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【地域トピックス−砕骨材業の現況と将来−】

この数年,近畿地方では新規に開設された砕石場を殆ど見掛けません.新規に砕石場が開設されない主な要因は,長引く経済不況のために各種の公共土木・建築工事が激減したことが挙げられます.砕石場で生産される砕骨材はその用途の大半が土木・建築資材であり,公共土木・建築工事の激減は砕骨材業の業況に致命的な打撃を与えました.今日の経済社会は,生産品(製品)の需要(消費)と供給(出荷)の関係で成り立っていますが,特に砕骨材業はその業況が生産品の砕骨材の内需に大きく左右されるようです.

一方,稼行・操業中の砕石場・砕骨材業もかつてない厳しい経済不況下で生産品の在庫増に苦しんでおり,原石採取に伴うコストの大幅削減を行う傍ら,砕骨材の土木・建築資材以外の新たな用途開発や自らの業態を異分野の事業などに広げたりして活路を求めている,と思われます.

「異分野への事業進出」といえば,この数年の近畿地方の砕石場・砕骨材業の業態は,産業廃棄物等の処理業の兼業化に特徴的に現れています(但し,すべての砕石場ではありません).

私は,こゝ数年の砕石場・砕骨材業の業態変化は阪神大震災がその大きな転機になった,と推察します.阪神大震災では,倒壊した家屋などの急場の廃材等焼却処理場として砕石丁場が利用されました.産業廃棄物は昨今では,その種別により中間処理と最終処理に分別され,さらにその処理方法も様々に異なりますが,いずれの処理でもリサイクルプラントを建設したり,廃棄物を埋め立てたりすることに変わりはありません.したがって産業廃棄物処理業を兼業する砕石場は,砕石丁場にこれらのプラントを建設し,或いは廃棄物を埋め立てることになります.

このことが搬入される廃棄物量の増えるにしたがって本業の原石採取の障害にならないか,大変懸念されます.また,産業廃棄物処理業は他業種に比べて法による規制や地域住民の眼が特に厳しく,法と地域住民双方の厳しい監視の眼が本業の原石採取にもある種の影響を与える可能性があります.

他方,近い将来の情報化社会における砕骨材業は,原石採取から砕骨材生産〜在庫管理〜出荷に至るまでの一連の生産・管理工程を,すべてコンピュ−タ制御による集中管理に移行することが求められています.

例えば,砕石採取切羽における原石採取はGPSを利用する穿孔作業や無人採取システムの導入,砕石切羽から採取した原石の集石・積み出しは自走式ダンプトラック誘導システムやベルトコンベア搬送システムの利用,砕石生産プラントは原石ビンへの投入から粒度調整及び製品ビンの在庫量管理に至るまで制御生産システムにより記録・監視・操作を行う,などとすべての行程を無人化・高度化するものです.

これらのシステム構築は労働災害の軽減やコストの縮減,品質管理や環境保全などに有効な手段として認知されており,すでに大手砕骨材生産事業所では一部のシステムを実用化し,活用されているようです.

但し,このような砕骨材業のIT対応を大規模に推進するには,冷え切った日本経済の景気回復がすべてに優先する最大の条件であることはいうまでもありません.

(小村 良二,2004.10)

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