トリチウム除去および重水濃縮用疎水性触媒に関する研究
-第1編第1章 水-水素間同位体変換触媒の開発-
佐藤俊夫/ 大越純雄/ 高橋富樹
1984年3月 北海道工業開発試験所報告 34,4-8
現在,天然水を直接原料とする工業的重水製造法として,水-硫化水素間交換反応を利用する方法がある。
すなわち,高温で重水素を硫化水素に抽出し,低温で硫化水素から小量の水に逆抽出する“二重温度交換法”である。
水-硫化水素二重温度交換法は米国で開発され、カナダで改良され重水製造を単一目的とするプロセスとして実用化され,GS(Girdler-Spevack)プロセスと呼ばれている。
この方法は,触媒なしで進行するので便利であるが,硫化水素は猛毒であり,かつ腐食性がはげしく人口過密な我が国では,環境保全上から考えても好ましくない。
これに代わる方法として,水-水素間同位体交換反応が注目されている。
この方法は,上記のような欠点を持たないだけでなく平衡的にも有利である。
また,本反応は重水中及び軽水中のトリチウム除去にも利用できる。
この水-水素間交換反応は触媒を必要とするが,この触媒開発にこれまでに数多くの研究が行われたにも拘わらず進展しなかった。
1972年カナダが,続いて米国が水-水素間交換反応用触媒に関する特許を出願した。
その内容は,従来の親水性担体の代わりにポリテトラフロロエチレン(PTFE),ポリエチレン,ポリスチレンなどの疎水性担体を用いるか,PTFEコーティングで白金-炭素触媒を疎水化する触媒製造法である。
これにより水-水素間同位体交換反応を行わせることが可能となったが,実用化のためにはなお幅広い検討が必要であった。
そこで我々は,カナダ,米国の特許を基に疎水化の処理をした多数の親水性多孔質粉体を,あるいは疎水性の多孔質粉体を担体とする白金触媒を試作し,その触媒活性を比較し,この疎水性効果を確かめると共に,より高活性かつ長寿命の触媒を開発すべく研究を行った。
その結果,カナダ型の被覆型触媒とは異なり,多孔質疎水性担体に白金を担持することにより,高活性な触媒を得ることができた。