TN34 迅速水質分析法

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内容の要約

 水の分析の場合、整備された分析室において、大型装置による分析を行うために試料を運搬保存する間の環境変化に伴い試料中に含まれる成分の溶存状態や濃度が変化する場合がある。そのため持ち運び可能な小型装置を用いる迅速分析法の開発は、上記の問題を避け得るばかりでなく、汚染源の探査が現場ご短時間に行うことができれば公害対策上も資するところが大である。

 本研究は、金属イオンの錯体と他の錯形成剤との間の配位子置換反応の速度の差を利用した新しい迅速分析法の開発を目的としている。この方法はこれまでの化学分析法において分析操作、分析時間の大部分を占めていた分離操作を省略することが出来るので、数分間の分析操作で1〜3成分の分析が出来る新しい分析法に発展する可能性が認められた。

 以下に本研究の概要を記す。

 1)各種金属イオンについての反応速度を利用する計測法の開発:主要な重金属イオンについて反応速度法による計測法の開発を行った。

 2)分析感度の改良:健康にかかわる基準値に関連する測定忙はppbレベルの濃度の直接測定が必要であり本計測法について感度の改良法の研究を行った。

 3)可搬型側定装置の製作:試料採取現場において、直ちに本計測法による重金属イオン濃度の測定が可能な、可搬型分析用反応速度測定装置の試作を行った。

 4)現場試験:開発した測定法ならびに分析装置を用い、現場において重金属イオン濃度の測定を行い、JIS法による結果と比較検討の上、本計測法ならびに装置について総合評価を行った。

詳しい内容

 1 可搬型側定器の試作

 試作する装置は、現場試験用機器としても使用するため自動車(ライトバン)に積載して運搬し、そのまま測定が可能な大きさの小型で可搬できる装置を目標とし、製作を完了させた。

 本装置設計および製作上留意した点は以下の通りである。

 (1)本法による計測用装置は、測定の対象である重金属イオンを含む溶液と反応溶液とを瞬時(0.001〜0.005秒)に混合した後、測定セルに送り込み、溶液の吸光度の変化を測定するものである。測定する化学反応は反応終了までに数10ミリ秒程度のかなり速い反応も取りあつかうこと、またppbオーダーの計測の場合、微少な吸光度変化と信号にかさなっているイイズ成分を信号積算法により消去する機能を持たすため、マイクロコンピューターによる装置の制御およびデータ処理を行わせる。

 (2)装置を小型化するため分光器の小型化および小型電磁バルブの採用、また装置の信頼性向上のため、試料混合部の簡略化と高性能化を図った。

 (3)分析装置として用いる場合には測定のドリフトは少くとも3%以内(出来れば1%以内、従来の研究用市販測定機の場合10%種度)とするため測光部、電源の安定化を行った。

 (4)装置をコンピューター制御とし操作の単純化迅速化を行うと同時に、高感度測定のため自動清算機能を持たせた。また、データ打出しにドットプリンターを用いることとし、測定対象、測定条件等を分析データと同時に打出せる機能を持たせた。

 (5)本装置は、ライトバン程度の自動車で運搬し、商用電源のない野外にても測定を行うため自動車用12Vバッテリーで動作するものとし、この際電源に混入するパルス性ノイズに対する対策もほどこした。

 以上の点を検討の上決定した装置の構成および仕様は第1表および第1図に示す。

 2 現場試験

 (1)鉱山排水および処理水試験

 北海道内の某鉱山の排水ならびにその処理水を採取しJIS法に定められた前処理を行った後当所に持ち帰り、本計測法、ならびに原子吸光法(JIS法)による分析、さらに高周波プラズマ誘導結合発光分光分析を行った。原水の液性は、硫酸々性pH3.2、処理水のpHは6.3である。北海道に存在する硫化鉱床の特徴として排水は亜鉛、マンガンおよび鉄が圧倒的に高濃度で銅、カドミウムに比して数千倍濃度が高い。多少特殊と考えられる対象ではあるが、共存イオンの間の差が極めて大きい試料計測のために、改良を加えた計測法による測定結果は、原子吸光法とほほ良い一致を示している。処理水についてのマンガンの分析値について、本計測法と原子吸光法との測定値の間に約2倍の相違が認められるが、鉱山排水は石灰を加える処理が行われているため処理水は多量のカルシウムを含み、いずれかの計測法に誤差を与えているものと思われるが現段階では明らかでない。今後検討を要する。

 (2)水道水についての試験

 重金属濃度が低濃度の試料水の計測例として水道水についての実験を行った。低濃度試料に対し、濃縮操作、共存イオンの分離操作を行うことなく、本計測法による約5分間の計測の結果を第2表に示した。

 (3)まとめ

 低濃度試料を対象とした(2)の水道水の計測結果は本計測法が実用分析法として充分用い得ることを示している。水道水中のppbオーダーのマンガンと亜鉛の測定は、試料採取後5分以内に完了させた結果であり、本計測法の迅速性、高感度は高く評価できる。

 この試験により計測感度はプラズマ発光分析法より優れ、原子吸光法とほほ同等であるが、計測操作、迅速性においては本計測法がはるかに優れていることが明らかとなった。

 特に、水道水の水質基準の合否判定のための測定の様に極めて稀薄な金属イオン濃度の迅速な測定には、極めて優れた方法であることが認められた。

 特長

 水質中の重金属の微量分析について、それぞれの重金属の反応速度を利用した、独特な分析法である。この方法による測定器は小型化ができ、かつ分析時間も従来法に比べて短縮できるので、現場試験用として好適である。

 ここでは、実際に可搬型測定器を試作し、水道水などを現地で測定して、良好な結果を得ている。

応用分野

 水道水、河川水、鉱山、製錬所、メッキ工場、IC工場などの排水中の重金属の分析

特許



第1図 可搬方測定装置の構成
TN34F1.gif

 

第1表 仕様
光学系
  分光器ジョバンイボン(H-10)超小型分光器
  測定方式シングルビーム方式
  光源ハロゲンランプ
  測定波長280〜800nm
  測定感度最高0.00040.D(7nm band width at 500nm)
  検出器小型ヘッドオン光電子増倍管
電気系
  応答速度1μ sec〜30m sec
  安定性1%/hs(点灯20分後)
  データ処理パーソナルコンピュータ(RAM 64KB, ROM 2KB)
  プログラム内容平均加算(最高255回)
移動平均法によるスムージング
GHP(グーゲンハイムプロット)による速度定数の表示
モニタースコープ、ドットプリンターへの出力
混合系
  リザーバ各5ml(ガラス製)循環恒温水により10〜60℃温調可能
  デッドボリウム28μl(10mm Call)
  デッドタイム最高500μsec
  装置の大きさW x D x H=43cm x 30cm x 30cm、重量13kg
  電源直流12V(自動車用12Vバッテリー)

 

第2表 水道水の分析

 

Sample taken(cm3)Added(μg)Found(μg)Found in tap water(ppb) c.v.(%)
40Mn0.092.363.2
Zn1.6441.03.1
Mn0.570.662.316.1
Zn0.652.1036.34.6