高感度酸素消費測定-微生物呼吸特性への応用-

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田中重信/ 横田祐司/ 熊谷裕男/ 中田二男
1987年12月 北海道工業開発試験所報告 44,27-32

 比較的微量の酸素の消費量を測定することは,生物の呼吸(微生物,小動物,細胞組織)や化学反応(脱酸素剤,還元剤,金属の酸化)の特性を調べるうえで必要な技術である。
 液相中の酸素濃度の挙動については,溶存酸素電極により電気信号化できるので監視あるいは記録が可能である。 密閉系の液相中における酸素消費量は時間毎の溶存酸素濃度を測定することによって求めることができ(溶存酸素法),溶存酸素濃度の測定には滴定法または電極法が使われている。 しかし,通常の廃水試験法では,滴定法においては試水の全量を分析に供するため,また,電極法においては微量であるが電極自体が酸素を消費するために酸素消費の途中経過を連続的に求めることはできない。 また,水中の飽和溶存酸素濃度は20℃で8.84mg/lであり,このうち実際の測定に使うのは40〜70%が望ましいとされているので測定可能な酸素消費量は限られる。
 気相中の酸素消費量の測定には,変化量を反応容器内の圧力変化としてとらえるワールブルグ検圧計が広く用いられている(検圧法)。 温度による気体の体積変化の影響を受けないようにサーモスタット内で測定するが,測定中の大気圧の変化にも影響されるので,ブランク値の測定が必要である。 しかし,検圧法には読取りを人手に頼らなければならないこと,大気圧,液量,空間体積について補正計算が必要なことおよびマノメーター高さと閉鎖系内の存在酸素量によって酸素消費総量が限定されるという欠点がある。
 気相中の酸素消費量を測定するには反応容器に酸素ガスだめを接続し,ガスだめの体積変化から変化量を求める定圧下の検容法もある。 微量測定には,反応容器に接続した毛細管中への水の侵入量から酸素消費量を求めることもできる。 この方法は,変化容積を直読できる利点があるが,測定範囲がガスだめあるいは毛細管の容積の大きさで限定される。
 上記の各方法の欠点を解決したものに自動記録式呼吸計があり主として廃水のBOD(Biochemical Oxygen Demand)の測定や化学物質の生分解性試験に用いられてきている。 これは,密閉反応容器内で酸素が消費されると圧力が減少するが,この圧力変化を検知し,もとの圧力に回復するように酸素を供給して,その供給量から酸素消費量を求める定圧定容法を原理的に採用している。 溶存酸素法,検圧法及び検容法においては酸素消費に伴い液相中あるいは気相中の酸素分圧が低下していくのに対して,この方法では消費された量に応じて酸素が供給されるので酸素分圧は一定であり,また,このことは測定できる酸素量の範囲が反応容器内にはじめに存在する酸素量に限定されないことを意味し,前述の各方法にない利点となっている。
 ここでは,この自動記録式呼吸計を高感度化し,さらに酸素消費量をディジタル処理するに至った経過を述べ,これらの結果得られた装置特性を報告する。 また,この装置を用いて微生物の呼吸特性を測定した結果について報告する。