遺伝子発現量をコントロールする塩基配列の発見と
バイオものづくりへの展開
Discovery of nucleotide sequences that control gene expression and their development in bio-manufacturing
細胞分子工学研究部門 最先端バイオ技術探求グループ 主任研究員末永 光
新規な生命現象の発見は、学術的に重要だけでなく、新規なバイオテクノロジー創出への可能性をも秘めています。たとえば、CRISPR/Cas システムという新奇な獲得免疫機構の発見が、今まさに画期的なゲノム編集技術へと応用展開を遂げつつあります。
我々は、メタゲノム手法によって、培養不可能な環境中の微生物群集からの遺伝子資源の探索・収集・評価を行ってきました(化学と生物, 53(8), 488-490. (2015))。
その過程で、芳香環の分解に関わる酵素 (C23O: catechol 2,3-dioxygenase) の遺伝子の上流に存在する、機能不明の連続した9塩基ユニットのタンデムリピート配列の存在と、そのタンデムリピートの繰り返し数の多型を偶然に発見しました。
ここで我々は、本タンデムリピート配列は偶発的に生じたものではなく、生命にとって意味がある現象であろうと推測し、人工合成したタンデムリピート配列を含むC23O遺伝子を、大腸菌プラスミドにクローニングすることを試行しました。
この結果、本配列の繰り返し数の違いによって下流に存在する遺伝子の発現量が変化するという、興味深い生命現象が明らかになりました。
この現象は、タンパク質の大量発現や、遺伝子発現制御装置としての、合成生物学への展開が大いに期待できる生命現象であると考えています。また、従来のように、単に強力に目的タンパク質の増産を目指すための遺伝子工学装置ではなく、目的遺伝子の発現量を繊細に調節するための装置、つまり「遺伝子発現ボリューム」に展開し得る可能性をも持っています。さらに本配列は、微生物、動物、植物など、自然界の様々な生物に広く保有されていることも示されています。
つまり本配列は、生命が普遍的に保有している遺伝子発現調節システムであることが示唆されており、このことは本配列を適用した遺伝子工学装置が、様々な生物種の遺伝子発現系に適用できる可能性を示しています。