籾殻灰からのSiCl4の製造(第3報)…フーリエ変換光音響分光法によるアルカリ及びアルカリ土類金属塩添加籾殻灰の塩素化反応機構の分析…

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奥谷猛/ 中田善徳/ 日野雅夫
1992年7月 北海道工業開発試験所技術資料 14,37-37

 四塩化ケイ素(SiCl4)は,高純度ケイ素化合物として気相反応法やイミド分解法により,SiC,Si3N4粉体の製造用の原料として利用されている。 前報においては籾殻中に含まれる活性なSiO2と炭素(C)の混合物を塩素化することによりSiCl4を製造する際,カリウムが塩素化反応促進効果を示すことを明らかにした。 その作用機構として,1.52Åのイオン半径を持つK+がSiO2に入り込み,SiO2格子を歪め,その結果,塩素化反応種(気相の塩化炭素)のSiO2格子内の拡散を容易にするために促進効果が観察されたものと推察した。 一方,Na,Mg,Ca金属塩の場合,各金属のイオン半径は,K+よりも小さく,SiO2格子を塩素反応種の拡散を容易にするほど歪めない。 さらに,塩素化反応状態下では塩化物になり,各塩化物は,800℃以上で溶融状態となるため,SiO2とCの反応活性点をおおい,Cl2との接触を妨げるために塩素化反応妨害効果が観察されたものと推定した。
 従来の赤外吸収スペクトルを測定する方法は,粉体や非晶質固体などの強散乱性試料の測定,さらに,光学的に不透明な物質の測定には不適である。 本研究で取り扱っている籾殻灰とCの混合物は,粉体でしかも黒色であるため従来のIRスペクトル測定は不可能である。 しかしながら,このような試料に赤外光が照射されると,試料に取り込まれた光エネルギーの一部は試料内部に熱を発生させる。 引き続き起こる熱拡散により熱エネルギーの一部は,周囲の気体に伝達され,周囲の気体に粗密波を生じさせる。 この粗密波を高感度マイクロフォンや圧電素子で検出することにより,従来の赤外分光法では測定できなかった試料の化学結合に関する情報を得ることができる。 この方法は光音響分光法(PAS)と呼ばれる方法である。 近年,このPASにフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を組み合わせることによって,より高精度で測定時間の短縮ができるFT-IR/PASが注目されている。
 本報告では,籾殻燃焼灰のSiO2の反応挙動を調べるために塩素化反応前後の籾殻燃焼灰のFT-IR/PASにより,アルカリ,アルカリ土類金属塩の塩素化反応促進効果及び阻害効果の作用機構について検討した。 その結果,構成酸素原子が四面体の角を占めているSiO2の赤外振動の全対称SiO4伸縮振動(ν1)と非対称SiO4縮重伸縮振動(ν3)の相対比は,SiO2ネットワークの構造変化を示しているものと考えられた。 塩素化反応前のν13比は,Ash-1では0.44,Ash-2では0.63,市販SiO2では0.48,ケイ砂では0.72であった。 塩素化反応前後のSiO2のν13の結果から,K+が増加するほど,ν13が増加し,塩素化反応が促進された。 Na+,Mg2+とCa2+の添加によるSiO2のν13は,K+の場合よりも小さく,それらの添加物は塩素化反応を促進することはできなかった。 塩素化反応下で生成したKCl,NaCl,MgCl2,CaCl2は900℃で溶融した。