TN32 寒冷地における工場排水の高度処理(プロセス)

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内容の要約

 (16・17)において、寒冷地に適した排水の高度処理プロセスを構成する各単位処理の研究開発について述べたので、ここではこれらの単位処理を連結した高度処理プロセスの性能評価をする目的で行った連続処理試験結果について述べる。

 近年、下水の三次処理の必要性が各国で論議されその実施要望が年毎に高まっている。道内に於いても大都市では、環境保全上の問題のみならず産業用水源となっている河川や湖沼の汚濁防止という水質源保持の立場から、しばしば取り上げられており近い将来実施が必至趨勢にある。一般に、三次処理は既設の二次処理に付加する処理をいう下水用話で、

 高度処理と若干定義が異っている。高度処理は、既設の処理(処理方式、処理施設)にこだわらず一次処理から三次処理迄のプロセスを新たな構想に基づいて棉成するもので、合理的かつ効率の高い方式である。従って、将来新しく建設される下水処理場は高度処理方式の採用が予想されるが、本研究は単に下水のみならず道内産業に多く見られる微生物処理可能の排水を対象にした汎用型の高度処理技術開発を目的にしており、その具体的目標は、(1)処理水が上質な用水として、再利用出来る水質を有すること(BOD<10r/l、NH3−N<2r/l、PO4−P<0.2r/l)、(2)高度処理プロセスを構成する処理装置群は、寒冷降雪地でも屋外設置が可能な密閉式かつ立体的な塔型構造であること、等が主眼になっている。そのためには、従来用いられている曝気槽、沈殿槽や凝集槽などのような装置容積に比して液表面の大きい装置は、蒸発潜熱による熱損失が大きく寒冷地には不向きなので、出来得る限り液表面積の小さな密閉式の装置が要求される。このような塔型の装置が出来ると半地下へ埋没することが出来、地上部分を断熱材で被覆することにより屋外設置が可能になる。本研究は、以上の目標に沿う高度処理プロセスの開発を主眼として進められたが、連続処理試験の結果開発されたプロセスが目標を上回る上質な用水を生産する性能を持ちかつ野外設置可能な装置構成であることが証明された。1図に、実用規模の高度処理プラント予想図を示した。同図に見るように従来寒冷地で不可欠とされていた装置を収納する建屋が不要となり、管理棟以外の暖房費も不要となるので、その経済効果は大なるものがある。

詳しい内容

 1.試水および装置

 試水は、市内の下水処理場(豊平下水処理場)の一次処理水を定期的にタンクローリーで輪送して貯留し、これにコーンスチープリカーをCOD源に、エマルジョン化した灯油を油分源として、それぞれ所定の濃度になる様添加して調整した。連続試験は、COD濃度の異なる3種類のシリーズで行った。原水CODの変動幅は500ppm〜1,000ppmである。また、処理水を5℃とし、各単位処理に於ける水温調整はそれぞれに附属する冷却装置を用いて行ない全プロセスを通じて一定の水温を維持するようにした。試験装置は、油分分離装置→多段曝気槽→微生物脱窒装置→吸着ろ過の順に直列に連結して使用した。試験装置は、各単位処理の研究目的に合せて試作したため処理能力が装置によって異なるので、装置間に貯留槽を設けて推量調整を行った。従って、流量の大きな装置(吸着ろ過装置)では、必要な水量を貯留するのに時間を要し、その間に若干の水質変動を生じた。

 2.連続試験および考察

 連続処理試験結果のうち、各工程出口の水質および原水と最終処理水の上水基準項目による分析値の一例を第1表に示した。水温は冷却装置を持たない吸着ろ過装置なので若干上昇したが、他の工程では5〜6℃を維持した。油分分離槽における油分除去率は、油分を地下水に分散された場合に比べて若干低下したが、各処理水で工程中で吸着その他の理由で除去され最終処理水では検出されなかった。多段曝気槽におけるBOD、CODおよびTOCなどで表わされる有機物の除去性能は顕著である。5〜6℃の低水温で上記成分の除去率が、それぞれ95%、90%および91%と予想以上の成果が得られたことは、寒冷地における微生物処理に対する新しい方向を示唆するものと思われる。また、この工程では窒素化合物特に有機性窒素および全リンの減少が目立つが、これはこれらの成分の物質収支から見て菌体へ取り込まれたためと思われる。また、一般細菌、大腸菌がこの工程でともに90%除去されている。本実験に使用した試水は、かなり汚濁度の高い部類に属するが、最終処理水は無色透明で、当初の目標であるBODlOr/l以下、NH3-N2r/l以下およぴびPO4-P0.2ppm以下の基準値をPO4-Pを除いてそれぞれ下回っており、また他の上水試験項目となっている成分も高度に除去されている。連続試験には、殺菌工程を含まなかったが、一般細菌、大腸菌は共に各単位処理工程で大部分除去されているので、小量の殺菌剤の添加により無菌かつ上質な用水となり得ることが認められた。また、原水の性状や用水の使用日的に応じて単位処理の選択、組合せが自由に出来る応用性の広いプロセスであることが示された。

 特長

 工場廃水の高度処理は、今後の環境保全対策として極めて重要な課題である。

 とくに、寒冷地である北海道、あるいは北方圏諸国においては、そのため多くの障害を受ける。この研究はこの点について、ひとつの解決法を示している。

応用分野

 寒冷地におけるパルプ工場、水産加工場、農産加工場の排水処理



図1 寒冷地用AWTプラント
TN32F1.gif

 

第1表 試験結果の一例
分析項目原水処理水
PH6.97.5
OIL ppm100Tr.
COD(T) ppm4491.38
COD(D) ppm430ほぼ同じ
ΣP ppm6.500.63
ORG.P ppm1.760
PO4.P ppm4.740.4
ORG.N ppm42.5 
ORG.N(D) ppm33.30.8
NH3.N ppm33.5 
NH3.N(D) ppm30.21.5
NO2.N ppm00
NO2.N(D) ppm00
TURB ppm1330
BOD ppm9703.2
TOC(T) ppm4036.0
TOC(D) ppm3615.8
BACTERIA ct/ml49x10515x102
COLIFORM G ct/ml30x10313x10

分析項目原水処理水
F(mg/l)0.190.18
Cd(mg/l)<0.001<.001
Zn(mg/l)0.350.23
Cu(mg/l)0.0170.004
Fe(mg/l)2.10.04
Mn(mg/l)0.21<0.01
T・Cr(mg/l)<0.01<0.01
T・Hg(mg/l)<0.0005<0.0005
S・SiO23418
Ca(mg/l)247.4
Mg(mg/l)195.7
ABS(mg/l)1.10.03