できる「熱量天秤」の共同開発
技術指導実施機関
北海道工業開発試験所
技術指導の相手先企業
○ 企業名 | 真空理工株式会社 |
○ 所在地 | 横浜市緑区白山町300 |
○ 従業員数 | 70人 |
○ 資本金 | 40,000千円 |
○ 売上高 | 18億円(年) |
○ 業種 | 精密測定分析機器製造 |
指導を受けるに至る経緯
当社は日本真空技術グループのメーカーであるが、熱分析装置、熱物性測定装置、赤外線炉・電気炉デジタルコントローラを主として生産している。主製品の熱分析装置は我が国の代表的製品である。
規模的には完全な中小企業であるが自社ブランドの製品製造販売を自主的に行い、年間1億円の研究開発費を使い、7人の専門研究開発研究員をかかえている開発型企業である。
オイルショック以降、省資源、省エネルギーが注目されると相次いで新素材が誕生するようになり、新建材の火災実験データ分析とか、エンジニアリングプラスチックのテスト、セラミックに中間物として使用されているバインダーの熱変化、複写機等に使用されているトナーのカーボン量測定と新しい試料の測定分析に対応する技術や装置の開発が必要になっていた。
このような状況の中で、北海道工試では産業廃棄物の中にどれ位のプラスチックが入っているかの研究をしていた。しかし、従来の熱量天秤では正確な発熱量を測定することが難しく困っていた。特に従来のものは試料を10〜20rしか入れられないため産廃のように少くとも1〜2grの試料で測定する必要のあるものには対応できなかったし、900℃という高熱までを連続的に測定することなどができないため新しい熱量天秤の必要性をさし追ったものとして感じていた。
そこで、専門メーカーであり研究開発に熱心な当社へ昭和54年に新しい熱量天秤のテーマが持ち込まれた。メーカーとしても同様の認識を持っていたため両者は早速開発に着手した。
基本的なニーズは北海道工試がまとめ、これに従ってメーカー側が試作機を作った。試作第一号機は開発に着手して1年後の55年に出来上り早速各種のテストが北海道工試の側で進められた。試用結果のデータ解析後両者で協議し即改良が行われ、また試用してみるというキャッチボールが何度か行われた。そして2年後に商品化に成功し発売されたが、今日までに30台弱が各種の研究所や大学に納められている。もちろん完成品の1号機は北海道工試に納入されており、いわば研究者としての立場だけでなくユーザーとしての立場からもソフトウェアの面で指導を仰ぎハードはメーカーが知恵を出すという形での共同開発だったわけである。
北海道工試との関係は現在も続いており、新しいサンプルの測定があると相互にデータを交流しさらによりすぐれたものへの研究開発が続けられている。
(1)概要
この装置は、熱重量測定装置と伝導型熱量計を組み合せ、赤外線イメージ炉を用いて試料の熱重量変化と熱容量変化を同時に900℃という高温まで測定できる熱分析装置である。もっとも、熱重量と熱容量を同時に測定する熱量天秤は従来からあったが、試料量、昇温速度、充てん密度および測定結果のベースラインの引き方などにより大きく影響を受けるため重量変化を伴う場合の定量的な熱容量変化の測定という点では精度に若干問題があった。そのため、複合資材、新素材の時代といわれる昨今の技術開発に応えられる精度の高い熱量天秤の開発が望まれていた。
このような問題にメーカーとして開発を持っていたのが当社であり、研究者の立場から関心を持っていたのが北海道工試というわけである。両者の共同研究によって、開発目標である複雑な物質を高い精度で分析することはもちろんマイクロコンピュータが組み込まれることによりデータの解析も簡単にできるという従来の熱量天秤をはるかにしのぐものが開発されたわけである。
(2)装置の断要と規定原理
装置の構成は、図のとおり試料測定部、温度制御系、天秤回路、熱量測定回路系、デジタル記録系よりなっている。試料測定部は外側に赤外線イメージ炉が設置されその内側に向って石英の保護管、外筒容器、断熱カバーおよび試料容器からなっている。試料容器は銀製でその底部に白金ロジウム熱電対が接して試料温度を測定するとともに、熱電対保護管が支持棒となって下部の熱天秤に連結されている。
温度設定部は、外筒容器の側面と試料底部に配置してある。比熱・熱容量測定にあたっては外側の赤外線イメージ炉の熱源で加熱すると、透明石英の保護管を透して外筒容器が加熱され断熱カバーを通じて試料容器に熱が流入する。このように試料への熱の流入は外筒容器と試料容器との温度差(バイアス電圧)を予め温度差設定器で設定しておき、この温度差によって外筒容器との間に定量的に熱移動を行わせるものである。昇温速度は外筒
容器と試料容器との温変差によって決定される。
この分析法は相対法であるため、比熱の既知の標準試料によって熱容量温度曲線を予め求めておき、これと同一条件で未知試料を測定することによって比熱と熱容量が求められる。この測定値は試料の温度、設定温度間隔ごとに昇温に要する時間および熱重量変化が自動的に記録される。
なお、開発された熱量天秤の一般的仕様は次のとおりである。
○ 測定温度範囲 | 常温〜900℃ |
○ 測定雰囲気 | 大気または不活性ガス中(ガス流量0〜200ml/min) |
○ 試料量 | 0.1〜2gr |
○ 試料容器 | 銀製φ8o×19o深 |
内容積5.0ml | |
○ 測音制御熱電対 | JISR(PR13) |
○ バイアス電圧 | 0〜200μV可変 |
○ 設定温度記録間隔 | 2.5℃‥‥‥熱容量測定 |
10℃‥‥‥比熱測定 | |
○ 重量変化測定レンジ | 1〜1000mg/フルスケール、10段階選択 |
○ 熱量測定精度 | 比熱容量測定±4%、吸熱量測定±6% |
○ 所要電源 | AC200V、単相30A |
○ 冷却水 | 市水3l/min |
○ 装置寸法 | 1700W×500D ×840Ho |
装置の特長
(1)比熱の測定ができるほか熱重量変化とその熱容量を同時に定量的に測定できる。
(2)常温から900℃までガス雰囲気中で連続測定ができる。
(3)試料を擬平衡的に昇温することができるので熱容量の測定、分解能力は従来のものに比べて優れている。
(4)試料量が10〜2000oと比較的広範囲の分析ができるので最近の複合材料にも十分対応できる。
(5)バイアス電圧によって昇温速度を調節できるが、試料量によっても昇温速度の調節が可能である。
(6)昇温速度をかえても熱容量ピークの温度位置や熱容量測定値に影響を与えない。
(7)マイクロコンピュータによってデータ処理するので測定結果のグラフ表示や転移熱、反応熱などの計算、データ解析の手間が大幅に省ける。
(1)含水結晶化合物などの脱水過程とその熱容量測定
(2)液体物の蒸発熱の測定
(3)各種鉱物の脱水、熱分解反応の追跡と反応測定
(4)各種燃料の脱水、脱揮発分の測定と熱容量測定
(5)気固反応による重量変化と熱容量測定
(6)プラスチックの比熱測定と熱分解過程の重量変化と熱容量測定
(7)触媒化合物の生成時の重量変化と熱量測定
(8)酸化物の酸化・還元反応とエネルギー変化の測定
(9)各種無機、有機化合物の熱分解反応などの速度論的研究