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いにしえの技(蒸留技術)のお話

中岩さん
中岩さん
ここでは、はるかいにしえの昔に生まれた技(わざ) のお話をしたいと思います。
男の子 いにしえ、っていうのは いつくらいのことですか?
中岩さん 紀元前です。紀元前に、香料を精製するために使用されるなど、最も古くから使われている化学技術のひとつに 蒸留技術 というのがあります。原理は、加熱による溶液の蒸発と、冷却による凝縮により溶液成分の沸点差で液体を分離するものです。
女の子 紀元前ですか!
中岩さん 紀元前3500年頃には花弁や葉から香料を集めるために原始的な形式の蒸留装置が使われていた形跡が残っています。 また世紀初頭(約2000年前)のギリシャの錬金術の書物には当時の典型的な蒸留器が図示されています。
紀元初頭の蒸留器
紀元初頭の蒸留器 一本体、頭部、受器、そして加熱炉から構成される
(EJ.ホームヤード、錬金術の歴史1957(大沼正則監訳)朝倉書店1996)
男の子 錬金術と関係あるんですね。
中岩さん はい。蒸留技術の発展を語る際に欠かせないものが錬金術です。 錬金術(自然魔術)の重要な技術として、蒸留はイタリア ルネッサンス期には様々に応用されてきました。
女の子 「錬金術師」というと、怪しげな人物、無からでも価値のあるものを簡単に生み出せると 主張して人々を惑わす詐欺師的人物、といったイメージがあるのですが・・・。
中岩さん それまでの人々の間での自然の理解をかたち作っていたものは錬金術と、もうひとつ、占星術でした。 これらはその当時には「科学的」な概念のみならず、呪術的、オカルト的な価値観を含んでいたのです。 それが近代的な科学の出発点として整理されていった背景にはそれらの経済的な価値への認識があったように思われます。
男の子 錬金術を使ってどのような経済的な価値を生み出したのでしょうか。
中岩さん 錬金術師は蒸留術により様々な有用物を生み出しましたが、蒸留術の生産物として最も有名で広く知られているものは 強いエタノール飲料、すなわち蒸留酒でしょう。
13世紀にはワインからブランデーの原型が造られていました。スペインあたりが最初のようです。 中世には エタノールが作られています。これは「いのちの水」と呼ばれ、 修道院などで薬草を漬け込んで医薬品として使われていました。
女の子 いのちの水を作り出したのですね。
中岩さん スペインで作られた蒸留酒の製法はイタリアからフランスに渡りコニャックなどのブランデーが生み出されました。 これとは別に、スペインから海を越えてアイルランドを経てスコットランドに至り、ビールを蒸留する技術となりました。 スコッチウイスキーの誕生です。 その後この技術が北上して北欧4カ国に来てその名もずばり「アクアヴィット(いのちの水)」ができます。 ジャガイモを主原料とする蒸留酒です。アクアヴィットにはハーブで香りを付けた独特の風味のあるものも作られています。 ここから東に進んでロシアの大地でウオツカになりました。 さらにタイやインドネシア、中国を経てわが国で泡盛、焼酎が生み出されたのは言うまでもないでしょう。 ヨーロッパからコロンブスにより新大陸に伝えられた蒸留術によりカリブの海賊を元気にしたラム酒、情熱の国メキシコの竜舌蘭から テキーラが作られます。 これら以外にも多くの国で多様な原料から作られる多彩な蒸留酒があります。 それぞれ個性的であり、個々の国、地域の文化に深く根ざして祭りや儀式には欠かせないものとなっています。
テキーラ(メキシコ)の町にあるモニュメント
テキーラ(メキシコ)の町にあるモニュメント
周りに植えられているサボテンのような植物が竜舌蘭
男の子 世界中に広まったようですね !!
中岩さん 話は変わりますが、エジンバラ在住の女性作家のベストセラー小説であるハリーポッターシリーズをご存知でしょう。 現在のイギリスを舞台にして、異世界にある魔法使いの学校での生徒たちの活躍を描いたものです。 映画も同じくシリーズ化されています。その第1作で大ヒットしたのが「ハリーポッターと賢者の石」です。
女の子 勉強熱心な女の子も出てきますね!
中岩さん タイトルにもある「賢者の石」がストーリー上重要な役割を果たします。賢者の石は錬金術には欠かせないアイテムです。 これは鉄のようなありふれた金属を金に変えるものと紹介されますが、作用としては、ようするに触媒です。 賢者の石を溶かして精製するものとして「いのちの水」が登場します。
私たちは映画の中の架空の魔法魔術学校の授業風景に驚きますが、もし中世ヨーロッパの蒸留ギルドが現在の 学校の授業参観 に来て、その内容と目的を知ったならば、高度に体系化された「錬金術」「蒸留術」に驚き、多額の寄付をしてくれたかも! 大いに研究の連携が発展したかもしれませんね。
みんな 今日はおもしろいお話をありがとうございました!!

中岩勝博士 中岩勝博士
(独)産業技術総合研究所
環境化学技術研究部門 部門長


注:このページは、関西化学機械製作株式会社での講演資料(2004年9月)を元にしています。