TN3 閉回路選鉱法

問い合わせる ひとつ前に戻る 技術資料集の入り口に戻る

内容の要約

 鉱山における選鉱、選炭工場から排出される用廃水を循環使用する利点は廃水量が少なくなるので、総量規制に対する解決策となり得るとともに、循環水は繰り返される系の性能を低下させない程度に水質を改善すればよいのであって、廃水規制値にとらわれることはない、少なくとも廃水処理にかかる負担を軽減することができる。さらには用水の確保の難しい地域での鉱山開発で必須なことである。また冬期間、水温の高い水を循環することができ、今後さらに他の運鉱・運炭工場においても採用されるものと考えられる。

 本研究でいう閉回路系選鉱法とは前述のように用水に対して閉じられた系統であって、用廃水の循環使用による運鉱法をさす。これの理想は放流水量が零であり、付着水、蒸発水のみが系外に出る系統である。これに対して従来は用水を使い捨てる開回路系である。

 クローズ化によって生ずる問題は多く、またそれは対象とする鉱種と処理方法によって多種多様であるので十分に研究され、体系化される必要がある。また、現状において用水をクローズ化することは、起こり得る問題に対する対策が具体的に把握されていない以上、実行することはできないことである。

 この場合に共通する問題は、1)蓄積成分がプロセスの性能を低下させる恐れがある、2)プロセス内の流量バランスの確保など、系全体として最も効率よく安全な操業条件の解明が必要である、3)新たに生産系とのかかわりにおいて循環水処理を考える必要がある。このような未知の効果とかシステム工学的な問題についての検討は連続的な処理のできる実験系によって長時間の連続事件で確かめることが必要である。また、このような問題解決に関する研究は少なく、用廃水をクローズド化するための検討する手立てと、見通しを得る観点からその意義は極めて大きいと考える。

 以上のことから本研究は北海道南白老に産するカオリン鉱を実験例とし、その中に随伴する硫化鉄、石英などを除き製紙用カオリンを回収する閉回路系の実験プラントを作製し、廃水を循環使用した。そしてこのことによって生ずる問題の究明と、カオリン鉱閉回路系選鉱法の可能性につて検討を行った。

詳しい内容

 南白老産カオリン原鉱石の科学および鉱物組成は、およそ50〜65%のKaolineと、10〜30%の硫化鉄、10〜30%のQuartzからなる。硫化鉄はPyriteがおもであり、この他Marcasiteが、認められる。

 カオリン鉱から製紙用カオリンを回収する選鉱系統は一般に解砕→摩鉱→浮選(磁選)→分級→漂白→沈降→濾過→乾乾燥の各工程を経るが、本実験プラントもこれと同様の系統を考えた。使用する装置はすべて試作したが、その製作と試験条件は基本試験の結果を参考にした。また選鉱系統の設計は実験の行ない易さと、閉回路化の影響が短時間で現れるように配置して、各装置の仕様と、それらの計測と制御方法を決定した。またカオリン精鉱の水洗いおよび廃水処理沈殿物の脱水はバッチ処理とし、別に考えることにした。

 本報告では、実験の行ない易さと閉回路化による効果、さらに多種への応用性を考え南白老鉱山産カオリン鉱石を試料として、これを処理する閉回路系選鉱系統を作製し、長時間の連続操業試験を行った。そして、この結果のうち廃水の使用循環率を50%と90%にして行なった場合についての操業試験結果をとりまとめた。

 (1)予備試験の結果から本試験プラントにおいて安全な操業を行なうには用水量はおよそ601/hr、給鉱量は4〜5s/hrで行なうと良いことがわかった。

 はじめに廃水の循環使用率を約50%にして行った実験(I)は、その前半を開回路系で実験した。この場合、廃水の中和処理に要した設定pHは7.0〜9.0が良かった。そして処理水に溶存する重金属イオン濃度は満足すべき値であった。しかしナトリウムイオン、硫酸イオン等の濃度は高かった。このことが高度に閉回路化する場合の障害となることが予想された。

 (2)この場合の閉回路系試験では循環水量にしめる補給水量の割合が49.3%であった。また固形物排出量の最も多いところでは浮選系である。硫化鉄の除去率は全体で96.5%であるが、精鉱の水洗を行ない、溶存鉄分を補正すればさらに除去率が高くなると考えられる。またQuartzの除去率は全体で約60%であった。Kaolineの回収率は閉回路系で、約60%であったが、精鉱として回収されたKaolineは粒度が細かいところがあり、このことを考慮するとさらに回収率は高いと考えられる。また開回路系、閉回路系の両者で、得られたKaolineの品質ならびに操業状況に顕著な相違は認められなかった。

 (3)さらに用廃水の循環率を高くした場合、実験(II)は補給水量の所要水量に占める割合が一段と低くなった。この場合の循環率は87.4%と求められた。硫化鉄の除去率は閉回路系で低くなった。またQuartzのそれは約85%であった。一方Kaolineの回収率は約34%と低いが、これは浮選系での成績が良くなったことに加え、サイクロン(主選)の粗粒分を再選したことに原因する。

 (4)閉回路系の実験終了時における循環水中に溶存する成分量は、開回路系での未処理廃水中に溶存する量に比較し、実験(I)で4〜6倍に、実験(II)で20〜40倍に達した。この結果、実験(II)におけるKaoline精鉱中の鉄分は開回路系時に比べ、閉回路系でのそれが高く、精鉱の品質が低下した。

 (5)以上の結果、用廃水の循環使用率が50%程度ではプロセスに与える影響は軽微であることが確かめられた。しかし循環率が高くなるとプロセスへの影響が現れ始め、循環するのに許容される限度のあることが明らかであった。

 (6)次に系内に蓄積する物質と、それの各工程の選鉱性におよぼす影響を調べ、考慮した。そして閉回路化するのにさいてきな条件を見出すために知見を得た。

 (イ)はじめに廃水の循環使用率を約50%にして試験(実験(I))した。これの開回路系における用水の固体濃度は1.01/minの流入量とした場合で3〜4wt%であった。また溶存物質については溶存鉄が3,000ppm、TOCが800ppm程度であった。しかしこれを閉回路系にした場合、固体濃度は約20時間後に0.5wt%程度にまで減少し、以降その濃度が続いた。また循環水(濾過塔濾液)中の溶存鉄、TOCの濃度も同様の傾向を示し、いったんは零となり、次第に増加して30〜40時間後にそれぞれ1,000ppm、200ppm程度となり、その後一定となった。

 (ロ)これらの濃度変化はpHの挙動と一致しており、強い相関が認められた。

 そしてこれらの蓄積に対する各プロセスへの影響は軽微と考えられた。すなわち浮選工程では浮鉱、尾鉱の品位、浮鉱へのPyrite回収率、Kaoline、Quartz の迷い込み率、選鉱度などから判定して、それらと蓄積との相関は認められない。さらに漂白性能と精鉱の品質についても同様であった。

 (ハ)しかしつづいて行なった循環率を90%にまで高めた実験(II)では用水の固形物濃度、さらには循環水中の溶存物質が時間の経過とともに増加した。この場合の実験終了時における蓄積濃度はそれぞれ固形物が3〜4wt%、溶存鉄が7,000ppm、溶存ナトリウムが11,000ppm、TOCが1,300ppm程度に達した。

 (ニ)これらの蓄積によって各工程の分離性能に影響が現れた。まず沈殿槽における粒子の沈降性を悪くし、溢流水の固体濃度が増加した。浮選系においては尾鉱中のPyriteの品位が主選、清掃選ともに70%ほど高くなった。これに伴ってKaolineの品位がていかし、また浮選へのPyrite回収率が減少した。これらのことから浮選性は時間の経過とともに悪くなると判断された。

 漂白系においても同様に試薬添加に自動制御を悪くし、その消費量を増加させ、操業管理を困難にした。また精鉱の品質も次第に低下した。

 (ホ)以上の工程において蓄積によって影響が顕著となり始める濃度は溶存鉄で約 3,500ppmからと考えられ、この濃度に相当する他のイオン種、TOCについてもそれぞれの濃度が求められた。しかし実際に選別に対してどの種の物質がどの程度に影響するのかについては明らかではなく、今後に残された問題である。

 (ヘ)つぎに溶存ナトリウム、硫酸イオンなども濃度が高くなると閉回路化にとって障害をおよぼすようになると考えられるので、これらの除去が必要となる。しかし中和処理だけでは溶存量の大幅な低下が期待できない。この問題に対する一つの考え方として中和剤の選択、ジャオサイト生成の積極的な検討を考える必要がある。

 (ト)いずれにしても用廃水の再使用はプロセスに悪い影響を与えない程度において行なわれるが、この場合の系のpH管理と補給水の取扱い方、ならびに循環水処理の必要性などは安全な閉回路作業を行なうための重要な課題であり、本研究はそのことに対して、そして最適化のための知見を与えた。

 特長

 従来の選鉱法は開回路、すなわち用水の一過性のものであったが、これを用水の再利用による閉回路方式について検討した。実例としてカオリンの場合を試み、その最適化方法を確立した。

 公害防止、省エネルギーの点からみて、優れた方法である。

応用範囲

 諸種の鉱物の選鉱技術に応用し得る。