TN13 新しい原料による薬品炭

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内容の要約

 (1) 南洋材を原料とする薬用炭

 薬用炭は古くから胃、腸疾患、コレラ、腸チブスなどの治療薬、および毒物の解毒剤として救急処置など医療分野に用いられてきた。そのほか、薬品製造分野では脱色、精製などにも利用されている。また、最近では人工腎臓用の補助吸着剤、代謝系人工臓器などのライフサイエンス分野で多く使われるようになった。薬用炭は第10改正日本薬局方に示すように強熱残渣分、重金属類、吸着性能などの規定が非常に厳密であるため、出発原料に制約が生じる。そのため強熱残渣分の少ない木材などが原料として望ましいと考えられる。しかしながら、活性炭製造用の木質原料は現在木材輸出国の原木輸出規制などが原因となり極度に品薄となっている。

 本報ではフィリピン産未利用木材2種および国内産松材を原料として流動賦活法と酸洗浄法の組み合わせによる薬用炭の製法について基礎的検討を行い、日本薬局方10(以下日局10と略記)薬品炭の基準を満足する結果を得たので報告する。

 (2) ポリアクリルニトリルを原料とした薬用炭

 薬用炭の原料は従来、強熱残渣分の少ない木質系が用いられると考えられているが、本報では強熱残渣分の非常に少ない合成樹脂を原料とした薬用炭の製法を検討した。供試原料はポリアクリルニトリル共重合体の繊維屑を用いた。賦活温度850℃で得られた各賦活物について日局10による薬用炭試験を行った結果を示した。各試験項目とも薬用炭基準を上まわる良好な値を示すことがわかった。このことはポリアクリルニトリルを原料とした活性炭は前報とは異なり酸洗浄を必要とせずに薬用炭を調整できるもの思われる。

詳しい内容

 1 南洋材を原料とした薬用炭

 (1) 原料

 原料はフィリピン政府が未利用資源として利用計画を進めている樹木中からイピルーイピル、アピトンの2種および日本産松の3種類を用いた。以後この原料をIP、AP、PAと略記する。

 (2) 供試原料および炭化物の調製

 原木をチッパーおよび粉砕機によって粉砕したのち、これらの供試原料は攪拌流動炭化装置を用い、430℃で炭化した。第1表には原料および炭化物の工業分析値、収率〔wt%〕とかさ密度〔ρB〕を示した。以後、松、イピールイピール、アピトンの炭化物をPAC、IPC、APCと略記する。

 (3) 賦活と酸洗浄

 回分型流動賦活装置により800℃〜900℃で水蒸賦活を行った。その後塩酸等で酸洗浄を行った。

 (4)賦活の性能

 第1図には賦活時間と賦活物のメチレンブルー吸着量〔MB〕の関係を示した。次にIPCA(賦活物にはAをつける)、APCA、PACAおよびこれらを1.0n塩酸で洗浄精製した活性炭を遠心分離器で分離したのち上澄液のメチレンブルー濃度〔r/l〕を求めた。第2図にそれとメチレンブルー吸着量〔r/g〕の関係を示した。いずれの未処理炭および精製活性炭も低濃度領域から高濃度にわたり吸着性の優れた活性炭であることがわかった。

 (5)精製活性炭の薬用炭としての評価

 賦活温度850℃で賦活物を1.0nの各酸で精製し、日局10の薬用試験を行った結果、未処理活性炭では純度試験pHが8.1〜9.3であるのに比較して精製活性炭はいずれの酸を使用してもp Hは6.7〜7.3となり、基準を満たすことがわかった。

 未処理活性炭の強熱残渣分および酸可溶分は各試料とも基準を満たしていないが、精製によって0.15〜0.57%程度まで減少し、基準を十分に満たしている。南洋材の未処理活性炭中に酸可溶分が多いのはカルシウム含有量が多いことが一因であると考えられる。

 シアン化合物、硫化物、硫酸物、砒素および重金属含有量は未処理活性炭で、いずれも基準を満たしている。また吸着試験では未処理活性炭および精製活性炭とも大きな差は認められず基準をすべて満たすことがわかった。

 2 ポリアクリルニトリルを原料とした薬用炭

 (1) 供試原料および炭化物の調整

 供試原料は工場廃棄物で繊維状のポリアクリルニトリルの共重合体を用いた(以後PANWと略記する)。炭化物の調製は、繊維を1.0〜2.0pにカットした。反応管の温度を230℃として、空気中で2時間及び5時間保持した。(以後この炭化物をPANAおよびPANBと略記する)。

 (2) 炭化物の性状

 PANWを空気中で熱処理して得られた収率y(wt%)等を第2表に示した。また強熱残渣分を木質系と比較するとPANA、Bとも非常に低い値が得られており、薬用炭原料として適切であると思われる。

 (3)賦活試験

 賦活に用いた試験装置及び方法は(1)に従った。第3図には850℃でPANCを賦活して得られた賦活物の収率Yと(MB)および(S)の関係を示した。

 特長

 この研究は、最近薬用炭の需要増加が見込まれる点から、その原料の入手難に対して、いままで利用されていない、南洋材あるいはプラスチック廃棄物に注目した。

 結果として、南洋材のあるもの、またポリアクリルニトリルの繊維屑等を原料として、ここに示された製造によれば、「日本薬局方」を満足する製品が得られた。

応用範囲

 薬用炭の原料の拡大、それに応じた製造技術

第1表 木材とその炭化物の分析値
SampleMoisture(%)Ash(%)VM(%)FC(%)BD(gm/ml)Y(wt%)
Raw materialsIP11.671.174.1813.04--
AP13.430.370.1416.19--
PA12.000.437.0050.57--
Carbonized charsIPC2.204.724.1268.980.1834
APC1.811.034.0063.190.1432
PAC2.411.847.8147.970.1227
BD:Bulk density, FC:Fixed carbon, VM:Volatile matter, Y:Yoeld of chars


第1図 賦活時間とメチレンブルー吸着量
TN13F1.gif

第2図 等温吸着線
TN13F2.gif

第3図 賦活の重量損出と賦活物のメチレンブルー吸量及び、内部表面積
TN13F3.gif

 

第2表 ポリアクリ二トリル炭化物
SampleYield(%)Internal surface area(m2/g)Ash(%)Volatile matter(%)
PAN W--0.007-
PAN A67.91100.00828.12
PAN B64.31300.00919.00
PAN W:Polyacrylonitrile copolymer
PAN A:Char of PAN W carbonized at 230℃ in open air for 2hr
PAN B:Char of PAN W carbonized at 230℃ in open air for 5hr