ゴム靴底の成分分析

事例No.

HG-0002

概要

床が汚れる不具合が発生したゴム製靴底について、ゴムおよび添加剤の観点から原因を検討した。靴底の赤外分光(FT-IR)測定および燃焼灰の元素分析により、添加フィラーの分析を行った。また、靴底熱分解物のFT-IR測定により、ゴム成分を推測した。無機フィラーやゴムブレンド比の違いが、不具合原因になった可能性が考えられた。

お困りごと・要望

靴の製造委託先を変更したところ、床に黒く汚れが付着する不具合が発生した。ゴム製靴底のゴム種や添加剤を分析して原因を検討したい。ゴムには天然ゴム(NR)やスチレンブタジエンゴム(SBR)が使用されていると推測されるが、詳細なサンプル配合は指定しておらず不明。

事例提供機関

サンプル

白色のゴム製靴底(アウトソール)。

分析方法

靴底片について、ATR法によりFT-IR測定を行い、成分を定性分析した。空気中にて靴底片のTG-DTA測定を行って有機成分を燃焼させ、無機成分残渣(燃焼灰)を作製した。燃焼灰について、SEM-EDSにより元素分析を行った。低分子有機成分を溶剤中で抽出除去した靴底片を、試験管中で熱分解し、得られた蒸気(熱分解物)をFT-IR測定することで、ゴム成分を推測した。

分析結果

[図1: 靴底片のIRスペクトル]両サンプルにおいてシリカ(SiO2)、良品のみにおいて炭酸カルシウム(CaCO3)に由来する吸収が観測され、それらが添加されていると考えられた。
[図2: 燃焼灰のEDSスペクトル]良品においてCaの信号が強く検出された。TG-DTAの重量減少およびEDSの元素分析から、有機成分と無機フィラーの主成分比(試料配合)を概算した。有機・無機各成分の重量比や、無機フィラーの体積に大きな差はなかった。そのため、材料内部に抱えきれないオイルなどがあふれ出ることで床を汚したことは考えづらいと思われた。
[図3: 靴底熱分解物のIRスペクトル]両サンプルにおいてSBRおよびNRの熱分解物に由来する吸収が観測され、SBRとNRがブレンドされていると考えられた。また、ゴムに対応するピークの強度比から、良品の方がNRのブレンド比が高いと推測された。
上記の結果から、①良品に添加されたCaCO3、②SiO2の添加量、③ゴムブレンド比が靴底の特性に影響する要因として考えられた。滑剤であるCaCO3の添加により、適度な滑りや耐摩耗性向上に繋がっていた可能性がある。また、NRは耐摩擦性に優れるため、NR比が高い良品は、床を汚さなかった可能性がある。

関連装置

コメント

ゴムの熱分解物のFT-IRによる定性分析は、JIS K6230に記載されています。有機成分(ゴム・樹脂・添加剤)の正確な推定や、さらに詳細な組成比の分析が必要な場合には、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)の使用が適すると思われます。今回の検討項目のほかに、フィラー分散性やブレンドモルフォロジーなども物性に影響する要因となり得ます。

適用可能な材料

高分子複合材料。熱分解物のFT-IRによる定性分析はゴム系のみ(ただし吸収ピークが重複するゴムがブレンドされている場合は判別が難しいです)。

分析事例討論会

R6年度 分析事例討論会