オゾンによる核酸の分解に関する研究
-第9章 ガス状オゾンによるBacillus属細菌胞子の殺菌-

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神力就子/ 石崎紘三/ 横田祐司/ 池畑昭
1986年3月 北海道工業開発試験所報告 40,69-75

 オゾンは水の殺菌剤としての長い歴史をもっており,水中の殺菌やウイルスに対する強い殺菌または不活性化作用が広く認められている。 しかし,気相あるいは固体表面殺菌剤としてのオゾンの利用は食品保存の分野で多少の使用例はあるが,非常に限られている。 現在,気相殺菌剤としては例えば医療器具や使い捨て医療器具の殺菌にはエチレンオキサイドやγ-線照射が,また微生物実験用安全キャビネットや病院のクリーンルームの殺菌にはホルマリンくん蒸や紫外線照射が用いられている。 しかし,殺菌操作の繁雑さや,使用後の換気に長時間を要するなどの問題点がある。 また後者の例に関連して,最近の遺伝子組換え技術の急速な普及に伴い遺伝子操作によって生ずる恐れのあるバイオハザードの完全防御対策が求められており,その一つの方法として実験に使用する安全キャビネット等の簡便で効果的な殺菌法が求められている。 オゾンの強い殺菌作用や最近のオゾン発生システムの進歩を考えるとオゾンを気相殺菌剤としてこれらの目的に使用することが可能と考えられる。
 ガス状オゾンの殺菌作用に関して,早くにはElfordらが0.05μg/l程度の低オゾン濃度でもある種の病原性細菌に対して殺菌効果があることを報告している。 また最近では,Masaokaらが病院のクリーンルームの殺菌にホルマリンとオゾンを使用して比較し,操作の簡易さや使用後の換気の容易さから実用的にはオゾンが有利であると結論している。 しかし,オゾン殺菌のデータは他の気相殺菌剤に比べて未だ非常に乏しく,利用拡大を図るためにはさらに多くのデータの蓄積が必要である。 本研究もこの目標に沿ったものであり,ガス状オゾンの殺菌作用をより明らかにすることを目的としている。 実験対象とした微生物はBacillus属細菌の胞子である。 胞子は薬剤や熱,放射線などに対する抵抗性が栄養細胞に比べてはるかに高く,そのため各種殺菌法の殺菌効果の評価には主に細菌胞子が用いられている。