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【地域トピックス−骨材資源の無駄遣いをなくせ−】

大阪府の北部地域では,『二十世紀最後』とされる巨大地域プロジェクト−新都市建設が進行しています.去る4月25日には,一部地区の町びらきフェスティバルが開催されました.

「彩都」と名付けられるこの新都市の開発事業計画は,大阪市の中心部から北北東方へ約20kmの大阪府茨木市〜同箕面市に位置する丘陵地の約740haを開発・造成して,2012(平成24)年までに5万人の定住人口を擁する一大ニュータウンを建設・整備する構想です.新都市は西部・中部・東部の3地区に分割・整備され,このうちの西部地区は居住区画の造成が終了して分譲地や高層住宅などの販売がすでに始まっており,2007(平成19)年には大阪高速鉄道大阪モノレール彩都線(万博記念公園駅〜阪大病院前駅間を運行)の延伸工事も予定されています.

新都市の特徴は,居住スペース+学術研究・文化施設+産業立地,をイメージした産学共存の複合型「国際文化公園都市」と位置付けられていることでしょう.新都市の事業計画は大阪府・茨木市・箕面市,都市基盤施設の事業主体は都市基盤整備公団ですが,新都市の開発事業は民間主導による「つくば型」といえるものです.そのため,新都市は生命科学の国際交流などを都市機能として整備していることを最大の売り物としており,生命科学関連の研究施設などの建設・配置と,隣接する豊中市や吹田市などに立地する阪大の蛋白研や千里ライフサイエンスセンターなどの諸研究機関や国際協力事業団の研修施設などとのネットワーク構築が強調されています.

日本経済が長期不況に喘いでいるにもかかわらず,大阪市近郊の北摂地域ではこのような巨大地域プロジェクトの新都市建設・整備事業が進行しているのです.

ところで,新都市の建設先行地である西部地区が立地する箕面市の丘陵地は,私にとっては思い入れの深い土地です.私は1973(昭和48)年に,箕面丘陵(高度118〜60m)を構成する大阪層群(鮮新−更新統の堆積物)の地質調査を行い,同丘陵の大阪層群の層序を明らかにしました(地調月報vol.25,p.527−534:1974).当時,同丘陵は未開発で手つかずの自然が多く残っていました.丘陵の底地には湿原が広がり,そこには食虫植物の貴重種モクセンゴケが一面に群生しており,また,各処の水溜まりには多くの水生昆虫が生息していました.新都市の西部地区の建設・整備事業に係る開発・造成工事では,箕面丘陵のこれらの湿原などに生息した動植物の保護がなされたのか私は疑問を持っています.

一方,箕面丘陵に連続する東方の茨木丘陵には,新都市の中・東都地区の建設・立地が予定されています.ここは大阪層群中部層とその上部の砂礫層が広く分布し,この砂・礫を土木建築用の骨材として採取する砂利採取場が稼行していました.また,その北方地には基盤岩(丹波帯の堆積岩コンプレックス)の砂岩・粘板岩(頁岩)が発達しており,砕石(丁)場が数カ所でこれらの岩石類を採掘していました.新都市の開発・造成工事により,これらの砂利採取場や砕石(丁)場は廃止されました.

一般に,山地や丘陵地を開発して住宅団地などが造成される場合,開発予定地に位置する砂利採取場や砕石(丁)場は地権者等の権利放棄などに伴って廃止されるようです.その際,開発事業者は廃止された砂利採取場や砕石(丁)場の未採取の原石(切羽残壁)を,骨材として使用せずに,造成用の埋立てや盛土などの土木資材に回すことが多いようです.

このことは,「砕骨材資源の用途変更」の一言で終結するような問題ではありません.砂利採取法や採石法に基づいて採掘され,JIS規格に準拠して生産される砕・骨材原石を,埋立てや盛土などの土木資材として転用することは資源の甚だしい無駄遣いです.

勿論,埋立てや盛土などの土木資材も,土木・建築工事には必要不可欠でしょう.しかし,昨今は山地・林地などの開発規制強化や環境アセスメントの実施などによって,全国的に砂利採取場や砕石(丁)場の新規開設・立地が極めて困難になっています.砕・骨材原石の供給不足を招来しないためにも,資源の無駄遣いは避けるべきです.開発事業者は,砕・骨材原石の採掘生産の重要性を再認識してほしいものです.

(小村 良二,2004.5)

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