TN10 タール油からの有用化学物質の分離法

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内容の要約

 タール油成分々離について、石炭液化油を例として水酸化カリウム水溶液による方法を開発した。

 石炭液化油はナフサ留分からピッチ類に至る幅広い分子量分布を有しており、その性状は芳香族および極性基に富んでいる。それらの中でもフェノール類は化学工業原料としての有用であり、効率の良い分離・利用が石炭液化プロセスの経済性を向上させるために重要である。その分離法の一つとして酸塩基による抽出・中和分離法がある。当所では既に5〜40wt%の水酸化カリウム水溶液による酸性油の抽出分離を試み、水酸化カリウム濃度が高くなるにつれて次第に側鎖長が長く酸素含有量の少ないフェノール類が得られるが、さらに水酸化カリウムの濃度を1〜40wt%とし、同一試料から繰り返し抽出することにより得られた酸性油などの性状等について検討した。

 石炭液化油のナフサ留分を水酸化カリウム主要駅により順次、抽出・中和分解を行い酸性油、塩基性油を段階的に分離し、各抽出物の分析・同定を行った。この結果、抽出量が増すに従い順次分子量の大なるものが抽出分離されることが分った。この方法で酸性分・塩基性分を完全に液化油から分離することは可能であるが、各成分中の含有成分の分別を同時に行える可能性があるものと考えられる。

詳しい内容

 (1)実験方法

 石炭液化油は当所の0.1t/d石炭直接液化連続試験装置を用い、幌内炭を原料とし、温度450℃、圧力300s/p2の反応条件下で、生成液化油の重質分を媒体油としてリサイクル使用するいわゆるリサイクル液化実験で得られたものである。この原油は計算上少なくとも90%以上が石炭由来の油であり、特に軽質部分はほぼ100%石炭由来と考えて差支えない。酸性油の溶解抽出および中和分離の作業手順は、1wt%の水酸化カリウム溶液300mlを1000mlの分液ロートにとり、20分間ふりまぜた。水層にフェノレートとして溶解した酸性油は一昼夜分液ローと内で静置し、油層と分離した後精秤し、10wt%硫酸にて中和を行い油層として分離した。抽出されずに油層に残存した酸性油は同様な抽出作業をくりかえした。1wt%水酸化カリウム溶液での抽出が進まなくなったことを確認の後、次いで2wt%、5wt%、10wt%、20wt%、30wt%および40wt%と水酸化カリウム濃度を増して抽出・中和分離をくりかえし各種酸性成分を得た。酸性成分の抽出残油を用い、引き続いて塩基性油を分離した。

 (2)実験結果

 第1図1、2および3に、遂次抽出によって得られた酸性油のマススペクトルを示した。これによると、第1回目の抽出でM/E(分子量/電荷数)=94フェノールが主成分であり、その含有量はM+1のピークを加えると70%を超える。抽出回数が増すとともにM/E=108のクレゾールの含有量が増加して、第5回目の抽出ではクレゾールが60%以上とその抽出物の主成分を閉めることになる。さらに抽出回数を増すと、より分子量の多い酸性油が得られるようになり、ブチルフェノール、アミルフェノールの含有量が増加することがわかる。

 第1表FIマススペクトルから同定された各種フェノールのM/E94〜164のものを示した。これらは医薬品、合成樹脂原料として付加価値の高いものである。さらに現在、石油化学工業におけるエチレンの製造法が、ナフサ分解プロセスから天然ガスの合成プロセスに移行しつつあり、ナフサ分解からの副生品である芳香族素成分の供給が少なくなってきていることと考えあわせると、このような簡便な操作で、選択性の高い分離法は有効であると考えられる。

 この方法を工業規模で操作するには、原子力工業で従来から用いられている連続溶媒抽出機であるミキサーセトラー型の抽出機を多段に用いることにより可能と考える。

 特長

 石炭液化油などの、いわゆるタール油の成分分離は、一般にかなり困難なものとされている。ここでは、水酸化カリウム水溶液により、順次抽出・中和分解を行い、酸性油、塩基性油を段階的に分離する方法を開発した。

 これらの分離物は、医薬品あるいは合成樹脂原料として付加価値のあるものである。

応用範囲

 タール油などの複雑な有機化合物の混合物の分離技術

特許

 ○ 石炭液化油中の酸性油および塩基性油の分離方法(特願)59-017379



第1図 1回目分離油のFIマススペクトル
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第2図 第5回目分離のFIマススペクトル
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第3図 第7回目分離のFIマススペクトル
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第1表 分離油中の成分
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