石炭液化油の構造解析

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中小企業団「先端工業技術応用要覧」(s59〜60年度)抜刷
1989年3月 北海道工業開発試験所技術資料 12,14-15

 石炭の液化油は、その大部分が複雑な芳香族炭化水素からなる多成分系混合物であり、その化学構造の解析には構成炭素や水素の結合形態に関して知見を与えるプロトレ核磁気共鳴法(1H-NMR)が広く用いられている。 しかし、各種結合形態の水素量から炭素量に変換するさい脂肪族炭素と水素の結合比について仮定を要し、それゆえに算出される各構造指数値に多少の誤差が含まれることは避け難い。
 これに対して13C-NMR法は、炭化水素の炭素骨格について直接情報を与えるところから1H-NMR法における欠点を補う解析法として早くから注目されてきた。 しかし13C核の天然存在比が1.1%と低く、しかもその磁気回転比が1H核の約1/4にすぎないことから、13C核の検出感度は1H核にくらべ約1/6000となり、石炭液化油のような複雑な天然化合物の測定はきわめて困難であった。 その後プロトン連続照射によるプロトンデカップリング法の開発およびパルスフーリェ変換によるスペクトルの積算が可能になってから、天然化合物でもS/N比のよいスペクトルが得られるようになった。
 ここでは、標準試薬の化学シフトデータと液体クロマトグラフィー(LC)によって分別した液化油の芳香族環別分別物のスペクトルから、芳香族炭素の各グループの化学シフト範囲を定め、これらの面積強度比から構造常位に関する各構造指数値を算出した。 さらに芳香族環に対しα位の脂肪族炭素の帰属、定量法についても検討を加え、各LC分別物のα位脂肪族炭素の分布を求めた。 その結果、つぎのような結論を得た。
(1) 芳香族炭素は水素化芳香族炭素((115.0)〜129.2ppm)、内部炭素(129.2〜132.5ppm)、置換炭素(132.5〜149.2ppm)の3グループに分割でき、置換炭素はさらに137.2ppmで2グループに細分剖できる。
(2) その結果、これらの炭素の面積強度から、Brown-Ladner法の各構造指数を直接算出できるようになった。
(3) さらに、メチレン橋を除くα位脂肪族炭素(α-CH3基、アルキル基、ナフテン環のα-CH2基)の帰属、定量が可能となり、液化油の芳香族部分の骨格構造のみならずアルキル側鎖やナフテン環などに関する構造的知見も得られるようになった。
(4) 以上の結果、13C-NMR法による液化油の構造解析が可能となり、1H-NMR法よりも詳細に液化油分子の平均化学構造を推察できるようになった。