低・未利用資源を活用した可溶性ヘスペリジン素材の開発
Development of the soluble hesperidin material
which utilized low unused resources

長崎県工業技術センター 食品開発支援センター 主任研究員

中山  久之

  ミカンに含まれるヘスペリジンは、血流改善などの機能性を有し、成熟したミカン果実よりも摘果される未熟果に高濃度に含まれています。 しかし、ヘスペリジンは水に極めて難溶のため、体内への吸収量が少ないことから、食品等への加工展開が制限されていました。 これまでに、摘果ミカンを緑茶三番茶葉とともに製茶機械で揉み込んで乾燥させることで、テルペン系の香りを有する発酵茶(以下、ミカン発酵茶)が製造でき、含まれるヘスペリジンの溶解性が向上することを明らかにしています。 そこで、当センターでは、ミカン発酵茶の特性解明や実用化に向けた取り組みを行っています。
  ヘスペリジンの分子は、疎水性のへスペレチン部分と親水性のルチノース部分から構成され、水溶液中ではヘスペレチン部分が強固に会合することで結晶となり、このことが水への溶解性低下の主要因となっています。 ミカン発酵茶は、カテキン類や紅茶ポリフェノール類といった水溶性成分を含んでいますが、これら成分がヘスペリジンのへスペレチン部分と会合し、ヘスペリジン同士の結晶化を妨げ、全体として水和されやすくなることが溶解性向上の主要因と推察されます。 また、動物実験により、ミカン発酵茶を摂取すると、紅茶ポリフェノール類が腸管での細胞間隙輸送系を開口させ、ヘスペリジンの腸管吸収が促進されることを明らかにしています。 さらに、ミカン発酵茶の摂取で、血圧、冷え、肩のこり、疲労感、睡眠の質、血管の柔軟性などが改善することをヒトで確認し、これらの効果は可溶化したヘスペリジンの作用である可能性が高いことを明らかにしています。これまでに、長崎県内外の企業がミカン発酵茶を使って、機能性表示食品としての上市や届出を行っています。
  原料として用いた摘果ミカンは上述の通り、ほとんど廃棄されており、緑茶三番茶葉も、渋みの要因であるカテキン類を多く含むため、下級茶として取り扱われ、生産調整のために刈り捨てられるなど有効利用されていません。 これら低・未利用資源の特性を活用し、機能性の高い食品を開発することは、農業振興やSDGsに貢献するうえで非常に有効な方策です。 ミカン発酵茶は既存の製茶設備で製造できるため、長崎県のみならず、ミカン産地や茶産地を有する地域への普及が期待できます。


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