オゾンによる核酸の分解に関する研究
-第8章 オゾンによるタバコモザイクウイルスの不活性化機構-

問合わせ ひとつ戻る DB入口へ トップページへ PDF(イメージ)を見る

神力就子/ 石崎紘三/ 横田祐司/ 池畑昭
1986年3月 北海道工業開発試験所報告 40,63-68

 第7章の緒言においてオゾンが水処理,環境問題の観点で近年,注目を集めていることにふれた。 本章ではオゾンによるウイルスの不活性化を取り上げるが,このことは水処理において特に重要な問題である。 すなわち現在使用されている塩素殺菌法が,ある種のウイルスの不活性化には不十分といわれているので,塩素より酸化力の強いオゾンのウイルスに対する効果を検討することは必要かつ重要であろう。 最近ではオゾンによるウイルス不活性化の速度論的研究は比較的多くみられるようになってきたが,不活性化機構に関する研究は少ない。 ウイルスが増殖していく過程にはいくつかの段階があり,不活性化機構の解明には,(a)タンパク質外被のオゾンによる損傷と中の核酸との相互作用や,(b)ゲノムRNAまたはDNAのオゾンによる損傷の検討が必要となる。 バクテリオファージφX174のオゾンによる不活性化ではタンパク質コートの損傷により脱タンパク質コートが不能となることが不活性化の原因であると報告された。 ファージf2ではタンパク質コートの損傷により宿主への吸着不能と内部RNAの部分不活性化,T4ではタンパク質コートの損傷によるDNAの放出が原因とされている。 ポリオウイルスtype-2もタンパク質コートの損傷で不活性化される。 ポリオウイルスtype-1は主としてRNAの損傷が不活性化の原因と報告されている。 著者らはタバコモザイクウイルス(TMV)を取り上げてその不活性化機構を検討したが,これはTMVが化学的,物理的変性を起こす要因に対して抵抗性が強いので,ウイルスのオゾン処理の1つの指標になるのではないかと考えたことによる。 TMVは長さ300nm,直径16nmの棒状ウイルスで,中心が8nmの中空になっている構造を取っており,95%(w/w)がタンパク質で構成されている。 すでに第2章において,TMV-RNAの失活がグアニン残基の優先的破壊に基づくことを明らかにした。 またタンパク質コートの破壊がTMVの不活性化の原因ではないことを示唆する結果を得たこともすでに報告した。 しかし,タンパク質コートに保護されたRNAがどのようにオゾンによって変性するかは,別途検討する必要があることをその時指摘した。 そこで今回はTMVからmRNAを取りだし,これをトリチウム標識し,これを用いてTMVタンパク質と再構成してトリチウム標識TMV(TMV*)を作り,これを用いてオゾンによるTMVの不活性化機構の検討を行った。