ダイバーシティ推進室ダイバーシティ推進室

 > 組織 > ダイバーシティ推進室 > 科振費「女性研究者グローバルエンカレッジング」 >理科・算数っておもしろい  >氷のお話
氷のお話

平野さん
まず、クイズに挑戦してください。コップに水を入れて冷凍庫に入れたとき、 何度になると水が凍り始めるでしょうか? 次の中から、答えを選んでください。
[1] 4℃、 [2]0℃、 [3]0℃以下
4℃じゃないかな。
それなら理科の授業で教わったわ。0℃でしょ。
 正解を言う前に、この図を見てください。 水の凍り始める温度を熱量計(示差走査熱量計)という分析器で調べた結果の一つです。
熱量計は、物質が反応したり相転移(液体が固体になるなど)したりすることで、その物質から放出/吸収される 熱量を測定することができます。
この図の場合ですと、まず水の入った容器の温度を常温(開始)から下げて行くという操作を行っています。
図の縦軸は、周りの環境と水の入った容器との間の熱移動量(熱流束)を示しています。
こんな分析器があるんだ!
 さて、緑の太線で描かれた熱流束の変化を開始時点から追って行くと、 温度が−21℃に下がったときに、熱流束が急激に大きく減少しています。
これは、この温度で容器から外部へ熱が放出されたことを意味しています。 容器には水しか入っていませんから、水が凍って凝固熱(融解熱)を放出したことが わかります。
したがって、今調べている水は、−21℃で凍り始めたということになります。
ということは、クイズの答えは・・・
答えは、[3]0℃以下ということになります。 標準大気圧下では、0℃よりも高い温度で水が凍ることはあり得ません。 解答例の4℃は、水の密度が一番大きくなる温度です。
なぜ0℃で凍り始めないのですか?
 その理由は物質の持つ自由エネルギーという量を考えることによって説明できるのですが、 数式や図を使うことになるので、
ここでは感覚的な例えで簡単に話しましょう。
仮に、皆さん一人一人が水の分子になったとして、広場で目隠しをして整列している様子を想像してみてください。 一人一人が秩序正しく隣り合って並んでいる状態は固体、すなわち氷の状態に当たります。
そこで、気温が0℃に上がって各自が自由に移動しても良いという合図があったとすると、 たとえ目隠しをしていても一人一人は列から離れて自由に動き回ることができます。
それが,氷が融けて液体の水になる過程に当たります。逆に、気温が0℃に下がって全員が整列するようにという合図があったとします。
自由に動き回っている人どうしが整列するのは、容易ではありません。
その一番の理由は、どこを基準にしてどう並んで良いかが、目隠しをしていて容易にわからないからです。 すなわち、整列の合図があったからといって、
すぐに整列して元の氷の状態に戻ることは容易ではありません。
水の凝固が0℃で始まりにくいのは、どの分子とどの分子が出会い、最初のきっかけとして横並びになるのかという確率的な条件に、
その過程が依存してしまうからです。 分子一つ一つの自由な動きは低温になるほど遅くなり、分子どうしの距離が縮まるので、
整列の確率は低温になるほど大きくなります。先ほどの水道水の場合、−21℃になったときに、複数の水分子がたまたま整列し、
その列に他の水分子が繋がって列を形成し、一瞬で氷になったということです。
水の分子って生き物みたいなんですね!?
家の冷凍庫で氷ができなかったことなどないのですが、どうしてですか?
 整列は確率的なきっかけで始まるので、広場の人の数が多いほど、すなわち水分子の数(=体積)が 大きいほど、より0℃に近い温度で凍り始めることができます。
コップに入れた清浄な水は、−6〜−7℃程度になれば、(確率的に)必ず凍り始めます。
さらに、水の中やコップの壁に付いた不純物、冷凍庫内にある霜などは、分子の整列を手助けするので、 日常生活の上では、0℃に近い温度で凍り始めることになります。
その現象を利用した技術ってどんなのがありますか?
 物質の過冷却現象を上手く利用すると、熱損失の小さい潜熱蓄熱(相転移を利用する熱エネルギー貯蔵)を実現することができます。 私の開発したSuper-TESでは熱の貯蔵時の必要以上の
高温、あるいは貯蔵中の再加熱が不要か、ごく僅かで良いので、 それらのエネルギーを有効に利用するのにも都合が良いことになります。
もう少し詳しく、その Super-TES というのを教えてください。
 Super -TES は、水といった蓄熱材の温度が凝固点を下回っても、凝固開始温度以上の過冷却状態の準安定的な液体のままで、
大きな凝固熱を貯蔵したままで存在することができるようにしたものです。
これは、凝固の始まる温度や結晶の成長状態を、蓄熱材の量や温度で制御したものです。 (詳しい応用研究例は 産総研TODAY 2008年8月号を参照してください。)
凍らせるという技術を高度化したものなんですね。
効率の良い長期蓄熱技術が実用化されれば、地球環境にやさしい自然エネルギーの有効利用、 未利用熱の有効利用を促進させることができるものと信じています。
今日は面白い話、ありがとうございました。

平野聡 博士(工学)
(独)産業技術総合研究所
エネルギー技術研究部門

ご専門・・・
機械工学(熱工学・伝熱)

ご略歴・・・
産総研の前身の研究所に就職、現在に至る。


注:このページは、産総研の前身の研究所の一つ、資源環境技術総合研究所の月刊誌『NIREニュース』の 2001年3月号の記事を元にしています。