TN28 けい酸カリ肥料製造における石炭灰の改質

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内容の要約

 3種類のフライアッシュ(第1表)を試料としく溶性けい酸カリ肥料の製造を行い、その品質の改善に効果のある添加物について以下のことを明らかにした。なおカリ源としてはK2CO3を用いた。

 (1)フライアッシュに対しK2CO3の混合のみでは、c−K2O20wt%、s−SiO225%の肥料規格には達しない。

 (2)く溶性けい酸カリ鉱物KAISiO4を形成するためには、フライアッシュ中のAl203分は不足しているので、Al203の添加はく溶性の改善に好ましい。しかし、Al203の添加のみで、c−K2O20wt%に達するが、s−SiO2は25wt%に達しない。

 (3)アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO分の添加も、く溶性の改善に対して好ましい。特にMgOの添加が効果があり、c−K20は22wt%、S−SiO2は29wt%に達した。

 (4)く溶性を示す鉱物はKAISiO4の他K<sub>2MgSiO4K2CaSiO4であることが明らかになった。このためAI203、MgO、CaO源として粘土、マグネシアクリンカー、石灰石などの添加により、肥料の改質が期待できる。

 (5)次の添加物としてFe203を用い試験を行ったところ、Al203添加と同様な効果が認められた。その結果に基き、アルミ製練の廃棄物である赤泥の利用を考えて添加試験を行ったところ、c−K20は22wt%、s−SiO2は26wt%の肥料を製造することができた。

 以上の結果よりフライアッシュを原料とするけい酸カリ肥料の製造に当っては、Fe203、Al203およぴアルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO)の調整こより、フライアッシュ原料の種類を問わず肥料規格をクリアーできる見通しを得た。さらにアルミ製練の産業廃棄物である赤泥の有効利用方法についてもーつの指針を得た。

詳しい内容

 1. 実験方法

 混合試料1.5gを金型を用い直径14oに圧縮成型し、横型管状炉を用い大気中で加熱し反応を行なわせた。加熱方法は成型試料を室温で電気炉に入れ、20℃/minで所定の温度迄昇温し、一定温度で一定時間保持した。反応後の試料は速やかに炉外に取り出し、放冷後微粉砕しX線回折および化学分析に供した。

 2. 実験結果

 (1) 高温X線回折

 けい酸カリ鉱物の製造に先立ちK2CO3の加熱過程における結晶構造の変化について、高温X線(CuK2)を用い大気中で検討した。K2CO3は室温において水分を吸収し結晶水を持っているが、それは100℃の加熱でみられなくなる。さらに700℃迄のピークの変化について観察を行なった。その結果K2CO3は約400℃で結晶構造は変化することが観察された。

 同様の方法で、K2CO3を30.7wt%添加したI、TおよびE試料を用い、大気あるいはCO2気流の中で加熱し観察を行った。その結果は次のとおりである。

 KAISiO4は約700℃より生成し始める。また未反応のK2CO3は850℃迄に消滅する。900℃ではS102も消滅し、KAISiO4がさらに強く見られる。950〜1000℃ではKAISiO4の他に、回折角2θ約26.5°(SiO2の最強ピークの有ったところ)に新しいピークが観察された。このピークは室温迄放冷すると2つのピークに分裂するもので、クエン酸に不溶のKAISi2O6であった。加熱雰囲気(大気、CO2)を変えた場合のX線ピークに大きな相異は見られなかった。3種のフライアッシュ試料の結果も殆んど同じ傾向であったが、特にT試料900℃迄加熱したものは混入物のないKAISiO4のみのピークが観察された。

 (2)製造試験

 T試料にK2CO3を26.1wt%混合したものを用い、850〜1000℃の各温度で12min加熱した試料の放冷、粉砕後のX線回折結果は高温になる程KAISi2O6の生成が多く、したがってu−K20分も多くなる傾向がみられる。以上の結果より最適焼成温度は、900〜950℃と考えられた。

 続いて行った実験、試料(I、T、E)にK2CO3(32.4、34.8%)を混合し、30分間焼成(900、950℃)した場合の、それぞれの試料の化学分析結果を第2表に示した。

 この結果から、C−K20、S−SiO2は、KAISiO4が分解することにより可溶性になるものと考えられる。したがって肥料としての特性を良くするためには、KAISiO4を多く生成させKAISi2O6を生成させないことが必要である。3種のフライアッシュの化学分析値をみると、KAISiO4を生成するためにはAl2O3分がかなり不足している。第2、第3の添加物としてAl2O3またはMgOを5wt%添加した鮨果がRum8〜13である。この結果それらの添加は何れもc−K20、S−SiO2の増加させる効果が認められ、特にMgOの効果が著しく、C−K2O は20wt%以上、s−SiO2は最高29wt%のものが得られた。

 化学分析結果によるとE試料のCaO分が他と比べて低いため、そのことがc−K2O、s−SiO2が増加しない原因の一つではないかと考えられた。これを確かめるためAl2O3あるいはMgOの他にCa(OH)2を4.3wt%添加して実験を行った。その結果をRun14、15に示したが、CaO分の添加の結果が明らかに確認された。

 次にその他に第6の添加物としてFe2O3さを、さらに第7の添加物として赤泥(主成分SiO2、Al2O3、Fe2O3の効果について検討した。 Run18、19はFe2O3を5%添加した場合、Run20、21は赤泥を5%添加した場合であるが、何れもc−K2Oは20%以上、s−Si2O3は25%以上に達した。

 特長

 フライアッシュを主原料とするけい酸カリ肥料の製造は、一部で既に行われている。しかしながら石炭灰は多種多様で、どの灰も肥料製造に適するとは限らない。

 この研究は、各種の灰について基礎的検討を行ない、Al2O3MgO、Ca(OH)2、あるいは赤泥などを混合することによって、幅広く、石炭灰が利用できることを示している。

応用範囲

 フライアッシュからのけい酸カリ肥料製造技術

 その他、無機系廃棄物への応用

特許

 ○けい酸カリ肥料の製造方法(特願)59−028186

 第1表 フライアッシュの成分

Sam.SiO2Al2O3Fe2O3 MgOCaOK2ONa2OTiO2C
I56.8423.675.031.986.701.46 1.231.111.92
T56.2224.404.012.007.301.671.19 1.174.77
E59.5223.504.841.663.042.480.90 1.111.55
Red Mud11.2218.7044.220.182.620.77 5.476.79 

 第2表 添加物の効果

RunSam.F.A.(%)Al2O3(%)MgO(%) Ca(OH)2(%)Fe2O3(%)R.M.(%)K2CO3(%) E.T.(℃)Timec-K2O(%)w-K2O(%)u-K2O(%) t-K2O(%)s-SiO2(%)
1I67.6     32.4900 3018.72.9021.622.3
2I67.6     32.4950 3018.81.80.921.523.9
3T67.6     32.4900 3017.94.3022.122.5
4T67.6     32.4950 3019.63.50.523.424.1
5E67.6     32.4900 3016.74.41.923.018.3
6E67.6     32.4950 3016.33.02.822.118.2
7E65.6     32.8950 3015.811.92.129.823.8
8I62.65.0    32.4950 3021.02.5023.623.8
9I62.6 5.0   32.4950 3022.41.7023.526.8
10T62.65.0    32.4950 3021.72.5023.723.4
11T62.6 5.0   32.4950 3022.51.1023.628.9
12E62.65.0    32.4900 3017.73.91.522.918.5
13E62.6 5.0   32.4900 3020.32.11.423.822.5
14E58.35.0 4.3  32.4900 3021.32.20.624.120.1
15E58.3 5.04.3  32.4900 3021.31.90.824.125.8
18T62.6   5.0 32.4900 3022.52.0022.425.5
19T62.6   5.0 32.4950 3023.61.3023.626.9
20T62.6    5.032.4900 3022.21.7022.025.0
10T62.6    5.032.4950 3021.51.5021.826.9
c-K2O:く溶性カリ w-K2O:水溶性カリ t-K2O:全カリ s-SiO2:可溶性けい酸