現在の透過電子顕微鏡(TEM)

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鈴木良和
1987年10月 北海道通産情報 42(10),44-45

 必要は発明の母と言われますが,人間の絶えることの無い欲望もまた科学技術を高める力になっています。 俗な表現になりますが“覗き”趣味もその類に漏れないようです。
 マクロな宇宙からミクロな原子に至るまで,人類は自分の目では見えない世界にロマンを求め,さらにそれを確かめるため莫大なエネルギーを費してきました。 ここに紹介する透過電子顕微鏡(TEM)も,はじめは光学顕微鏡の世界(10-3mm程度)から電子の理論と技術の発達に伴い,光より遥かに波長の短い電子線の利用でさらにミクロな世界(10-7mm)へと,我々の飽くことのない願望を実現させたものと言えます。
 TEMは,1932年ドイツで誕生し,発達しました。 戦後,我が国においてもこの分野の研究,開発には目覚ましいものがありました。 1956年頃には薄膜状(0.4〜1μm程度)の金属を直接TEMで観察する方法が確立されました。 その結果,金属内部の結晶構造にみられる転位のような格子欠陥が直接観察できるようになりました。
 さらに物質を構成している結晶の格子像を,TEMを使って観察することが試みられました。 この試みは,はじめ格子間隔の大きな白金フタロシアン(11.9Å)で成功しましたが,我が国では1963年に金属結晶(金:2.35Å)でも結晶格子像を分解し得ることを示しました。 その後,銅(1.8/Å)についても観察され,20年前にすでに格子像に関する限り,分解能は2Åを越えていました。