TN24 熱量天秤

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内容の要約

 従来、熱重量変化と熱容量変化を同時に測定する装置として示差熱量天秤(TG−DTA)装置、示査走査熱量天秤(TG−DSC)装置がある。TG−DTA装置は、熱重量変化及び定性的な熱容量変化の測定に広く使用されている。熱容量変化を定量的に測定できる装置として、TG−DSCが製作されているが、DSCの精度は、重量変化を伴う場合の定量的な熱容量変化の測定性能を持ち合せていない。

 熱量天秤(TG−CSC)は、従来のTG−DTAとTG−DSC装置を改善する目的で当所が製作したもので、昇温速度の影響を受けずに、比熱、熱容量測定及び熱重量変化を伴なう場合の熱容量測定を精度よく定量化できる熱分析装置である。

 本装置の特長を列記すると次のようになる。

 (1)比熱の測定ができるほか熱重量変化とその熱容量を同時に定量的に測定できる。

 (2)室温から900℃までガス雰囲気中で測定できる。

 (3)試料を擬平衡時に昇温することができるので、熱容量測定の精度、分解能は、従来の熱分析装置に比べて優れている。

 (4)試料量が30〜1000rと比較的広範囲の分析ができる。

 (5)パイアス電圧によって昇温速度を調節できるが、試料量によっても昇温速度の調節が可能である。

 (6)本装置では、昇温速度をかえても熱容量ピークの温度位置や熱容量測定値に影響を与えない。熱量天秤の製品化については、当所と真空理工K.Kとで共同開発したものである。

詳しい内容

 1.本装置の概要と測定原理

 第1図にブロック図を示す。装置の構成は、試料測定部、温度制御系、天秤回路、熱測定回路系、デジタル記録系よりなっている。試料測定部は、外側に赤外線イメージ炉が設置され、その内側に向って石英の保護管、外筒容器、断熱カバー及び試料容器からなっている。試料容器は銀製で、その底部に白金ロジウム熱電対が接して試料温度を測定するとともに、熱電保護管が支持樺となって下部の熱天秤に連結されている。

 温度設定部は、外筒容器の側面と試料底部に配置してある。比熱、熱容量測定にあたっては、外側の赤外線イメージ炉の熱源で加熱すると、透明石英の保護管を透して外筒容器が加熱され、断熱カバーを通じて試料容器に熱が流入する。このように試料への熱の流入は、外筒容器と試料容器との温度差設定器で設定しておき、この温度差によって外筒容器と試料容器との間に定量的に熱移動を行わせるものである。昇温速度は、外筒容器と試料容器との温度差によって決定される。

 この熱分析法は相対法であるため、比熱の既知な標準試料によって熱容量温度曲線を予め求めておき、これと同一条件で未知試料を測定することによって比熱と熱容量が求められる。

 2.測定結果

 第2図、第1表には、特級KNO3の転移と高純度Znの融解について、パイアス電圧100、200μVで測定した結果を示す。

 ピークの立上り温度、ピーク温度ともバイアス電圧の影響、すなわち昇温速度の影響を受けないことがわかる。この理由は伝導型熱量計の測定原理から吸熱現象が擬平衡的に進行しているためであり、この点がDSCによる等速昇温方式と異なる点である。KNO3の転移熱Znの融解熱とも文献値に比べて土3.0%以内で一致している。

 次に、脱水反応によって複雑な反応過程の重量変化や反応熱の追跡が可能かどうかを調べるために特級MgSO4・7H20の測定を行ない、結果を第3図に示した。

 第3図の重量変化、脱水熱(破線)、時間−試料温度曲線に示すように、各段階の脱水反応中の試料温度はほぼ一定に保たれており、本装置の優れた特徴が発揮されている。第3図の重量曲線から、ピークP1+P2は−2H20、P3は−2H20、P4、P5+P6、P7はいずれも−H20に相当することを示している。

 特長

 物質は一般的に、加熱すると重量増渡があり、比熱もまた変化する。このような熱容量の測定には従来の測定器では困難であった。この点についてこの装置は種々の改良を加えることによって、精度よく測定し得るものとして開発した。

応用分野

 ○ 含水結晶化合物などの脱水過程とその熱容量測定

 ○ 液体物の蒸発熱の測定

 ○ 各種鉱物の脱水、熱分解反応の追跡と反応測定

 ○ 各種の燃料の脱水、脱揮発分の測定と熱容量測定

 ○ 気固反応による重量変化と熱容量測定

 ○ プラスチックの比熱測定と熱分解過程の重量変化と熱量測定

 ○ 各種無機、有機化合物の熱分解反応などの速度論的研究

特許

 ○ 熱量測定装置(特願)54-037335

 ○ 熱量変化と熱重量変化の同時測定装置(特願)56-070613



第1図 燃量天秤装置のブロック図
TN24F1.gif
1:試料容器、2:断熱カバー、3:外筒容器、
4:赤外線イメージ炉、5:試料熱電対、6:外筒熱電対、
7:温度差設定器、8:温度制御器、9:最高温度設定器、
10:天秤、11:秤量回路、12:デジタル温度計、
13:温度設定器、14:タイマー、15:デジタル記録回路、
16:デジタル記録計、17:石英保護管、18:窒素ガス


第2図 KN3, Zn の測定結果
TN24F2.gif

第3図 本装置(TG-CSC)によるMgSO4・7H2Oの測定結果
TN24F3.gif

 

第1表 KNO3, Zn の測定値と文献値との比較
 Measured valueReported value
SampleBias Voltage(μV)Peak temp(℃)ΔH(J/g)*Peak temp(℃) *ΔH(J/g)Temp(℃)ΔH(J/g)
KNO310013053.11135 53.23127.953.40
20013253.15
Zn10042099.44420100.86 419.7102.11
20042099.19
*断熱走査型熱量計