CP/MAS13C NMRによる石炭の構造解析
吉田忠/ 前河涌典
1985年3月 北海道工業開発試験所報告 36,19-25
石炭の液化反応特性は,炭種によって著しく異なることからその化学構造と密接に関係していることがわかる。
従って,石炭の化学構造を明らかにすることは,液化反応特性の解明と液化プロセスの設計に役立つ。
石炭の化学構造に関するVan Krevelenの先駆的研究以来,いくつかのモデル構造が提唱されてきたが,現在石炭は比較的小さな多環芳香族および水素化芳香族化合物を構造単位とし,それがエーテル結合やメチレン架橋によって互いに結合して高分子構造を形成していると考えられている。
この構造的知見は,ピリジンやキノリンによる溶剤抽出物や,構造単位間の架橋の切断のみを目的とした温和な反応条件下での水素化分解反応や加水分解反応によって得られた反応生成物の構造解析結果に基づいている。
しかし,石炭の溶剤抽出率が一般に低いことや,反応生成物の構造が反応によってある程度変化を受けたものであることを考えると,これら溶剤抽出物や反応生成物の構造解析結果は必らずしも石炭全体の化学構造を示しているとは限らない。
石炭の大部分は有機溶剤に不溶であり,従って従来の溶液核磁気共鳴法(NMR)では石炭全体の測定は不可能であったが,最近Cross-polarization(CP)法とMagic angle spinning法(MAS)を併用したいわゆるCP/MAS13C NMRの開発により,石炭を含む固体有機質試料の炭素分布の直接測定が可能になった。
既に,石炭や高分子物質の構造研究に適用した例が,いくつか報告されている。
本研究では,CP/MAS13C NMRを用いて石炭化度の異なる各種石炭の構造特性を明らかにする目的で,スペクトル中の各種炭素の帰属,炭素および酸素分布の算出,そして各構造指数の算出について検討を行った。