低温に対する生物の応答
扇谷悟
1997年6月 工業技術 38(6),15
1987年,大腸菌の培養液の温度を10℃に低下させること(低温ショック)によって,複数のタンパク質が新たに合成(誘導)されることが初めて報告された。
すなわち,低温を引き金にして新たな生命活動が引き起こされたわけである。
1990年には大腸菌の主たる低温ショック遺伝子として,CspA遺伝子が単離された。
その後,枯草菌,酵母,植物,魚類などでも,低温処理によって誘導される遺伝子が報告されてきている。
大腸菌の低温ショックタンパク質CspAについては,1996年に低温による誘導機構に関する報告があリ,1997年に低温下におけるRNAの構造変化を補助する作用(RNAシャペロン)がその機能として推定された。
しかし,他の低温応答タンパク質については,転写調節因子,リボソーム関連タンパク質などの機能が推定されているものの,機能や誘導機構についてまだ不明な点が多い。