XPSによる鉄-クロム合金の深さ方向定量分析

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西村興男/ 矢部勝昌/ 岩木正哉
1985年3月 北海道工業開発試験所報告 36,1-7

 鉄-クロム合金は,代表例としてのステンレス鋼にみられるように耐食性に優れた特性をもち,腐食性の強い環境のもとで多用されている。 更に,最近では,鉄にイオン化したクロムを注入することによって,表面に従来にない組成・構造をもつ合金を作製する試みがなされている。 また,合金を基板として,その上にセラミック薄膜を成長させることによる耐熱性,耐食性,耐摩耗性のさらに優れた先端材料への新たな展開も試みられている。
 このような材料の開発研究においては,その特性を左右する表面層,あるいは表面被膜および膜と基板との界面の溝造・組成を知ることが重要である。 そのために,それらを高精度で定量的に評価する分析法の確立が必要となる。
 イオン照射することによリ,表面を削り取りながらX線光電子分光(XPS)で測定する分析法は,表面から深さ方向の化学構造・組成の分布状態を分析する手段として,最近,合金の表面層の分析など多くの研究に用いられ始めている。 しかし,この測定法では分析精度の向上のために,感度係数を適正化するとともに,エッチングによって表面の組成が変化するいわゆる選択スパッタリングの影響を把握する必要がある。 この点に関しては現在研究が十分とはいえず,個々の事例についての基礎的な検討が必要である。
 XPSによる深さ方向の分析例として,クロム鋼の不働態皮膜の構造,耐食膜の構造,メッキ等被覆膜の構造などがある。 しかし,これらの中に選択スパッタリングの効果にまでふれて定量化を行ったものはない。
 本報告では,二成分系鉄-クロム合金を対象として,アルゴンイオンスパッタを併用したXPSによる深さ方向分析における感度係数の適正化と選択スパッタリングの影響を調べ,その結果をもとに表面から深さ方向の組成分布について高精度な定量化の可能性を検討した。