国立研究開発法人 産業技術総合研究所


環境動態評価研究グループ
update2020/1/21
  主な研究内容
  大気エアロゾルの発生源予測

PM2.5やSPMなど環境基準値が設けられている大気中の粒子状物質(エアロゾル)濃度への、国外などからの長距離輸送による影響が社会的関心を集めている。大気エアロゾルの国内・国外発生源の寄与割合の推定は、これまで鉛と亜鉛の比など金属2成分比法などにより試みられてきた。この考え方を拡張し、Chemical Mass Balance法を変則運用して、福岡で日毎に捕集されたPM2.5中の一次粒子に対して、黄砂・長距離輸送・ローカル発生の3つの発生源の寄与割合の推定を試みた。

(a)長崎の国環研ライダー観測データ解析による2011年4月29日〜5月7日の土壌粒子(非球形)と球形粒子の割合, (b)CMB法変則運用で推定された福岡のPM2.5中の8種の一次粒子に対する黄砂 (Asian Dust)、長距離輸送 (Long-range)、ローカル発生 (Local) の寄与割合 (エアロゾル研究, 31 (4), 287-297 (2016)より転載)。

関連特許・論文
知財: 特願2015-156393 「ハイボリューム・エアサンプラー装着用PM2.5分級器」
論文: Kaneyasu, N. et al., Atmos. Environ., 97, 416-425 (2014).

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  炭素循環の定量化と気候変動シグナルの検出を目指した大気主成分組成の高精度観測

大気の主成分である窒素(N2)・酸素(O2)・アルゴンArについて、そのO2/N2比およびAr/N2比や安定同位体比を高精度で観測することにより、陸上生物と海洋による化石燃料起源CO2の吸収量や、海洋貯熱量および大気循環の変動として現れる気候変動のシグナル等、地球温暖化の実態解明と対策立案に有用な情報が得られると期待される。本研究ではこれらの成分の高精度観測手法を開発し、他機関と連携しながら各種の観測プラットフォームにおける長期広域観測を展開している。

図1:大気中の酸素濃度(O2/N2比)とアルゴン濃度(Ar/N2比)の変動要因とその観測から得られる情報の例。

図2:つくばにおける大気中O2/N2比(上)、CO2濃度(中)およびAr/N2比(下)の観測結果。

関連論文
Ishidoya and Murayama. Tellus 66B, 22574 (2014); Ishidoya et al. Atmos. Chem. Phys., 13, 8787-8796他

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  陸域生態系の二酸化炭素固定能評価・炭素循環解明に関する研究

将来の気候変動の予測や地球温暖化の緩和策、適応策を策定していくためには、長期間にわたって大気中の温室効果ガスの動態に関する観測を行い、その循環を定量的に評価していくことが必要です。これまでに観測・評価手法の開発を行い、各研究機関や大学等と協力して、国内外において観測を実施してきました。その中で、産業活動等により大気中に排出された二酸化炭素(CO2)の吸収源として重要な役割を担っている陸域生態系のCO2固定能を、気象学・大気化学的なアプローチにより評価する研究にも取り組んできています。岐阜県高山市の森林観測サイトでは、1993年から現在まで、観測タワーを用いた森林生態系による正味のCO2吸収量(NEP:正の値が吸収)、大気中CO2濃度、各種気象要素等の観測を実施し、NEPのデータは、アジア域で最長、世界的にも有数の長期のものとなっています。また、安定同位体比等の観測も実施し、さらに生態学やリモートセンシング等に関する研究者と協力して、NEPやCO2濃度の変動要因や当森林における炭素循環の解明に関する研究も進めています。得られたデータは、観測ネットワークのデータベースに登録し、様々な分野の研究者等に利用されています。



図1.岐阜県高山市の森林観測地おける観測タワー

図2.岐阜県高山市の森林観測地で観測された(上)大気中CO2濃度の日平均値および(下)正味のCO2吸収量の月平均値の変動。

関連論文
Murayama et al. Journal of Geophysical Research, 115, D17304 (2010) 他

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  熱帯アジアにおける陸域生態系と気候変動、人為活動の相互影響の研究

当グループでは、岐阜県高山市の広葉落葉樹林のほか、熱帯アジアの大陸部の陸域生態系の典型例として、タイ中西部カンチャナブリ県にある国立公園野生動植物保護局メクロン流域研究ステーション、東北部ナコンラチャシマ県にある科学技術研究院サケラート環境研究ステーションの熱帯季節林において、現地機関の協力のもと、観測塔を利用した森林生態系による大気中二酸化炭素の吸収量をはじめとする環境諸量の長期観測に取り組んでいます。熱帯アジアでは、エルニーニョ現象などにより年々の気候の差が大きく、生物季節が大きく変動し、また頻発する森林火災や開発など、人為活動の直接的な影響も受けて絶えず変化し、気候変動問題のみならず、生物多様性、広域大気汚染などの地球環境問題も関与しています。長期連続観測と並行して、このような変化を検出・記録するための、定点カメラ映像の長期記録を用いた植生の動態、特に生物季節の解析手法を開発し、現地で運用するなど、産総研ならではの環境計測・情報技術の研究開発にも取り組んでいます。


サケラート環境研究ステーション内森林観測塔


メクロン流域研究ステーション内森林観測塔
関連文献等
Maeda, T. et al., Tropical Forestry Change in a Changing World, 167-182 (2009)
特許第4280823号(2004年2月24日出願)

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  都市の気候とエネルギー需要の予測

我が国によるアジア諸国へのインフラ輸出戦略の決定や温暖化対策技術の評価・提案に資することを目的に、都市の気候とエネルギー需要の予測が可能であり、かつ各種対策技術の導入効果が評価可能なツール(数値モデル)の開発に取り組んでいる。本ツールが、現代での都市の気象および電力需要の時間変化・空間分布を精度よく再現できること(下図)を確認後、アジアのメガシティにおける気候とエネルギー需要の予測を実行中である。

図 夏季における電力需要の水平分布. (a) 測定値、(b)ツールによるシミュレーション(ケース名:P-AC). 電力需要の時間変化. (c)一戸建て住宅、 (d)マンション、 (e)オフィス. (Takane et al 2017より)

関連論文
Takane et al.(2017), Int. J. Climato., in press. doi: 10.1002/joc.5056
高根ほか(2015)日本建築学会環境系論文集, 80 (716), 973-983. 他

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  エアロゾル粒子とその先駆物質に関する物理・化学特性の解明

気候変化をもたらす要因の一つに、人為起源エアロゾル粒子とその前駆物質に関する濃度の増加が挙げられます。エアロゾル粒子は太陽放射を直接的に散乱・吸収し、また雲の凝結核として働いて放射収支に対して間接的に影響を及ぼします。人為起源エアロゾル粒子の増加は、概ね地球を冷却するように働きますが、その定量的な評価には多くの不確かさが残っています。われわれはこの不確かさを低減させ、人為的エアロゾル粒子の環境影響を正確に評価する必要があります。そのためには、エアロゾル粒子の自然状態を把握していなければなりません。そこで、汚染大気と清浄大気において、エアロゾル粒子の個数濃度、化学組成、光学特性などのデータを野外観測により取得し、これらの対比を基に、エアロゾル粒子の地球規模での実態把握と人為汚染の環境影響評価を行っています。現実大気における観測の実施は、新たな知見を蓄積するだけでなく、気候変化の将来予測を絶えず検証・修正するための基礎データを収集することから、極めて重要な意義を持っています。

エアロゾル粒子の個数濃度と大気DMS濃度は海氷域で減少した。これは、海水中のDMSと海塩粒子の大気への放出が、海氷によって妨げられているからである。海氷はエアロゾル粒子の濃度に影響を与えている。海氷域で見られる大気DMS濃度の急激な増加は、砕氷艦「しらせ」の砕氷行動により生じた海氷の亀裂から、大気へDMS放出があったことを示しているにすぎない。

砕氷艦「しらせ」の第一観測室に設置したエアロゾル粒子の各種計測装置

関連文献
Koga et al., 2014. Variation of dimethylsulfide mixing ratio over the Southern Ocean from 36°S to 70°S. Polar Science, 8, 306-313.

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  大気微量成分の地表面抵抗の測定(室内実験)

大気微量成分の環境挙動、特に海洋、雲、エアロゾルや土壌等が関与する過程を解析するために必要な気液平衡定数や加水分解速度定数等の物理化学定数を室内実験で測定してきました。現在は、乾性沈着に関わる地表面抵抗の測定に取り組んでいます。
 大気質モデルにおいて、大気微量成分の地表面抵抗(乾性沈着を抵抗モデルで表現した場合に最も地表面近傍の物質移動に関する抵抗)は、地表面が水で覆われていると仮定して、大気微量成分の水溶性または水中での反応性を指標とし、基準物質(地表面抵抗の観測データがある大気成分:二酸化硫黄またはオゾン)と指標を比較することにより推定しています(スケーリング法)。いくつかの大気微量成分について、スケーリング法が適用できる場合とできない場合の環境条件を明らかにすることを目指して、大気微量成分の地表面抵抗と気液平衡定数等との関係を、図のような装置等を用いて室内実験で調べています。

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  高感度分光法による環境分子の観測

大気中には様々な分子・微粒子が存在し、会合・光反応等の物理化学的過程を経ることで我々を取り巻く環境に大きな影響を与えています。 そのような分子の振る舞いを、実験室の制御された条件下で高感度計測技術(マトリックス単離分光法、CRD分光法)を用いて観測し、計算科学的手法を援用した解析により、基礎的な知見を積み上げていくことを我々は目標としています

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産業技術総合研究所 つくばセンター西
環境創生研究部門