TN11 ポリアクリルニトリルを原料とする活性炭

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内容の要約

 本研究では、ポリアクリロニトル(以後PANと略記する)を用い流動化法によって活性炭を製造し、その物性を測定するとともに、重金属、有機系ガスの吸着特性を調べた。PANを空気中で加熱すると熱縮合(熱分解)して、耐熱、耐火性に富んだ縮合物となり、これらの性質を利用し、炭素繊維を製造できることはすでに知られている。

 活性炭に窒素含有化合物を添加すると、重金属類の吸着量が増加することは、著者らによって明らかにされたが、この事実からPANの熱縮合物を出発原料にした活性炭中に、窒素が含有されるならば、重金属類の吸着量の大きい活性炭の生成が期待される。

 先にポリ塩化ビニルを含んだ廃プラスチックより活性炭を製造し、その性質を検討した結果、プラスチック廃棄物を原料とする活性炭の製造がきわめて有望であることを報告した。PANについても、PANおよびその共重合体を原料とする衣類、製造過程で廃出される産業廃棄物が多いことから、未利用資源の有効利用見地からも、PANを原料とする活性炭の製造法を研究することは有意義なものと考えた。

 PANを出発原料とした活性炭(PANAC)の製造法について研究した結果、次のことが明らかになった。

 賦活生成物の活性炭としての性能は、賦活温度800〜900℃(収率20〜27%)で、メチレンブルー吸着量300〜400r/g、内部表面積1,300から1,400m2/g程度であった。

 有機系ガスのひとつとして賦活生成物のニトリル、アミノ、ジアゾ基が関係するものと推察した。

 重金属類の水溶液からの吸着試験結果は比較した市販活性炭と同等の性能を示した。

 現在、悪臭公害として問題になっているメルカプタン類は、特に優れた吸着剤もないので、PANACは悪臭防止用として有用な素材になると考えられる。

詳しい内容

 1 実験

 (1) 原料

 原料のPANの合成法は、アクリロニトリルを重合し、得られたPANをジメチルホルムアミド溶液とし、メチルアルコールを用いて沈殿させ精製したのち、60℃の真空下で50時間乾燥して使用した。

 (2) PANの熱縮合

 ドラフト付乾燥機にPAN50gを入れ、温度を270℃に保持し、5時間空気中で処理した。以後これらの炭化物をPANPと略記する。

 (3) PANPの水蒸気賦活

 実験装置は、回分型の流動賦活装置を用いた。すなわち、内径40o、高さ600oの透明石英管で中心部に、開孔比1.0%の分散板を有する外熱で温度制御する賦活装置である。賦活ガスは水蒸気を用い、蒸気量は、1.5g・H2O/oで、毎回20gのPANPを粒径0.5〜1.0oに整粒賦活した。

 1 実験結果および考察

 (1) PANの熱縮合

 得られたPANPの生物を第1表に示した。

 (2) 賦活

 第1図は、PANPの温度800、850、900℃での賦活結果である。次に賦活温度850℃におけるPANACの内部表面積(A?S)とメチレンブルー吸着量(M?B)の関係を第2図に示したが、これらの傾向は賦活温度、800、900℃でも同様であった。

 (3) 有機系ガスの吸着

 各種の有機系ガスの吸着試験を行った結果を第2表に示した。実験に使用したPANACは、850℃で25分、賦活したもので、S?A、640m2/g、M?B、65r/gである。比較のためヤシ殻を原料とする活性炭(Y−20)、瀝青炭からの活性炭CALについても検討した。

 第2表からPANACは、ブチルメルカプタンに対する吸着量が、きわめて大きいことがわかる。また、PANACはラク酸の吸着量が大きいが、メチルアミン、ベンゼンの吸着量は市販活性炭より小さくなっている。

 (1) 重金属の吸着

 PANPおよびPANACを用いた、HgCl2、Cd(NO32、K2Cr2O7、Pb(NO32の水溶液からの吸着試験結果では、重金属類は、PANP、PANACにも吸着され、一般の活性炭と比較し有意差は認められない。

 2 繊維状活性炭

 PANACは、原料とするPANの形状によって繊維状はもちろん、これを成型加工した繊維、フェルト、フェルムなどを作ることができると共に粉末状、異形をもった粒状のものまで作ることができる。

 現状では空気の清浄化(特に悪臭のもとになるメルカプタン類の除去)と廃水処理への実用化を目的に機械的強度がすぐれ、表面積の大きいフェルト製品の製造を主目標に研究を進めている。

 なお、繊維状にしたPANACは一般活性炭より重金属の吸着能力の大きいのも特長の一つである。

 そのほか、SO除去能率は、特にSO除去用として作られている活性炭とほとんど同様な性能があり、さらに興味あることにはアミンル類の吸着力もアミン吸着用に開発されたスルホン化炭と同等な性能を示すことなど多くの特色をもち、さらに機械的性能のすぐれた繊維状、フェルト状にできることは、その特色を一層増すものと期待している。

 特長

 ポリアクリニトリル廃棄物を有効に利用するため、それを原料とする活性炭の製造法を明らかにした。

 この活性炭の特長は、1)メルカプタンに対して、特に吸着能力が大きい。2)重金属に対しても有効である。3)繊維状、あるいはフェルト状の活性炭ができる。などである。

応用分野

 ポリアクリルニトリル廃棄物の有効利用

 繊維状活性炭への利用

 悪臭除去への活用

特許

 ○ メルカプト化合物の除去方法(特願)979399

第1表 PANの炭化(270℃)
試料収率
(-)
比表面積
(m2/g)
灰分
(%)
揮発分
(%)
PANP0.642200.0127.11


第1図 賦活時間と収率
TN11F1.gif

第2図 反応時間と比表面積(S.A)、メチレンブルー吸着量(M.B)
TN11F2.gif

 

第2表 有機ガスの吸差
試料\有機ガスC6H6C4H9SH C3H7COOHCH3NH2
PANAC38.63260.5835.4837.35
Y-2052.5562.1928.1651.34
CAL50.2846.8324.3844.36
単位は重量%