重水分析装置
中小企業団「先端工業技術応用要覧」(s59〜60年度)抜刷
1989年3月 北海道工業開発試験所技術資料 12,30-31
近年重水をトレーサーとする生体内水分代謝の研究や、重水による稲の水吸収変化などの研究が行われるようになってきている。
軽水中の重水濃度を測定する方法としては、比重計による方法や変温式浮子法、質量分析計による方法などがあるが、これらは多量の試料あるいは熟練を要したり、又高価な機器を必要とする。
そこで著者らは先に開発した疎水性白金触媒を用いて、常温常圧で重水と水素間で水-水素同位体交換反応を行わせることにより、反応平衡時の重水素量をガスクロマトグラフで測定し、重水濃度を決定する簡便な分析法を確立した。
これによれば0.01〜99.5%の濃度領域の重水を間接的に分析することができる。
分析に要する時間は30分で、分析誤差は高濃度域重水では1%、低濃度域重水では約3%であった。
本法は装置の構成が簡単であり、熟練を要しない。
触媒の活性が低下した場合には、空気又は酸素で処理することにより回復でき長期間の使用が可能である。
水はわれわれをとりまく自然や生活の至る所に存在し、その果す役割は極めて大きい。
生体系、非生体系を問わず、その挙動や作用を知ることは非常に重要な事である。
重水が安全であるのに、放射性のトリチウムがトレーサーにこれまで利用されているのは、前者は簡便な分析法がなく、一方後者は極めて感度よく分析することが可能であったからである。
今回、全自動重水分析計を開発したことによって、今後、重水を用いる研究がますます発展することを期待するものである。