Tb3+→Nd3+励起エネルギー伝達の非線形解析
外岡和彦
1992年3月 北海道工業開発試験所報告 54,25-43
媒質中に分散している希土類イオンの間には,その4f電子がつくる電気双極子や多重極子間の電気的または磁気的相互作用が存在する。
これらの相互作用によって活性イオン間に励起エネルギー共鳴伝達が生ずることが,Förster[2]とDexter[3]によって理論的に示された。
これらの励起エネルギーの授受を行う活性イオンは,それぞれドナー,アクセプタとよばれている。
本研究では,ドナーだけでなくアクセプタが励起状態にある確率まで考慮し,レート方程式を非線形微分方程式として扱った。
この非線形レート方程式の数値解析により,パルス励起直後の蛍光強度の非直線的な減衰が方程式の非線形性によるものとして理解できることを確認した。
このモデルをガラス中のTb3+の蛍光のパルス応答に適用したところ実験結果をよく説明できた。
さらに,エネルギー伝達確率がアクセプタ濃度に依存することからドナーとアクセプタの分布に新しい分布関数を導入すべきことを示し,ランダムな分布だけでなくドナー・アクセプタの凝集を含む新しい動径分布関数を提案した。
この非線形解析により,希土類イオン間の励起エネルギー共鳴伝達のメカニズムをより詳細に解析することが可能となる。
レーザ動作のように活性イオンを高濃度に添加し,かつ強く励起された系の解析には特に有用である。