TN37 農作物障害に対するX線マイクロアナライザーの応用

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内容の要約

 農作物障書として二つの例について紹介する。

 1. りんご粗皮病

 りんご粗皮病の問題解決を目的とする一手段として、北海道空知郡江部乙町にある道立中央農試江部乙果樹試験地における発病樹と未発病樹から採取したりんご樹皮のEMX(エレクトロンマイクロプローブX線アナライザー)による微小分析を実施した。

 りんご粗皮病の病変部を表皮、皮膚柔組織および内皮に分けてEMXにより分析した結果、つぎのことが明らかとなった。

 健全な場合、各樹皮とも鉄、アルミニウム、マンガンは均一に分布しているが表皮病変部は局部的に鉄、アルミニウムが同一個所の健全部に比べて10倍から30倍程度の高濃度に集積していることが分かった。

 2. 小豆の生育障害

 北海道胆振支庁管内の有珠地方にみられる小豆の生育障害症状の特徴と発生分布地域については、その原因はいまだ明らかでない。このため、この小豆の各組織を微小分析機器である「EMX」によって分析し、その原因を明らかにしようと試みた。その結果生育障害によって褐変化した葉身の斑点からは鉄、アルミニウム、マンガンが検出され、特に鉄とアルミニウムの含量が高かった。またEBS像の写真結果から、この2つの要素は部分的に偏在していることなどが明らかになった。

詳しい内容

 (1)りんご粗皮病

 1. 実験法並びに装置

 1)検鏡試料の作成法

 りんご樹皮を健全部と粗皮病変部から採取して表皮と内皮に分け、デシケーター(シリカゲル)で20日以上乾燥する。その後これに導電性を与えるために真空蒸着装置に入れ、おおよそ2×10-4oHgの真空中で数百オングストロームの厚さにカーボンをコーテングした。この試料と試料ホルダーの導電性をよくするためアクアダックを両者の一部に塗付し、これを検鏡試料とした。

 2)装置

 分析には、EMX−2型(島津製)を用いた。

 2. 実験結果

 1)表否の健全部および病変部における各元素の分布状態

 それぞれの前処理をしたりんご表皮の定性分析を行ない、その結果を第1図に示した。この結果から明らかなように、正常な表皮からは微量の鉄とマンガンが検出された。また、比較的多量のカルシウムも検出されたが、鉄、マンガンと同一条件ではスケールオーバーしたのでここでは記載を省略した。

 一方、病変部からは健全部とほほ等量のマンガンと健全部よりはるかに多量の鉄とアルミニウム、および健全部よりやや少な目のカルシウムが検出された。

 2) 内皮および皮層柔組織の各元素分布状態

 内皮および皮層柔組織は表皮と異なり、各元素とも局部的の集積はほとんどみられなく、わずか皮膚柔組織のアルミニウムのみが局部的に集積する傾向を示す程度であった。また、鉄、アルミニウムおよびマンガンの濃度は健全、病変部とも健全部の表皮と同程度あった。

 (2)小豆の生育障害

 1. 実験法

 同一ほ場内で健全な様相を呈する小豆の健全な葉身と障害をうけた小豆の褐変化した斑点のある葉身の一部を、それぞれ第1本葉を採取した。また根部試料小豆の地上部が見かけ上健全であっても地下部は生育障害により変形してクコ足状を呈していたため、この支根発生の基部で地下5〜6pの部位から採取した。なお対照試料はこの種の生育障害が発生していない道立中央農業試験場ほ場の小豆で当該部位からそれぞれ適当量の大きさの切片を切り取り、これをシリカゲル使用のデシケーターで20日以上乾煉した。これに導電性を与えるために真空蒸着装置に入れ、おおよそ2×10-4oHgの真空中で数百オングストローム(A)の厚さにカーボンをコーテンダした。またこの処理後、試料と試料ホルダーの導電性を良くするためにアクアダッグを両者の一部に塗付した。

 2. 実験結果

 1)小豆葉身の分析

 前述の健全な葉身と障害褐変部葉身を所定の処理後定性分析し、その得られた結果を第2図に示した。この図から明らかなように健全な棄身からは鉄、マンガンおよびアルミニウムはほとんど検出できなかったが、障害褐変部の一部からは多量の鉄と明らかに感知できる量のマンガンとアルミニウムを検出した。

 次に上記元素のおおよその含量の相違を推定するためにX線の強度を比較する半定量分析を行った。この結果から障害褐変部は健全部に比べて鉄はほぼ2倍、アルミニウムはほぼ5倍に達し、マンガンは同程度あることが分かった。なお健全部のアルミニウムは検出限界ギリギリの値であった。

 2)小豆根部の分析

 早生大納言や早生大粒1号などの品種は地上部の観察では、見かけ上健全であって、生育障害に対し強い抵抗性を持つと考えられたが、根部は地下5〜6pのところで一時生長が停止した痕跡が認められ、そこから再び支根がタコ足状に発生しており、いずれも直根は認められず、また支根も生育障害未発生土壌のものに比較して曲がりが多く太くて短かった。そのため対照としてこれら障害の発生していない道立中央農業試験場で栽培した小豆を用いた。

 分析個所は地下5〜6のpの支根部から切片を採取した。道立中央点業試験場の小豆は直根性であったが、地下5〜6pの部位を分析に供した。これらの定性分析の結果を第3図に示した。この図が示すように現地から採取してきた小豆の根の木部からは明らかに銅が検出された。

 特長

 農作物の病害あるいは生育障害の原因を究明するためEXMAを用いて、そのなかの微量成分を検出し、作物による特有の状況を見出した。

 このような分析技術について、有効な前処理技術等を開発したものである。

応用分野

 農業、林業などの分野での異状要素の発見に有効



第1図 りんご2年枝表皮のFe, Mn, AlのX線強度図
(各元素ともKα線を測定した)
TN37F1.gif

第2図 小豆葉身部のFe, MnおよびAlのX線強度図
TN37F2.gif

第3図 支根基部(木部)のCu
TN37F3.gif
宝(中央農試):障害なし、早生大納言:障害あり