TN15 重水分析装置

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内容の要約

 近年重水をトレーサーとする生体内水分代謝の研究や、重水による稲の水吸収変化などの研究が行われるようになってきている。軽水中の重水濃度を測定する方法としては、比重計による方法や変温式浮子法、質量分析計による方法などがあるが、これらは多量の試料あるいは熟練を要したり、又高価な機器を必要とする。

 そこで筆者らは先に開発した疎水性白金触媒を用いて、常温常圧で重水と水素間で水−水素同位体交換反応を行わせることにより、反応平衡時の重水素量をガスクロマトグラフで測定し、重水濃度を決定する簡便な分析法を確立した。これによれば0.01〜99.5%の濃度領域の重水を間接的に分析することができる。分析に要する時間は30分で、分析誤差は高濃度域重水では1%、低濃度域重水では約3%であった。本法は装置の構成が簡単であり、熟練を要しない。触媒の活性が低下した場合には、空気又は酸素で処理することにより回復でき長時間の使用が可能である。

 水はわれわれをとりまく自然や生活の至る所に存在し、その果す役割は極めて大きい。生体系、非生体系を問わず、その挙動や作用を知ることは非常に重要な事である。重水が安全であるのに、放射性のトリチウムがトレーサーにこれまで利用されているのは、前者は簡便な分析法がなく、一方後者は極めて感度よく分析することが可能であったからである。今回、全自動重水分析計を開発したことによって、今後、重水を用いる研究がますます発展することを期待するものである。

詳しい内容

 分析法の原理は次の交換反応式で表わされる。

pt
H2(g)+HDO(l)HD(g)+H2O(l)

 すなわち、水素ガス(H2、キャリヤーガス)と重水(HDO)とが、疎水性白金触媒下で接触すると、重水素化水素(HD)ガスとH2O(液体)が、水−水素交換反応により生成される反応を利用したものである。この生成したHD及びH2Oをモレキュシーブ13Xカラムを通すと、H2Oはモレキュラシーブ13Xに吸着されHDのみを熱伝導度検出器(TCD)で検出、定量することができる。この交換反応に使用される触媒は、多孔性スチレンジビニルベンゼン(SDB)の共重合体に白金を担持させたもので、SDB粉体は、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフの充填剤及びイオン交換樹脂の素材などとして一般に使用されているものでもある。

 装置の基本構成は第1図の通りである。装置は水素ボンベ及び水素精製器(水素発生器を使用する場合は不要)、水素流量調整器、試料注入部、触媒カラム(Pt−2%、SDB60〜80mesh、4o×10p)、分離カラム(モレキュラシーブ13X)検出器、積分計又は記録計より成り立っている。又、図中の窒素ボンベは水素を流す前に装置内の空気を置換するために使用される。

 分析条件は、試料注入量:2μl、触媒カラム温度:80〜90℃、試料注入部温度:150〜175℃、検出器温度:90〜150℃、キャリヤーガス流速:15〜30ml/minである。第2図に0〜100%までの濃度における検量線を示す。検量線は5%濃度までは直接であるが、その後ゆるやかに曲がっている。これは5%以下ではD2OはほとんどHDOの形で存在するため、水―水素同位体交換反応によるD2の生成量は実際上無視できるが、5%以上の濃度になるに従い試料水にHDOの外にD2Oが共存するため、水素(H2)との反応でHDの他にもD2も発生しD2とHDの熱伝導度が異なるためと推定される。

 このような検量線を用いて、実際に分析した結果、第1表に示す通り、低濃度重水含有試料の分析誤差は、D2O 2.5%含有試料で約2%、0.03%以下では約3%であった。この分析計は、昭光通商株式会社と共同開発したものであって、製品化された装置の写真を示した。

 つぎに重水による研究例を紹介する。

 (医学)生体の全水分の測定。皮膚からの水分吸収ならびに体内分布移動、尿排泄の解析。人工透析における水収支ならびに適性水分の研究。循環器における水移動の研究。髄液の代謝。

 (原動力)重水濃縮触媒の活性測定。冷却水移動の調査。重水炉の運転管理。

 (農学)水田中の水の移動(水平、上下)、土壌浸透水の分布。水分吸収速度と植物体内分布、蒸散。

 (環境)天然水濃縮係数のチェック。地下水の移動。水蒸気の移動。空気の移動。

 特長

 この研究者は、先に開発した疎水性白金触媒を使用して、簡便な方法で重水濃度を測定する方法を発明した。

 この分析装置の出現によって、従来放射性のトリチウムなどを使用していた調査、研究において、重水の使用が可能となるので、広範な分野において今後ますますその使用度が増すことが考えられる。

応用分野

 農業、医学、原子力関係、環境問題その他重水をトレーサーして用いる場合

特許

 ○ 重水の定量分析法およびその装置(特願)56-126008

 ○ 重水素化有機化合物の定量分析方法及び装置(特願)58-098007



第1図 重水分析計の基本構成
TN15F1.gif

第2図 全濃度領域の検量線
TN15F2.gif

 

第1表 分析精度
Concentration of D2O(wt%)Error
InjectedMeasured
0.09970.1010+1.30
0.1020+2.30
0.0980-1.70
0.04980.0490-1.60
0.0510+2.41
0.0485-2.61
0.02490.0255+2.41
0.0240-3.61
0.0250+0.40
0.00990.0102+3.03
0.0096-3.03


北光式全自動分析計
北光式全自動分析計

1.水素発生部
純粋を補給するだけで、超高純度水素が連続的に得られ、より安定したベースラインが得られます。

.自動試料注入部
自動的に最高50サンプルまで注入します。

3.本体部
疎水性白金触媒を使用し、高感度で迅速に天然レベル以下から99%まで広範囲な分析を行います。保護回路付きの安全設計になっています。

4.データ処理部
プログラム機能により最小二乗法、平均値、変動係数など自動的にデータ解析が出来ます。
生波形はフロッピーへ自動記憶し、測定データはA4サイズにレポート編集します。