多環芳香族化合物の水酸化反応を行うddY系マウスシトクロムP450のcDNAクローニング
扇谷悟/ 浜渕款/ 石崎紘三/ 神力就子
1991年3月 北海道工業開発試験所報告 51,71-81
現在まで多環芳香族化合物の変換に微生物を利用した研究は数多く行われているが,そのいずれもが満足すべき結果を得ていない。
そこで我々はその機能の由来を高等動物に求め,高等動物の肝臓中のP450を用いて,多環芳香族化合物の水酸化を行う研究を開始した。
この際,我々がターゲットとするのは多環芳香族化合物を水酸化するP450IA1というタイプに分類されているP450である。
この研究では,遺伝子組み換え技術による有用な酵素の微生物による大量生産および天然にはない高機能な人工酵素の創製を目標とした。
本研究では高い多環芳香族化合物水酸化活性を有することが知られているマウスを実験動物とした。
現在までに種々の動物からP450IA1のcDNAが単離されており,マウスのP450IA1のcDNAについても,すでにKimuraらによってC57BL/6N系マウスより単離され,P1-450と命名されている。
しかし,動物種間の類似性については比較されているものの,同じ動物の系統差に関する研究はほとんど例がない。
そこで我々はマウスにおける系統差について検討するため,塩基配列既知のC57BL/6N系マウスのP450IA1のcDNAと共に,安価で繁用されるマウスであるddY系マウスよりP450IA1のcDNAをクローニングすることとした。
また,ある種の化合物を動物に投与すると,複数種のP450の中から,いくつかのP450だけが肝臓で増産される事実が知られている。
このような現象は“誘導”と呼ばれるが,我々がターゲットとしているP450IA1は4環性の多環芳香族化合物である3-メチルコランスレンで誘導されることが報告されている。
そこで,両系統のマウスに多環芳香化合物である3-メチルコランスレンあるいはナフタレンを投与したときのP450の誘導についても検討を行った。