備蓄タンク類には消防法によって定期的な開放点検が義務づけられ、容量1万kl以上の大型タンクでは5年間に1度と定められている。この開放点検時にタンク底から、鉄錆や砂泥を含んだワックス状のスラッジ、すなわち含油スラッジが多量に排出される。更に、重油タンカーや精油所、火力発電所等のタンクからも含油スラッジが排出される。
本研究は、このようなタンク底やタンカーの含油スラッジから有用成分と熱エネルギーを回収する無公害型のプロセス・システムを開発することを目的としている。すなわち、含油率が高いスラッジはこれを熱分解して油分を回収する。一方、含油率の低い劣質なスラッジおよび熱分解残渣は流動燃焼法によって無公害燃焼して熱エネルギーを回収する。この回収熱を熱分解用あるいは備蓄基地用等の熱源として利用する。このような、熱分解油分回収プロセスと無公害燃焼・熱回収プロセスを組み合わせた総合的な含油スラッジ処理システムを確立する。
そのため次の事項について調査研究を行なった。
(1)9種類のタンク底含油スラッジを収集し性状分析を行った。
(2)回分型の熱分解装置により、上記試料の500℃までの熱分解実験を行った。
(3)直径200oのベンチスケール流動燃焼装置により、2,000kcal/s程度の劣質スラッジの燃焼実験を行った。
(4)上記(3)での知見に基づいて、含油スラャジの連続供給機と燃焼残渣の抜き出し法についての検討を行い、劣性含油スラッジの安定燃焼・熱回収の研究とともに、特にSOxとHCIの炉内吸収を中心にした無公害化の研究を行っている。
1. 分析
原油備蓄基地や精油所などから原油と製品油タンク底の含油スラッジ(9種類)を収集して性状分析を行った。原油タンク底の最終スラッジは、一般に水分含有率が20〜30%と高く、発熱量(高位)は約2,000〜6,000Kcal/sで試料による差が大きかった。これらは熱量バランスの上では、助燃油なしでの燃焼が十分に可能であるが、硫黄と塩素の含有率が高いので、これらへの対策を考慮した燃焼法を採用すべきである。タンク底スラッジの上層部で採取したスラッジは可燃分含有率が高いので、有機資海として再生利用を考えるべきである。
残渣分中の無様成分と金属元素を分析した結果、約60〜85wt%はFe2O3であり、Si O2が1〜13wt%であった。残渣分の含有率が少ない試料では、残渣中にVとNiが高濃度に集積しており、Vが50,000ppm(5%)を越える試料もあることがわかった。
2. 熱分解
試料量が200gの回分型熱分解装置を使って、各種含油スラッジを昇温速度2℃/min、上限温度500℃の条件で熱分解し次のような結果が得られた。
(1)可燃分含有率が30%以上の含油スラッジ試料では、可燃分の55〜82%が油分として回収され、可燃分率が高いほど油分回収率も高くなる。しかし、一般に400℃以下での油分回収率は低い。
(2)回収された油分の発熱量は10,000Kcal以上であるが、500℃まで昇温して得られた生成油はすべて常温ではワックス状である。熱分解温度を低くすると軽質かつ常温でも液状の油分を回収できる。
(3)熱分解残渣も1,000Kcal/s以上の発熱量を有しているので、燃料としての扱いが必要である。
3. 流動燃焼(ベンチスケール)
直径200oの小型流動燃焼実験装置を用いて、発熱量が2,000Kcal/s程度の含油スラッジの燃焼実験を行い、補助燃料を使わずに連続燃焼が可能であることを確認した。燃焼炉の温度が600℃に達すると凝縮水には油分が混入せず、固体状燃焼残渣中にも未燃分がほとんど認められなかった。
燃焼炉を安定に操作する上では、含油スラッジ中に多量に含まれている水分の影響を取り除くために層温度と空気流速を高め、更に、全残渣の20%以上にもおよぶ1o以上の大きな燃焼残渣を連続的に排出し得るような装置設計をすべきである。また、含油スラッジを速度むらなく供給できる供給機の設計も重要である。
4. パイロットプラント
装置設計上の問題点を踏まえて、含油スラッジの連続供給機、および固形残渣分の層内蓄積の防止法について検討を行ない、第1図に示すような小型パイロットプラント(50s/hr)の試作をした。
まず、含油スラッジ供給機と固定残渣の連続排出法についての検討を行った上で、前者に対してはダブルスクリュー型の供給機を、後者に対しては、燃焼用空気を均一分散しつつ固形残渣を層底部から抜き出し得るパイプスリット型の空気分散方式を採用した。このプラントは、断面が30p×30pの正方形で空気分散器から排気口までの高さは約3.5mである。SOxとHCIの炉内吸収を行うために、炉内温度は800〜900℃に保つものであり、層内には燃焼熱の回収と温度制御用の熱交換パイプが設置されている。空塔ガス速度を1.5m/sにした場合の処理速度は2,000Kcal/sの含油スラッジで約50s/hになる。
特長
今後、極めて多量に排出されると予想されるタンク底含油スラッジの処理について検討した。ここでとられた方法は、スラッジのうち高カロリー物については熱分解により、燃料油を採取することとし、低カロリー物については、流動燃焼を行うもので、その組合せについても配慮した。
特に、流動燃焼については、無公害技術の確立を目指している。
備蓄タンク、タンカーなどのスラッジ処理、または小さなところでは、ガソリンスタンドなどのスラッジなどにも対応できる。