方法

 以上、前項と同様である。

 (e)実験条件

 実排水は下水1次処理水をベースとして、適宜コーンスチープリカー(CSL)、乳化灯油、グルコース等を添加したものを使用した。実排水については油分100mg/l、COD500〜1,000mg/lのものを処理する計画であった。従って、これらの不足する成分および濃度を調整した。S−1シリーズは下水1次処理水(500l)にCSL(0.9l)を添加して調整された実排水である。S−2シリーズは下水1次処理水(500l)にCSL(0.4l)とグルコース(180g)を添加して調整された実排水である。脱リン工程では、これらの実排水の硝化脱窒処理水が用いられた。凝集剤としては硫酸アルミニウムを用い、添加する濃度はAIとして6.0±0.4r/lとした。凝集条件はpH7.0とし、水酸化ナトリウムにより調整を行った。連続装置のオペレーションパラメーターはモデル水の場合と同一である。第一段ろ過装置において設定基準値(ろ過速度3.5m/hr以下、その他は変らない)に達すると装置各段の運転を停止して1サイクルとした。洗浄操作および洗浄は前項と同一である。試水は原水(硝化脱窒処理水)および装置各段の出口で1時間毎に採水し、PO4−P、AI等について測定を行った。

 (3)実験結果と考察

 脱リン処理工程の連続試験結果を表IV−1に示した。S−1シリーズにおける硝化脱窒処理水の性状は、濁度51.5mg/l、PO4−P21.5r/lである。第一段ろ過処理では、原水濃度(PO4−P)が高く、AI/Pモル比(0.3)が小さいため、処理効果が低下している。第二段ろ過処理では、高濃度領域(PO4−P)における活性アルミナの処理効果が顕著である。第三段ろ過処理では、低濃度領域(PO4−P)における活性炭による処理効果が見られる。除濁については第一段ろ過処理における凝集効果が非常に大きい。

 S−2シリーズにおける硝化脱窒処理水の性状は、濃度54.9r/l、PO4−P2.36r/lである。第一段ろ過処理では、原水濃度(PO4−P)が低く、AI/Pモル比(2.5)が大さいため、処理効果が良好である。第二段ろ過処理では、低濃度領域(PO4−P)における活性アルミナの処理効果が不良である。第三ろ過処理については、(PO4−P)の値が増加している。原因については不明である。除濁については、原水濁度がS−1シリーズとほとんど同じなので、傾向も同一であった。

 以上の実験において第一段ろ過処理における脱リン効果は、AI/Pモル比による影響が顕著である。また除濁効果については、接触凝集により良好な結果が得られた。第二段ろ過処理における脱リン効果は、低温度領域での除去速度の影響が見られる。第三段ろ過処理における脱リン効果は、高濃度領域では満足すべき結果が得られた。

 

表IV-1 連続試験の結果 S-1 シリーズ
原水一次下水+CSL
流入水脱窒層より
PO4-P21.5mg/l(AV)
濁度51.5mg/l(AV)
 1段ろ過塔2段ろ過塔3段ろ過塔
リン化合物流出したPO4-P(mg/l)10.81.780.81
 各塔の除去濃度(mg/l)10.79.020.97
 実測地(%)49.893.796.2
 設定値(%)60.080.090.0
濁度流出濁度(mg/l)3.53.32.8
 全除去率(%)93.293.694.6

 

表IV-1 連続試験の結果 S-2 シリーズ
原水一次下水+CSL+グルコース
流入水脱窒層より
PO4-P2.36mg/l(AV)
濁度54.9mg/l(AV)
 1段ろ過塔2段ろ過塔3段ろ過塔
リン化合物流出したPO4-P(mg/l)0.570.350.62
 各塔の除去濃度(mg/l)1.790.22-
 実測地(%)75.885.273.7
 設定値(%)60.080.090.0
濁度流出濁度(mg/l)2.52.11.3
 全除去率(%)95.496.297.6

 

 V 低温領域における活性スラッジの特性

 1.まえがき

 北海道のような積雪寒冷地において、活性スラッジ法を採用する場合、冬期間では水温低下のために、廃水処理能力の低下あるいは微生物相の変化による固液分離の悪化などが生じやすくなる。これらの問題を防ぐには、活性スラッジが低温下で最大能力を発揮できるようを充分な管理や馴養が必要になる。本筋においては、低温下で活性スラッジが充分な能力を発揮できるような馴養方法を検討し、また急激な温度変化に対する活性スラッジの挙動についても検討した。

 2.実験装置と方法

 使用した実験装置は図V−1に示した。水温低下に伴う活性スラッジの基質除去能力と酸素消費量を知るための実験方法を、以下の2通りで行った。

 グルコース+ペプトンを有機成分とする人工下水を用い20℃で長期間回分式で培養した活性スラッジを

 1)水温を一度に5℃まで下げて、その30日間培養した場合。

 2)毎日少しずつ水温を下げて、30日間で5℃まで下げた場合。

 急激な温度変化に対する活性スラッジの特性を知るための実験方法は以下の2通りで行った。

 1)7℃で1ケ月以上グルコース+ペプトンを有機成分とする人工下水を用い、長期間回分式で培養した活性スラッジを20℃に急激に温度を上げて、1時間および24時間後に基質を回分的に添加し、その後の基質除去速度と酸素消費量を測定した。

 2)同じ人工下水を用い、20℃で1ケ月以上回分式で培養した活性スラッジを急激に7℃まで温度を下げて、1時間およぴ24時間後にそれぞれ基質を回分的に添加し、その後の基質除去速度と酸素消費量を測定した。

 3.実験結果と考察



図V-1 実験装置
TN43F5-1.gif
1.ばっ気槽、2.DOメーター、3.圧力計、4.ポンプ、5.濃縮下水
6.空気ポンプ、7.流量計、8.ポンプ、9.ポテンショメーター、10.吸収剤


図V-2 水温低下による活性スラッジの基質除去速度
TN43F5-2.gif
○ 原汚泥、△ 7日目(15℃)、▲ 15日目(10℃)、□ 30日目(5℃)、○ 5℃連続30日目

 

 図V−2は、水温低下に伴う活性スラッジの基質除去速度と酸素消費量を示したものである。一度に5℃まで水温を下げて30日間馴養した活性スラッジの方が、毎日少しずつ温度を下げて30日間で5℃まで下げた活性スラジよりもTOCの除去能力が良いことがわかった。図V−3は急激な温度変化に対する活性スラッジの基質除去速度の変化を示し、図V−4はその時の酸素消費速度曲線と酸素消費量を示している。



図V-3 急激な温度変化による活性スラッジ基質除去
TN43F5-3.gif

図V-4 急激な温度変化による活性スラッジの酸素消費
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 1)20℃で長期間馴養した活性スラッジを、急激に温度を下げて7℃に環境を変化させた場合、7℃で長期間馴養した活性スラッジに比べて、基質は速く除去されるが、TOC除去量当りの酸素消費量は少なく、7℃で馴養した活性スラッジの約1/3程度であった。

 2)7℃で長期間馴養した活性スラッジは、急激に温度を上昇させて20℃に環境を変化させても、20℃で長期間馴養していた活性スラッジに比べて基質除去能力は低く、また、TOC除去量当りの酸素消費量は大きく、20℃で馴養した活性スラッジの約2倍程度になった。

 次にそれらの結果について考察を加える。

 1)低温下で廃水処理を行う場合、同じ馴養期間をかけるとすれば、常温で培養していた活性スラッジを徐々に温度を下げていく方法よりも一度に低温にして培養した方が、低温下での処理能力が良かった。

 2)活性スラッジに対する急激な温度変化の影響は、今回の実験に限る範囲では、7℃で長期間馴養した活性スラッジは、20℃で長期間馴養した活性スラッジに比べ、基質除去能力は低く、単位基質除去量当りの酸素消費量は大きかった。一般的には、基質除去量が少なければ酸素消費量も少なくなると思われるが、今回の場合は違う結果になった。これらの事から、実装置を運転管理する場合、常に活性スラッジの基質除去能力および酸素消費量を監視し、適切な酸素供給をしなければならないことがわかった。

 VI 高度処理プロセスによる連結試験

 1.まえがき

 I〜IVに述べてきた各単位操作に関する研究を基盤として、これらを一連の水処理プロセスとし、連続試験を行った。

 2.試水および装置

 試水は、市内の下水処理場(豊平下水処理場)の一次処理水を定期的にタンクローリーで輸送して貯留し、これにコーンスチープリカーをCOD源に、エマルジョン化した灯油を油分源としてそれぞれ所定の濃度になるよう添加して調整した、連続試験はCOD濃度の異なる3種類のシリーズで行った。原水COD変動幅は500r/l〜1000r/gである。また、処理水温を5℃とし各単位処理に於ける水温調整はそれぞれに附属する冷却装置を用いて行い全プロセスを通じて一定の水温を維持するようにした。試験装置は各単位処理の研究のために試作したものを油分分離装置−多段曝気槽−微生物脱窒装置−吸着ろ過槽の順に直列に連結して使用した。図VI−1にそのフローシートおよびサンプリングポイントの記号を示した。

 試験装置は、各単位処理の研究目的に合わせて試作したため処理能力が装置によって異なるので、装置間に貯留槽を設けて流量調整を行った。従って、流量の大きな装置(吸着ろ過装置)では必要な水量を貯留するのに時間を要し、その間に若干の水質変動を生じた。

 3.実験方法および測定項目

 連続試験は1日8時間、週5日間のスケジュールで行い、各装置が定常状態に達した時点で週1回一斉にサンプリングを行い、所定の水質項目を分析した。また、この間に各単位処理の設計や運転管理に必要なデータを収集した。

 水質分析法は主としてJIS−K−0102に準拠した。また、アンモニア態窒素はカドミウム還元法によりオートアナライザーで測定しBODは先に当所で開発したクーロメータで測定した。

 4.連続試験および考察

 連続処理試験結果のうち、各工程出口の水質および原水と最終処理水の上水基準項目による分析値の一例を表VI−1、2に示した。水温は冷却装置を持たない吸着ろ過装置で若干上昇したが、他の工程では5−6℃を維持した。油分分離槽における油分除去率は油分を地下水に分散させた場合に比べて若干低下したが、各処理水で工程中に吸着その他の理由で除去され、最終処理水では検出されなかった。多段曝気槽におけるBOD、CODおよびTOCなどで表される有機物の除去性能は顕著である。更に、5〜6℃の低温水で上記成分の除去率がそれぞれ95%、90%および91%と予想以上の成果が得られたことは寒冷地における微生物処理に対する新しい方向を示唆するものと思われる。また、この工程では窒素化合物、特に有機性窒素および全リンの幻想が目立つがこれは、これらの成分の物質収支から見て菌体へ取り込まれたためと思われる。

 また、一般細菌、大腸菌がこの工程でともに90%除去されている。次の、吸着剤併用による脱窒工程では脱窒菌として下水処理場の余剰汚泥から培養したものを粒状活性炭に付着させた充?塔につめて用いたが表VI−1に示すように硝酸態窒素がかなりリークしている。

 

表VI-1 各工程における処理水水質
項目\測定点頻度原水多段曝気
槽出口
脱窒
槽出口
吸着ろ過
槽出口
D5.05.06.56.0
pHD7.87.67.67.8
OIL ppmD98.58.3--
COD(T) ppmD44951241.38
COD(D) ppmD43043220 
ΣP ppmD6.501.763.220.65
ORG-P ppmD1.760.240.470
PO4-P ppmD4.741.522/750.65
ORG-N ppmD42.56.03.21.1
ORG-N(D) ppmD33.35.32.80.8
NH3-N ppmD3337.110.31.8
NH3-N(D) ppmD30.222.78.01.3
NO2-N ppmD00.020.250
NO3-N ppmD0.020.265.730.86
TURB ppmD2733765.20.7
BOD ppmO885474310 ppm
TOC(T) ppmO38436.619.32.2
TOC(D) ppmO33632.017.42.2
BACTERIA ct/mlO49x10568x10427x104 15x102
COLIFORM G. ct/mlO30x10326x102 50x10313x10
MLSS ppmD 33.568  
SV(%)D 245  
D:毎日測定、O:時々測定


図VI-1 連続試験装置フローシート
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図VI-2 寒冷地型下水高度処理プラント概念図
TN43F6-2.gif

 この原因として、1)通常使用されている脱窒菌は低温では活性が低下する。2)処理流量を他の工程に合わせる都合上許容量を越えて運転したため脱窒素菌が流出した等が考えられるので、脱窒工程のみを別途に小型試験装置で当所で分離に成功した好冷脱窒菌を用いて実験を行った。脱窒培養液を布状活性炭を等量充?した内径3p、長さ60pのガラス製カラム3本に定量ポンプで送り込み活性炭槽内に附着繁殖させ、ほぼ飽和に達した後実験に供した。実験は脱窒菌の低温における脱窒性能を調べることを目的とし、そのために上記カラムを恒温室内に組立て、室温を常温(15〜18℃)、10℃および5℃に調整し各温度の定常状態における硝酸態窒素除去率を求めた。試水は下水二次処理水に硝酸態窒素源として硝酸カリを種々の濃度になるように添加し調整した。実験の結果以下のことが分かった。

 

表VI-2 原水および最終処理水水質
項目\試水頻度原水処理水分析方法
pHD6.97.5JIS-K0102
OIL ppmD100TraceJIS-K0102
COD(T) ppmD4491.38JIS-K0102
COD(D) ppmD4301.38JIS-K0102
ΣP ppmD6.500.63JIS-K0102
ORG-P ppmD1.760JIS-K0102
PO4-P ppmD4.740.4JIS-K0102
ORG-N ppmD42.5 JIS-K0102
ORG-N(D) ppmD33.30.8JIS-K0102
NH3-N ppmD33.5 JIS-K0102
NH3-N(D) ppmD30.21.5JIS-K0102
NO2-N ppmD00JIS-K0102
NO2-N(D) ppmD00JIS-K0102
NO3-N ppmDTraceTraceJIS-K0102
NO3-N(D) ppmD0.020.80JIS-K0102
TURB ppmD1330JIS-K0102
BOD ppmO9703.2JIS-K0102
TOC(T) ppmO4036.0JIS-K0102
TOC(D) ppmO3615.8JIS-K0102
BACTERIA ct/mlO49x10515x102上水試験法
COLIFORM G. ct/mlO30x10313x10上水試験法
D:毎日測定、O:時々測定

項目\試水原水処理水分析方法
F mg/l0.190.18JIS-K0102
Cd mg/l0.001以下0.001以下JIS-K0102
Zn mg/l0.350.23JIS-K0102
Cu mg/l0.0170.004JIS-K0102
Fe mg/l2.10.04JIS-K0102
Mn mg/l0.210.01以下JIS-K0102
T-Cr mg/l0.01以下0.01以下JIS-K0102
T-Hg mg/l0.0005以下0.0005以下環境庁告示
第64号附表2
S-SiO2 mg/l3418JIS-K0101
Ca mg/l247.4JIS-K0101
Mg mg/l195.7JIS-K0101
ABS mg/l1.10.03上水試験法

 

 (1)供試菌株は5℃でも脱菌活性を示すことが認められ、処理装置内で菌体を濃縮する方法を検討したり、滞留時間を調整することにより寒地向低温脱窒処理の実用化が充分期待出来る。(2)下水二次処理水は、C/N値が低く脱窒反応に必要な炭素源が不足しているので外部からの添加が必要である(実験にはクエン酸を炭素源として使用)。しかしながらBODの高い排水を対象にする場合は、BOD成分が炭素源として使用出来る。(3)低温脱窒処理は雑菌汚染の影響が少なく、菌体も長期安定化し得る利点がある。すなわち、脱窒処理は嫌気性処理であり、しかも本実験の場合は従来に比し著しく低温で操作されるので雑菌の混入、繁殖が制限され安定した微生物相による処理が可能である。本実験では滅菌前の下水二次処理を試水に用いたが、3ケ月にわたる実験期間中カラム内に雑菌の繁殖は見られなかった。以上の結果から今回新たに分離された好冷脱窒菌は下水、排水の微生物脱窒処理に適用し得る性能を有し今後菌体の濃縮、保持等に関する生物工学的研究を発展させることにより寒冷地に適した低温脱窒処理の実用化が図られるものと思われる。

 なお、天然ゼオライト吸着を併用した硝化工程では、ほぼ予想通りの成果が得られた。すなわち、ゼオライトのイオン交換作用によりアンモニア態窒素の他にカルシュウムイオン、マグネシュウムイオン等の硬度や重金属の一部が除去されており、また使用済ゼオライトの再生に微生物硝化法が利用し得ることが分かった。今後、技術的改善を計ることにより、実用性の高い処理法に発展するものと期待される。最終工程の吸着ろ過処理では、既述したように第1塔にろ過砂とアンスラサイトの複層ろ槽、第2塔に粒状活性アルミナ充?槽、そして第3塔に粒状活性炭槽をそれぞれ直列に連結して用いたが、第1塔に用いられている接触凝集法は多年当所で研究が続けられてきたもので、少量の凝集剤の添加によりろ層内に安定したフロックを形成させこれによる汚濁物除去効果を利用してろ過性能の向上を図るものである。

 連続試験では主に脱リン、除濁効果が検討されたが、オルトリン酸態リン除去率76%、除濁率95%と、それぞれ所定の目標を上廻る好結果を得た。本実験に使用した試水はかなり汚濁度の高い部類に属するが最終処理水は無色透明で、当初の目標であるBOD10r/l以下、硝酸態窒素2r/l以下およぴオルトリン酸態リン0.2r/l 以下の基準値をオルトリン酸態リンを除いてそれぞれ下廻っており、また他の上水試験項目となっている成分も高度に除去されている。連続試険には殺菌工程を含まなかったが、一般細菌、大腸菌は共に各単位処理工程で大部分除去されているので小量の殺菌剤の添加により無菌かつ上質な用水となり得ることが認められた。

 また、このプロセスは原水の性状や用水の使用目的に応じて単位処理の選択、組合わせが自由に出来る応用性の広いものであることが示された。

 本研究は、寒冷地向けの排水高度処理プロセスの開発を主眼として進められたが、連続処理試験の結果、開発されたプロセスが目標を上回る上質な用水を生産する性能を持ち、かつ野外設置可能な装置構成であることが証明された。図V−2に実用規模の高度処理プラント予想図を示した。

 特長

 この研究は、寒冷地型排水処理として、高度処理技術の開発を目的として行われたものである。したがって、汚染された排水を上質な産業用水として利用できるところまで考えている。

 そのため、研究開発の具体的目標は、(1)処理水の水質として、BOD10r/l、アムモニア態窒素2r/l、およびオルトリン酸態リソ0.2r/l以下とする。(2)処理方式は微生物処理を主体とし、かつ水処理装置は屋外に設置し得るものとする、などとした。

 まず、単位装置の開発としては、(1)疎水性媒体による油分分離装置、(2)多段曝気式活性汚泥処理、(3)吸着剤を使用する微生物処理、(4)脱リンろ過装置、その他について幅広く行なった。

 しかる後、これらの成果をふまえて、一連のプロセスとして連結し、札操市の豊平下水処理場の排水に、コンスターチ、油分などを加えたものによって連続実験を行なった。

 その結果は、上記研究目標を満足し、かつ半地下方式の寒冷地型水処理装置が可能であることを実証した。

応用分野

 寒冷地に存在する、水産加工業、農産加工業、および下水処理関係等。