タール酸の成分検索ならびに分離に関する調査
-緒言-

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尾辻三徳
1963年10月 北海道工業開発試験所技術資料 5,1-2

 現在,石炭タールのように成分数が数百にもおよぶ複雑な有機混合物を,分離することなしに同定する方法はない。 従って石炭タールの分析はこれらの成分を如何に有効かつ迅速に分離するかにあるといってもよい。
 1940年以前までのタール成分の分離に関しては専ら蒸留,抽出,再結晶,官能基反応等による物理および化学的方法によってタールの主要成分が確認されていた。 しかしこれらの方法による一成分の確認定量ですら多大の熟練および時間を要し,到底近代化学工業の要求する速度に即応するものではなかった。
 1940年頃からクロマトグラフィー(ペーパーおよび液体クロマトグラフィー)が出現するようになり,従来の方法では困難であった類似物質の分離が比較的容易となってきた。 ペーパークロマトグラフィーは従来まで全く不可能であった極微量試料中の成分分析に適用された。 しかしこれも万能ではなく展開分離にかなりの時間を要し,また同定の手段として利用される吸着帯の移動率Rfの再現性ならびに分離能の点で必ずしも十分でないなどの欠点がある。 このためクロマトグラフィーによる分析に先だって精密蒸留により沸点範囲が数度以内であるような多数の留分に小分けしなければならないし,また物質同定には必ず標準物質を必要とする。
 液体クロマトグラフィーも石炭タール成分の分離に適用されたがその例は比較的少い。 これは比較的多量の展開用有機溶媒を必要とすること,分離剤として用いられるシリカゲルあるいはアルミナゲルの活性の制御が困難であること,吸着分離過程において物質が変質しやすいことなどの理由によるものと思われるが,反面m-,p-クレゾールが比較的簡単に分離定量できることは注目に値する。
 1952年にガスクロマトグラフィーが出現して分析の迅速化が促進され,分析結果を工程制御に利用できる程度にまで進歩してきた。